転職理由が超ポジティブ
つい「本音」を聞きたいと思ってしまうが……
転職支援を行うにあたり、人材紹介会社がもっとも重視するのが「転職理由」だ。圧倒的に多いのは「今の職場への不満、物足りなさ」だろう。新しい仕事を紹介する際には、その不満や物足りなさを解消できることが必須である。職場にまったく問題を感じていない状況で転職しようと考える人はいない、というのが人材紹介会社の常識だ。ところが近年「職場にも仕事にも不満はないが転職希望」という人が少しずつあらわれている。
まずは転職理由をお聞かせください
「転職理由ですか? そうですね、ステップアップでしょうか。違う環境も知りたいし、何より成長したいんです」
転職支援の第一段階では、必ず転職理由を確認する。これはどの人材紹介会社でも同じだろう。年収アップが目的で転職したいと考えている人に、同じ年収の仕事を紹介しても意味がない。転職理由の確認は、転職の成功のためにきわめて重要なのだ。
しかし、中には本当の転職理由をはっきり言わない人もいる。この日、転職相談を受けていたSさんもそういうタイプのようだった。転職理由が、ポジティブすぎるように感じたのだ。
「この場は面接ではありませんので、本音でお話しいただいても大丈夫ですよ。応募した企業には伝わりません。むしろ本音を言っていただいた方が、よりご希望にあった企業をご紹介できます」
転職を考えるきっかけには、年収が低い、残業が多い、人間関係がよくない、会社の業績が低迷しているなど、面接ではっきり言うことがためらわれるものが多い。転職に関するマニュアル本などにも、ネガティブな転職理由は伏せておいた方がいいと書かれている。実際、選考で不利になるのではないかと考えてしまう人は多い。
そんなときに、ポジティブな転職理由として出てきがちなのが、「成長」や「キャリアアップ」「ステップアップ」だ。しかしSさんは、転職の目的はあくまでもステップアップだという。
「今の職場に不満はまったくありません。ステップアップが転職理由だと厳しいでしょうか」
「いえ、決してそういうわけではありません。今の環境だと、ステップアップに時間がかかるのでしょうか」
そんなやりとりをしながら、Sさんを紹介できそうな企業を頭の中で絞り込んでいった。しかし、心の中のどこかに「Sさんはまだ本音で話してくれてないのでは」という思いが残ったままだ。しっくりとこない状態ではあったが、ほどなくSさんを推薦できる企業が出そろった。