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タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第51回】
2024年は、キャリアオーナーシップ経営で生産性と競争力を向上させる!

法政大学 キャリアデザイン学部 教授

田中 研之輔さん

タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ

令和という新時代。かつてないほどに変化が求められる時代に、私たちはどこに向かって、いかに歩んでいけばいいのでしょうか。これからの<私>のキャリア形成と、人事という仕事で関わる<同僚たち>へのキャリア開発支援。このゼミでは、プロティアン・キャリア論をベースに、人生100年時代の「生き方と働き方」をインタラクティブなダイアローグを通じて、戦略的にデザインしていきます。

タナケン教授があなたの悩みに答えます!

2023年は、人的資本経営、キャリア自律、リスキリングが注目された1年でした。2024年は、これらに企業現場でより具体的に取り組んでいく実践の1年となります。

人的資本経営、キャリア自律、リスキリングをつなぐのが、「キャリアオーナーシップ経営」です。キャリアオーナーシップ経営の意味や意義については、第30回のプロティアン・ゼミでも取り上げています。

キャリアオーナーシップ経営が、サステナブル経営や人的資本経営とどう重なり、どう異なるのか。このあたりにも触れておく必要があるでしょう。

まず、サステナブル経営では、顧客、人材、財務、社会の四つの長期的成長の創造に力点が置かれます。目の前の短期的な売上に左右されるのではなく、地球環境に配慮した長期的かつ持続的な経営戦略が大切にされています。それだけではなく、サステナブル経営では、従業員、顧客、機関投資家、社会などのステーク・ホルダー(利害関係者)のそれぞれの立場にも配慮しなければなりません。言わば、地球規模での健全な企業活動の推進を実現していく上で、非常に重要な役割を担っていると言えます。

しかしながら、企業現場で働く一人ひとりの社員からは、「大きな話で何から始めたらいいかわからない」「なかなか自分ごととしての手触り感がない」といった声も数多く耳にします。そこでより人材に焦点をあてたのが、人的資本経営です。社員はコストではなく、投資の対象であるという視点の転換は、経営戦略上、大きな意味を持ちます。さらに、人的資本の情報開示の動向とともに、2023年は人的資本経営に向けてさまざまな準備や取り組みが行われてきた1年でした。

サステナブル経営も人的資本経営も、情報の開示に力を注いでいますが、課題はその先にあります。一度開示した情報を、次の開示までにどう改善していくのか、という点です。これは今後、経営者の頭を悩ませていく問題と言えるでしょう。情報開示のために経営をしているわけではありませんし、より良く見せようとして、情報を操作するようなことがあってはなりません。それほど簡単には、開示データを改善できないのです。

この情報開示の改善に関して、特に、人材に関する分野で真正面から取り組むことができるのは、キャリアオーナーシップ経営です。その目的は明確で、それぞれの組織が生産性や競争力を向上させていくことです。それは、安易にグローバル資本主義の競争の結果に固執することを意味するわけではありません。この点は、サステナブル経営や人的資本経営の狙いともズレはありません。

それぞれの組織の適切な生産性や競争力を得ることで、経営者としての「選択肢」を獲得することなのです。社員一人ひとりの心理的幸福感を育てつつ、いかなる事業を持続させていくのかを、市場に翻弄されるのではなく、その都度、選択していくことのできる経営のあり方です。

特に、人的資本経営で情報開示された内容を改善していくには、社員一人ひとりの行動変容が不可欠です。この変容こそが、キャリアオーナーシップ経営の社会的役割であると言えます。

では、いかにして人材の変容を実現していくのかを見ていきましょう。まず、キャリアオーナーシップ経営では、これまでの組織内キャリア経営からの転換を図ります。組織内キャリア経営は、終身雇用、年功序列、企業別組合をベースにした「日本型雇用」の中枢戦略でした。社員のキャリアは、組織が決める。人事異動は会社の意向、社内公募制や社内外での副業・兼業も禁止する、統制型の経営でした。

しかし、ふたをあけてみると、若手社員はこれからのキャリア形成に悩み、ミドル社員は組織に依存し、シニア社員はモチベーションの低いまま組織にしがみついている。このような状態では、日本企業の生産性や競争力が向上するわけはありません。

キャリアオーナーシップ経営とは、単に社員のキャリア自律を促すことではなく、組織の再活性化に向けた「切り札」なのです。こうした変化に適合できない企業は、すでに優秀な人材の流出と求める人材の獲得難に直面しています。なぜなら、社員のキャリアオーナーシップを応援しない企業は、「社員に選ばれない」からです。

これからの会社と社員の関係性は、「選び・選ばれる関係」でなくてはなりません。情報や行動を統制する経営は、フィットしないのです。「では、何からはじめたらいいの?」という経営者のために、キャリアオーナーシップ経営の見取り図を提示しておきます。

キャリアオーナーシップ経営の見取り図

キャリアオーナーシップ経営では、経営戦略、事業戦略、キャリア戦略が欠かせません。自律型キャリアへの社内施策として、何から着手していけば効果があり、経営戦略上の「最適解」なのかを見定めていきます。

より明確に位置づけるならば、経営戦略と事業戦略をつなぐ動力源となるのが、キャリア戦略です。社員一人ひとりの人的資本を最大化させることで、経営戦略や事業戦略の構想を着実に実現させていくことができるのです。

そのため、定期的に社員のキャリアコンディションを把握し、その状態に応じて必要な施策を講じていくようにするのです。追い風も吹いています。

現状、キャリアオーナーシップ施策に取り組んでいる企業は、経営者のメッセージ発信、キャリア講演、eラー二ングによる社員のリスキリング・アップスキリング、1on1 、キャリア戦略会議(1onN)、社内公募制、社内内外副業・兼業、週休3・4日制度、社内アカデミー、アルムナイ、リモートワーク、フレックスタイム、時差出勤、社内公募制など、主体的なキャリア形成を応援するキャリアオーナーシップ施策を充実化させています。加えて、キャリアオーナーシップを推進していく新人事制度や人事評価の改定に取り組んでいます。

社員数や事業歴、事業特性を踏まえて、たとえば、3ヵ年でのキャリアオーナーシップ経営のロードマップを策定するなら、いかなる手順になるのかの検証を重ね、作り上げてきます。このロードマップは、現在、社内で検証されている各種のデータと合わせて検証していきます。組織内エンゲージメント調査、心理的幸福感尺度などと、キャリアオーナーシップがいかなる関係性にあるのかを導き出していきます。

キャリアオーナーシップが社会的に大きな役割を担っています。人生100年時代が到来し、これまでの働き方の前提が大きく変化する中で、私たちはこれからの働き方を創出していかなければなりません。社会の変化に適合していくために、キャリアオーナーシップを持って自律的に成長し、個人の力を最大化させ、自らの手でより良き未来を創っていくのです。

最後に繰り返しになりますが、サステナブル経営、人的資本経営、キャリアオーナーシップ経営は、どの視点も不可欠です。しかし、これらすべてを経営者が一人で実現していくことはできません。人的資本経営の情報開示や、社員の行動変容を伴走していくキャリアオーナーシップ経営でリーダーシップを発揮していくのは、人事や人材開発に携わる皆さんなのです。

2024年も、やりがいのある1年になりますね。一人ひとりの社員の「人的資本の最大化」をプロデュースしていきましょう!

田中 研之輔氏
田中 研之輔氏
法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/明光キャリアアカデミー学長

たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学。社外取締役・社外顧問を31社歴任。個人投資家。著書27冊。『辞める研修辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』、『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』、『プロティアン教育』『新しいキャリアの見つけ方』、最新刊『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』など。日経ビジネス、日経STYLEほかメディア多数連載。プログラム開発・新規事業開発を得意とする。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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この記事ジャンル キャリア開発研修

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アップスキリング
限界認知
キャリア
ラーニング・ブリッジング
キャリア自律
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リスキリング
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