新卒採用で会社を変える、業界を変える
徹底した「社員第一主義」を貫く、国際自動車の若手採用・育成の極意
国際自動車株式会社 専務取締役
渡邉 啓幸さん
ここ数年、新卒就職は売り手市場が続いています。国の調査では、2019年3月大学卒業予定者の就職内定率は77.0%。1997年の調査開始以来、同時期で過去最高を記録しました。そんな学生優位の状況下で、新卒入社者数を伸ばしている企業があります。「kmタクシー」でおなじみのタクシー業界大手、国際自動車株式会社です。2019年4月に入社した新卒のドライバーは137人。コンスタントに100人を超える若者が同社を新卒1社目に選んでいるのです。さらには「3年以内の離職率は10%以下」と高い定着率を実現。なぜ、不人気といわれてきたタクシー業界にこれほど多くの新卒が集まるのでしょうか。また、どのように若手を育て、定着につなげているのでしょうか。同社専務取締役 渡邉啓幸さんにお話をうかがいました。
- 渡邉 啓幸さん
- 国際自動車株式会社 専務取締役
(わたなべ・ひろゆき)/ 1980年中央大学法学部卒業後、テレビ番組・CM制作会社のテレコン・ジャパンに入社。総務、人事、経営企画部を経て、分社制度を確立。91年にANZEN Group株式会社に入社。タクシー事業全般を担当し、2006年に専務取締役に就任。11年1月M&Aにより国際自動車株式会社に転籍、同年6月に取締役に就任し、タクシー部門責任者を務める。14年に常務取締役に就任。16年から新卒採用に関わる。16年より現職。
新卒採用で、会社を変える、業界を変える
貴社が新卒採用を始めた経緯を教えてください。
当社がタクシードライバーの新卒採用を始めたのは2010年。それまで総合職は新卒採用を行っていましたが、タクシードライバーは中途採用のみでした。ただ、活動が難航していて、なかなか人が採れない状況が続いていたんです。その理由の一つは「タクシー業界のイメージの悪さ」。実際には働き方や仕事の中身などが随分改善されていたのですが、世間的な印象は昔のままで、決して良いとはいえませんでした。業界のイメージを向上させるには、まず、当社自体が変わらなくてはいけない。そのきっかけとして、新卒採用を行うことにしたのです。
もちろん、新卒採用が容易ではないことはわかっていました。投資する労力も時間も想像以上だろうと。しかし、学生が就職したくなるような会社を目指すことにより、今まで業界の中にいて気づけなかった課題を発見できるかもしれません。その課題を改善していきながら、新卒採用に本気に取り組んでいることを社会にアピールすることで、業界の内外にインパクトを与えられるのではないかと考えたわけです。
2010年当時、新卒のドライバー採用を行っていたタクシー会社はなかったそうですね。新卒採用を行うこと自体、大きな挑戦だったと想像します。
大学を卒業したばかりの若者が、最初の仕事としてタクシードライバーを選ぶなんて、誰も想像しませんよね。当社も、新卒採用を始めてから3年は特に苦労しました。「タクシー会社が新卒採用をやっているの?」と不思議がられ、合同会社説明会に参加しても、一人も着席してくれません。ようやく内定を出せても、親御さんの反対にあい、辞退されてしまう。試行錯誤を繰り返しながら、一つひとつ社員と共に考え、成功体験を積み重ねてきたのです。
雰囲気が変わったのは、採用を始めて4年目の2013年に、前年の約3倍となる42人の新卒ドライバーが入社してからでしょうか。それまで10人前後で埋没してしまっていた若手のボリュームが増え、いろいろな意見がもらえるようになりました。新卒ドライバーの入社は、翌2014年に113人と初めて100人を超え、それ以降はコンスタントに100人を超える新卒者が当社でドライバーとして働くことを選んでくれています。
「すっぽんぽん採用」「仮面就職」をかなえた経営陣の若手尊重意識
売り手市場の今、就職活動の入り口である「会社説明会」に学生を動員することも難しいと聞きます。貴社は不人気業界というハンディキャップがあるなか、なぜ、たくさんの学生の動員に成功しているのでしょうか。
最初に手がけたのは、採用課の新卒採用チームを「20代の若いメンバーで構成する」ことです。まだ業界や会社の常識に染まっていない社員に、どうすれば学生に興味を持ってもらえるか、アイデアを出してもらいました。
そうして生まれたのが、私たちが長年大切にしている「すっぽんぽん採用」や「ありのまま採用」、「仮面就職」という採用プロモーションです。「すっぽんぽん採用」や「ありのまま採用」では、「学生も企業も一切着飾ることなく長所も欠点もぜんぶさらけ出して本音で語り合いましょう」というメッセージを発信しました。「仮面就職」には、「当社に定年まで勤める気持ちがなくてもいい。働きながら本当にやりたいことを見つけたい就活生を応援します」という意図が込められています。
ただ待っているだけでは、合同会社説明会で学生に立ちどまってもらえません。まずは、目立たないとダメなんです。「すっぽんぽん採用」を始めるときは、社長を銭湯に連れて行って服を脱いでもらい、若者と一緒に風呂につかっている写真を撮って、ポスターをつくりました。社内からは大ブーイングでしたよ。「そこまでやるのか?」って。ただ、数多ある企業のなかで、タクシー会社の話を聞いてもらうためには、奇抜なアイデアが求められます。他社と同じことをやっていても、学生に振り向いてはもらえませんから。
社員が新しいアイデアを発案したとき、「前例がない」「会社の常識に反する」と意見を退ける職場もあるなか、貴社では積極的に若手の意見を採用していらっしゃいますね。
経営陣で考えても良いアイデアが生まれないから20代の若手社員に頼っているのに、そこで私たちが口を出してしまったら、意味がありませんからね。最終的なジャッジはしますが、基本的には若手が発案したアイデアに反対せず、口を出さないように気をつけています。最初は試行錯誤で、とにかく何でもやってみることが大切です。ベテランから反対意見が出ることもありますが、そんなときこそ経営陣や管理職の出番。若手を信じて、守って、最後までやり切ってもらうようにしています。
例えば、会社説明会や選考過程では、人事と学生はお互いにニックネームで呼び合っています。社内では社員同士「〇〇さん」と呼び合うことを推奨しているので、入社後と選考過程で呼び方が変わることに、疑問の声もありました。しかし新卒採用チームは、「学生と心を通わせ、本音で話してもらえる関係になるために必要だ」と、どうしてもニックネームで呼び合いたいわけです。最終的には、ニックネームで呼び合うことは選考過程限定であると学生に理解してもらったうえで、この取り組みを継続することにしました。