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タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第47回】
ウェルビーイング経営の射程

法政大学 キャリアデザイン学部 教授

田中 研之輔さん

タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ

令和という新時代。かつてないほどに変化が求められる時代に、私たちはどこに向かって、いかに歩んでいけばいいのでしょうか。これからの<私>のキャリア形成と、人事という仕事で関わる<同僚たち>へのキャリア開発支援。このゼミでは、プロティアン・キャリア論をベースに、人生100年時代の「生き方と働き方」をインタラクティブなダイアローグを通じて、戦略的にデザインしていきます。

タナケン教授があなたの悩みに答えます!

変幻自在を意味する「プロティアン」という言葉は、不思議な力を持っています。私は特に二つの力を感じています。

一つ目は、すべての人に当事者意識を想起させる力です。プロティアンとは私のことだ、私もプロティアン・キャリアを形成していくことができると、誰もが感じるのです。若手、ミドルシニア、経営層、男性、女性など、すべての人のこれからのキャリアをプロデュースしていくことができます。プロティアンは誰一人として取り残さないのです。

二つ目は、すべてのテーマと連接していく力です。プロティアン・リーダーシップ、プロティアン・マネージメント、プロティアン・ダイバーシティなど、企業現場のありとあらゆるイシューにつながり、シナジーを生み出していきます。

これらの力は、「プロティアン」が形容詞であることにも起因すると私は考えています。プロティアンがさまざまなカテゴリーや状態につながり、より良いコンディションを創り出す動力源になっているのです。その意味でプロティアン・キャリアの広がりは、まだ、幕を開けたばかりに過ぎないのかもしれません。

さて、最近、よく依頼を受けるテーマの一つに「ウェルビーイング経営」があります。そこで今回のゼミでは、プロティアン知見からウェルビーイング経営の現在地や課題、そして、これからのプロティアン×ウェルビーイングの射程について一緒に考えていくことにしましょう。

Well-being(ウェルビーイング)とは、心身ともに良好な状態にあることを意味する概念であり、「幸福」とも翻訳されます。

1946年のWHO(世界保健機関)設立に際して、設立者の一人であるスーミン・スー博士が「健康」について定義した中で、Well-beingは次のように記載されています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。(出典:日本WHO協会)

従来の健康が身体的に良好な状態を表す狭義の概念であるのに対して、Well-beingは身体的・精神的・社会的にも良好な状態。より広い概念を表していて、また「状態」としていることからも一時的・瞬間的に良好かどうかではなく、持続的に良好であるとしていることが特徴です(引用:はたらくWell-being│パーソルグループ)

次に、ウェルビーイング経営についても考えてみましょう。まず、ウェルビーイング経営とは、社員一人ひとりのより良いキャリアコンディションを持続させる総合的かつ戦略的な経営手法だと整理することができるでしょう。

ウェルビーイング経営

このウェルビーイング経営が、企業現場に二つの歴史的転換を促しています。

1点目は、「利益ファーストから社員ファーストへの転換」です。企業は熾烈(しれつ)な市場で生き残るために、これまで利益を最優先してきました。高度資本主義経済下での企業活動では利益を生み出さない限り、市場に淘汰されます。その結果、社員が身体的・精神的なダメージを被ることも少なくありませんでした。ウェルビーイング経営は、社員一人ひとりの「本質的な働き方」を取り戻し、より良いキャリア形成を持続させる社会的挑戦と言えるでしょう。

2点目は、「組織内キャリアから自律的なキャリアへの転換」です。ウェルビーイング経営を実現するには、働く個人が組織に依存するのではなく、自ら主体的にキャリアを形成していくための人事施策や評価制度を整えていく必要があります。社内公募制度、社内外での副業・兼業、ダイバーシティ&インクルージョン、キャリア1on1など、この数年での企業側の取り組みは注目に値します。私が戦略顧問をつとめる「はたらく未来とキャリアオーナーシップコンソーシアム」には大企業36社が参画し、参画企業の社員数は約168万人になりました。主体的なキャリア形成を企業側がプロデュースしていく流れが形成されつつあるのです。

私が考えるウェルビーイング経営のポイントは、(1)ウェルビーイングを個人ではなく、集団の「状態」として捉えていくこと。肉体的・精神的・社会的な健康を個人の問題として捉えるのではなく、組織の問題として捉え中長期で取り組んでいくのです。ウェルビーイングな組織を創り、維持していく。そのための人事施策や評価制度に関する中長期計画を、人的資本の情報開示の機会を活かして、策定し公開していくことです。

さらに、(2)ウェルビーイング経営によるデータを継続的に分析し、公開していくことです。ウェルビーイングな状態で働けるようになったとしても、誰もが心身のトラブル抱えるリスクを内包しています。つまり、大切なことはウェルビーイングを持続させることにあります。個人が主体的なキャリア形成を通じて、ウェルビーイングなコンディションを維持していく。企業は社員一人ひとりがウェルビーイングを実現できるようにさまざまな施策を総合的かつ戦略的に運用していくようにするのです。

その点で、ウェルビーイング・コンディションチェックは、今後重要な役割を果たしていくようになるでしょう。会社携帯や会社PCから簡易版のウェルビーイングチェックを行い、個々のデータとしてストックされ、データの集積としてチーム、部署、会社の状態を可視化させるようにするのです。ウェルビーイングの内容を可視化させることで、より詳細な分析と具体的な解決策を構築していくことができるのです。

ウェルビーイング施策自体もプロティアンであれ。
ウェルビーイングを持続させるべく、私たち個人もプロティアンであれ。
「働く」を通じて、誰もがウェルビーイングに。

それでは、また次回に!


田中 研之輔さん(法政大学 教授)
田中 研之輔
法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/明光キャリアアカデミー学長

たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学。社外取締役・社外顧問を31社歴任。個人投資家。著書27冊。『辞める研修辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』、『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』、『プロティアン教育』『新しいキャリアの見つけ方』、最新刊『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』など。日経ビジネス、日経STYLEほかメディア多数連載。プログラム開発・新規事業開発を得意とする。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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この記事ジャンル 経営

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デジタルウェルビーイング
キャリア・アダプタビリティ
プロティアン・キャリア
アクティブレスト
ウェルビーイング