OJTリーダー制度で、
創業130年の企業文化に新しい風を
古河電工が取り組む組織風土改革とは(後編)[前編を読む]
古河電気工業株式会社 戦略本部 人事部 人材育成(採用・教育)担当部長
上原 正光さん
古河電気工業では、昔からの企業文化を大切にしつつ「人と人との横のつながり」を強化するため、教育体制の見直しによる組織力最大化を目指しました。その取り組みの一つが「OJTリーダー制度」です。一般的にOJTというと、トレーナーが手取り足取り新人をサポートするイメージがあります。しかし、同社が推進するOJTリーダー制度では、OJTリーダーはあくまでアレンジャー役。チーム全体で新人教育に取り組むことで、社内の対話を生み、相互理解し合える組織風土の醸成を狙うというものです。「前編」に続き、人事部・人材育成担当部長の上原正光さんにお話をうかがいました。
- 上原 正光さん
- 古河電気工業株式会社 戦略本部
人事部 人材育成(採用・教育)担当部長
うえはら・まさみつ/1987年入社。光ファイバの日本幹線網構築に向けた光ファイバ母材合成工程の量産化技術開発に携わった。研究から製造への技術移転、工場建設、母材大型化技術開発を担当した後、海外技術部で光ファイバの海外市場対応を担当。2002年資材部に異動し、グローバル集中購買、購買システムによる購買価格低減活動を担当。2006年営業企画部に異動し、海外販売会社管理を担当する傍らマーケティング教育に携わる。2008年から人事部で教育を担当。2012年に現職として教育、採用を担当。
目的をしっかり説明し、人事がサポート
OJTリーダー制度は、OJTリーダーを中心に、現場の社員を巻き込み、新人を育成する仕組みです。現場で実践してもらうために、人事部としてどのような点を工夫されましたか。
まずは、OJTリーダー制度の目的として、新人の教育だけでなくOJTリーダー自身の育成や組織活性化を目指す、と伝えています。第1回の研修で、OJTリーダーたちには取り組みを通じてどのような成長を期待しているのか、しっかりと説明しているのです。実際、OJTリーダーの活動で良い変化が見られる社員は多く、新入社員の配属がない部署からも「部下育成のためにOJTリーダー研修に部下を参加させたい」と申し出があるほどです。
実際にOJTリーダーとして育成に取り組んでもらう上では、人事部として、できるだけ具体的に説明することを意識しています。例えば、「対話をしてください」ではなく、「新入社員の困りごとを聞いてあげてください」と言った方が、受け取る側も分かりやすく、行動に移しやすいですよね。
そのほかには、数年間の実績をもとに、各部署からあがってきた課題や解決法といった知見を集約した「OJTリーダーハンドブック」も制作しました。「とても忙しそうで、サポートを頼みにくいチームメンバーがいる」「仕事を教える時、どうしても一部のメンバーに教育の負荷が偏ってしまう」といったOJTリーダーの悩みに対して、「新人が育てば、各担当の負担が減ることをメンバーに伝えてみては?」「仕事以外で教育すべきことを整理し、それをほかのメンバーに任せてみては?」など、解決案がいくつか提示されているものです。これによって、他の部署での取り組みを共有し、ノウハウを生かせるようになりました。
OJTリーダーハンドブックには、面と向かっては言えないような、新人の声も多数記載しています。「自分のことを棚に上げないでほしい」「自分の考えを持たずに質問しないでほしい」といった不満の声をまとめることで、OJTリーダーたちは自分自身の行動と照らし合わせ、顧みることができるのです。
OJTリーダー制度を導入して今年で7年目ですね。導入後には、どのような変化が見られますか。
制度を導入し、OJTリーダーと新人の面談をはじめた時、課長職の社員たちから「面談の場はすでに設けているので、新しい制度は不要だ」という声があがりました。しかし、実際に制度を開始してみると、新人やOJTリーダーからは、「職場では課長とじっくり話す機会が十分ではないので、面談の場を設けてくれてうれしい」という感想が寄せられたのです。課長層は十分にコミュニケーションが取れていると思っていても、メンバーにとってはそうではない。大きな意識の差があったのです。実際に制度を運用し、新人の成長を見るにつれて、課長や組織のメンバーにも、制度の意義が伝わっていったように思います。現在では、課長もOJTリーダーたちも、そして他のメンバーも、目的を理解し、面談に取り組んでくれています。
新人の面談の中であがった課題を、「部署の課題」だと捉える課長職も増えました。以前であれば、相談ができないのは「新人個人の課題」だと考えられてしまうことも多かったのですが、相談できない雰囲気や、先輩社員のかかわり方に問題があるのかもしれない。そう考えることができる社員が増えたことは、大きな前進だと思います。
OJTリーダー制度を通じて、新人の成長だけでなく、課長やOJTリーダーの成長、そして組織の活性化にもつながっているのです。