職場のモヤモヤ解決図鑑
【第28回】人事ができる社員の育休復帰支援!働きやすい環境のための制度や助成金
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
-
吉田 りな(よしだ りな)
食品系の会社に勤める人事2年目の24才。主に経理・労務を担当。最近は担当を越えて人事の色々な仕事に興味が出てきた。仲間思いでたまに熱血!
育児休業を取得する社員の支援と同時に、人員が減った現場への支援も必要であることに気づいた吉田さん。育休取得前から復帰後まで、双方をどのようにサポートしていけばいいのでしょうか。
社員の育児休業取得をどんどん後押ししたいけれど……
仕事と家庭の両立は、男女問わず働く人々が抱える大きな問題です。育児休業の取得率が上がることは、個人と組織の両方にメリットがあります。従業員は出産・育児でキャリアを中断されることがなく、企業は中堅社員を育成できます。さらに、育休利用者の増加は働きやすい環境づくりにもつながります。
一方で、育児休業後の職場復帰や、育休中の社員がいる現場の人員体制など、さまざまな問題があります。
育休を取得しても復帰できないかもしれない
「平成30年度雇用均等基本調査」によれば、2017年4月1日から2018年3月31日までの1年間で、育児休業就労後に復職した人の割合は、男性で95%、女性で89.5%となっています。育休を後押しする社会の流れがある一方で、必ずしも全員が育休から復帰しているわけではありません。
仕事と子育てのどちらかを選ぶのか、その理由はさまざまです。中には「職場の出産・子育ての支援制度が不十分」という理由で退職を選ぶ人もいます。育児に関わる制度を整え、かつ、誰もが働きやすい職場を作っていけば、このような理由で辞める人を減らせるかもしれません。
育休取得社員がいるチーム体制の見直し
「誰もが働きやすい職場」とは、育児休業対象者だけに限りません。育休中の社員が所属するチームの体制を考えることも、職場の環境整備に含まれます。
育休を取得する期間は、女性の約9割が「6ヵ月以上」。一方男性は、「5日未満」が36.3%、「5日~3ヵ月未満」が56.6%となっています(平成30年度雇用均等基本調査)。数ヵ月単位で休業することになると、仕事の割り振りの見直しや代替人員の検討が不可欠です。
育休取得者が発生したことにより、残された従業員に過重なノルマや行き過ぎた業務量を課すことは、現場の負担を増やします。こうした不満や育児休業への無理解は、マタハラやパタハラを生み出す可能性もあるため、注意が必要です。早めにチーム体制を見直し、社員の育児休業に備えることが求められます。
育児休業の取得と復帰を支援する制度や助成金
では、具体的に人事ができる育児休業の取得と復帰の支援とは何があるのでしょうか。「育休復帰プラン」と「両立支援等助成金」について解説します。
円滑な職場復帰を支援する「育休復帰支援プラン」
「育休復帰支援プラン」とは、厚生労働省が中小企業のためにまとめた育休取得と職場復帰の支援マニュアルです。「育休前」「育休中」「復帰後」のフェーズに分けたアドバイスに加え、「働き方の見直しのポイント」にも触れられています。
【育休復帰支援プランの職場マネジメント】
- 育休前:対象社員の業務の棚卸と業務分担の見直しと代替要員の確保を検討する
- 育休中:対象社員と定期的にコミュニケーションを図って社内の状況を知らせ、また、スキルアップ支援を行う
- 復帰後:仕事と育児の両立のためのサポート体制の構築する
- 働き方の見直し:多能工化、業務の見える化、ジョブシェアリングなど、組織全体の仕事の負荷を減らし効率性を向上させる施策が育休復帰を後押しする
育児と仕事の両立支援を行う企業への「両立支援等助成金」
現場の体制整備に活用できる助成金もあります。「両立支援等助成金」は、育児や介護などの家庭生活と職業生活の両立のため、環境整備に取り組む企業への助成金制度です。
「育児休業等支援コース」では、育休復帰支援プランを作成し面談などを経て、育児休暇の取得を後押しした企業に対し、社員の育休取得時や職場復帰時に助成金が支給されます。育休を取得した社員の代替要員を確保した際に支給される助成金もあります。
「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」では、男性社員が子どもの生後8週間以内に連続14日以上(中小企業は連続5日)の育児休業を取得し、企業が男性の育児休業に関する研修や資料配布を行うことなどを条件に、最大72万円の助成金が支給されます。育休取得を後押しする取組 を実施した場合の個別支援加算、新たに育児目的休暇制度を導入・取得した際に支給される助成金もあります。
このような助成金の活用は、組織の負担を減らし、育児休業取得者が出た際のチーム体制整備にも役立ちます。
社員が安心して育休を取得し円滑に復帰するための取り組み事例
最後に、社員の円滑な育休取得と復帰につながった企業の取り組みをご紹介します。
男性社員8割の企業で育児休業取得率をゼロから80%に|ローソン
2013年度に男性社員の利用者がゼロだった同社は、翌年「短期育児休暇制度」を設立。子どもが生後3ヵ月までなら5日を上限として育児休暇を取得できるという、社内独自の特別休暇制度(有給)を開始しました。
制度の狙いは、男性社員の育休のハードルを下げること。さらに、5日間という期間がコンビニ運営の事業にフィット。育休を取得した男性を社内報に載せたり、管理職向けにダイバーシティ研修を実施したりするなどして、「子育てしながら働く男性社員」の姿を広め、3年で男性の育休取得率を80%まで上昇させました。
休暇制度やツールの整備で多様な働き方を整える|サイボウズ
同社では2005年に離職率28%という危機に直面してから、多様な働き方ができる風土改革に取り組んできました。育児と仕事の両立のため、子どもの病気などの突発的事情に合わせて働く場所や時間を選ぶことができるよう整備。さらにテレワークが昨今のように普及する前から、在宅でも働けるようテレビ会議システムなどを活用し、育休に限らない多様な働き方を支えています。
【まとめ】
- 育児休暇の対象者には、制度の周知・育休中のコミュニケーション・復帰後の体制サポートが重要
- 育休の申し出があった際は、人事と現場の管理職で業務の棚卸を行い、代替要員の確保など円滑に働ける体制を検討する
- 日頃から、業務の見える化やチーム内でフォローする制度を整えておくことは、円滑な育休取得の環境づくりにもつながる
- 育児休業の取得促進に取り組んでいる企業は、政府の助成金を活用できる
- 育児休業の制度周知だけでなく、ダイバーシティ研修などを通じて管理職や、今現在育休取得対象ではない社員の理解を深めることで、家庭と仕事が両立可能な環境づくりにつながる
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!