「日本一働きたい会社」から「世界最高のチーム」へ
経営理念に命を吹き込む、企業文化のつくり方
株式会社LIFULL 執行役員 人事本部長
羽田幸広さん
日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」を運営する株式会社LIFULL は、2017年3月、リンクアンドモチベーション社主催の「ベストモチベーションカンパニーアワード」で283社中第1位を獲得。世界最大級の働きがい専門研究機関であるGPTW(Great Place to Work)による世界50ヵ国を対象とした調査で「働きがいのある会社」ベストカンパニーに7年連続で選出されるなど、「日本一働きたい会社」として注目を集めています。同社は、いかにして企業文化を醸成し、社員がモチベーション高く働ける職場をつくってきたのでしょうか。同社執行役員 人事本部長 羽田幸広さんに、お話をうかがいました。
- 羽田幸広さん
- 株式会社LIFULL 執行役員 人事本部長
(はだ・ゆきひろ)1976年生まれ。上智大学卒業。人材関連企業を経て2005年6月ネクスト(現LIFULL)入社。人事責任者として人事部を立ち上げ、企業文化、採用、人材育成、人事制度の基礎づくりに尽力。2008年からは社員有志を集めた「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位を獲得。7年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011年~2017年)、健康経営銘柄選定(2015年度、2016年度)など、企業として高い評価を得るまでに導いた。著書 :『日本一働きたい会社のつくりかた』(PHP研究所)
会社とは経営理念を実現するために組成されたチームである
貴社では「社是」「経営理念」「ガイドライン」を明確にし、組織に浸透させることに注力されています。まずは、その理由についてお聞かせください。
当社では、「社員は経営理念を実現するために集まった“同志”」であり、「会社は経営理念を実現するために組成された“チーム”」であると考えています。経営理念は、複数の人間が集まった組織が一丸となって成果を出すために欠かせないものです。そもそも、目指すものが不明確であれば、そこに集まった人たちは何をすればいいのかわからず、組織として成り立ちません。「何を目指すのか」「なぜ目指すのか」「どのように目指すのか」を社是・経営理念・ガイドラインを通じて明確にしておくのは、組織として当然のことだと考えています。
羽田さんが入社された2005年当時から、それらの理念は言語化され、社員に浸透していたのですか。
私が入社する2ヵ月前の2005年4月に、社是・経営理念・ガイドラインが記載された「ビジョンカード」が初めてつくられました。当時は従業員50人規模の組織でしたが、全社員参加の合宿を経て、経営陣と社員が議論しながら決定したと聞いています。ただ、この段階では経営理念を実現しようとする意志はまだ弱いものだったのではないでしょうか。私の入社後に行われた選抜海外研修で、アメリカのネット通販企業「ザッポス」を視察した際に、そのことを痛感する衝撃的な体験をしました。ザッポスは徹底した顧客サービスで有名ですが、その仕事場を見ただけで、従業員一人ひとりがザッポスという企業のコアバリューを体現することに喜びと誇りを感じていることが伝わってきたのです。社員が裁量を持ち、自発的に顧客や仲間のために行動する姿がそこにはありました。
「毎日、職場に来る理由はなんですか」と問われたら、多くの人はなんと答えるでしょうか。従業員全員が「自分たちのビジョンを実現するためだ」と答えられる会社があったら、それはとてもすばらしいことですし、そんな職場をつくりたいと心から思いました。
社是や経営理念を組織に浸透させ、社員に体現してもらうために、どのような工夫をされていますか。
大きくわけて三つあります。一つ目は、ビジョンを明確にすること。先ほどお話したように、当社では2005年からビジョンカードをつくっていますが、ガイドラインについては4~5年に一度見直しを行っています。それも経営陣が決定したものを配布するのではなく、有志の社員が集まって数ヵ月かけて議論し、全社員にアンケートをとったうえで再考するスタイルです。社員が主体的にビジョンについて考え、決定し、組織への浸透度をチェックするサイクルをまわしています。
二つ目は、ビジョンやカルチャーと一貫した経営活動を行うこと。たとえば、事業のつくり方一つをとっても、私たちの経営理念に沿わないようなビジネスは行いません。私たちが大切にしている世界観にフィットした事業を展開しています。いくら儲かるからといって経営理念から外れるようなサービスは行わない、ということです。日々の意思決定においても理念やガイドラインに沿って判断しますし、すべての人事施策が経営理念やカルチャーを体現するようにつくられています。
三つ目は、ビジョンやカルチャーに合った人材のみを採用すること。当社の選考では「ビジョンフィット」「カルチャーフィット」「ポテンシャル」「スキルフィット」の順番で人材を見極めるようにしています。経験や能力といったスキルよりも、私たちのビジョンに共感しているか、会社のカルチャーに合うか、将来成長できそうかを重視しています。スキルを持った経験者を採用することもありますが、ビジョンやカルチャーへの共感・理解があることが大前提です。
貴社では、新卒入社者よりも中途入社者の割合のほうが大きいとうかがいました。他社での勤務経験のある中途入社者のほうが、貴社独自のカルチャーになじむのは難しいのではありませんか。
基本的には、新卒も中途も同じだと捉えています。当社では社是に「利他主義」を掲げていますが、社会人経験がなくまっさらな状態の学生でも、利己主義な人を利他主義に変えることは難しいでしょう。何か考えを変えさせたり、無理やり考え方を合わせてもらったりするのではなく、私たちのビジョンに興味を持ってくれた人に仲間になって欲しいと考えています。そのために必要なのは、新卒も中途も変わらず、私たちが掲げるビジョンや大切にしている価値基準を丁寧に伝えていくことです。特に中途採用であれば、仕事の内容や給与条件は伝えても、社是や経営理念について募集段階から伝える企業は少ないかもしれません。しかし、当社の場合は最も大事な選考基準なので、人材紹介やメディアを通してしっかりと伝え、その内容に共感してくださる方だけを採用することを徹底しています。