人事マネジメント「解体新書」第113回
「ストレスチェック」が義務化されて3年が経過
従業員のストレスへの気づきや対処の支援、職場環境の改善はどう進んだのか?
2015年12月に「労働安全衛生法」の一部が改正、「ストレスチェック」「面接指導」の実施などを義務付ける「ストレスチェック制度」が導入された。制度導入から3年以上経過した現在、制度の主目的である従業員のストレスの気づきや対処への支援、職場環境改善などはどのように進んでいるのか。制度導入後の動向を追った。
1. 「ストレスチェック制度」とは
ストレスチェック制度の導入背景
最初に、ストレスチェック制度が導入された背景を整理しておこう。近年、過労死やブラック企業などが社会問題化する中、過重労働を防止するための取り組みが人事労務管理上、大きな課題となっている。企業には労働時間が適正かどうかを管理するとともに、従業員一人ひとりの健康状態やストレスに応じた業務配分を行うことが求められている。そこで2015年12月に「労働安全衛生法」が改正され、「ストレスチェック」「面接指導」などを企業に義務付ける「ストレスチェック制度」を導入、従業員50人以上の事業場(※)に対して実施されることになった。
事業場……支社や営業所、工場、店舗など、組織上、独立して業務が行われている場所のこと
ストレスチェック制度で重要なのは、ストレスチェックを受けることで、労働者が自分自身のストレスの状態をよく知ること。その結果を踏まえて労働者には、ストレスをため過ぎないように対処したり、ストレスが高い場合には医師との面接で助言を受けたり、会社側に仕事の軽減などの措置を講じてもらったりするなど、労働条件や職場環境の改善につなげていくことが求められる。このような取り組みを継続的に行うことによって、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防ぐことが期待できる。
ストレスチェックの概要
(1)ストレスチェックの仕組み(*)
ストレスチェックとは、ストレスに関する質問表に対して労働者が回答を記入、それを集計・分析することで、労働者本人がどのようなストレス状態にあるのかを調べる検査である。労働者が50人以上いる事業場では1年に1回、全ての労働者に対してストレスチェックを実施することが義務付けられている。
ストレスチェックの結果、高ストレス者と判断された従業員から申し出があった場合は、医師などによる面談指導を行わなければならない。また、面接指導の結果によっては、医師などから意見を聴取して時間外労働を制限するなど、就業上の措置を講じることが求められる。
ストレスチェックの対象
ストレスチェックの実施義務のある事業場 | 労働者数50人以上の事業場 |
ストレスチェックの対象者 | 常時使用する労働者(以下の要件を満たす者) ・期間の定めのない労働契約により使用される者 ・その者の1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること |
ストレスチェックの実施頻度 | 1年以内ごとに最低1回 |
ストレスチェックの検査項目
職場と仕事の状況 | 仕事の負担(量・質)、身体的な負担、仕事での裁量、スキルの活用度、職場での対人関係、職場環境、仕事への適性度、働きがい |
心身のコンディション(ストレス反応) | 活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体の症状 |
周囲のサポート・満足度 | 上司/職場の同僚/配偶者、家族、友人等のサポート、仕事・家庭生活の満足度 |
(2)ストレスチェックの効果・効用
ストレスチェックを行うことで、労働者・事業場においては、以下のような効果・効用が期待される。
労働者
- 自らのストレスの状態・原因を知ることができる
- ストレスへの対処(セルフケア)のきっかけとなる
- 面接指導を受けることで、就業上の措置へとつながる
- 職場改善へと結び付く
事業場
- 労働者のメンタル不調を未然に防止できる
- 職場の問題点の把握が可能となり、対応が進む
- 経営面でのプラス効果が期待できる
(3)ストレスチェックの実施者
ストレスチェックを実施する場合、担当者として「医師」「保健師」「精神保健福祉士」がその任に当たる。具体的な役割としては、「ストレス項目の選定」「評価基準の設定」「面接指導対象者の選定」「個人への結果の通知」「面接指導対象者への面接指導申し出の勧奨」などが挙げられるほか、ストレスチェックの企画・評価に関与する対応が求められる。
なお、労働者の解雇など人事権を持つ監督的地位にある者は、ストレスチェックの実施や実施に伴う事務へと従事することはできない。役員から関係者への依頼も、ストレスチェックの趣旨上避けたほうがよいだろう。
(4)ストレスチェック実施のステップ
ストレスチェックは、以下のような流れで実施される。
ステップ1:実施方法
ストレスチェックでは、チェックシート方式(いわゆる選択式)で回答する。その際、個人の検査結果が適切に保存され、本人・実施者以外は閲覧できないなどの要件を満たす必要がある。実施する時期は定期健康診断と同時でも構わないが、問診は定期健康診断とは別に行い、情報を適切に管理する仕組みが必要となる。
ステップ2:結果の通知
結果は、実施者から本人へ封書、電子メールなどで通知される。本人の同意がない限り、結果は事業者(※)へ提供されることはない。同意が得られた場合、労働者に通知する情報と同じ範囲内のものが実施者から事業者へ提供される。
※事業者……この場合はストレスチェックを実施する企業のこと
ステップ3:面接指導
ストレスの程度が高く、実施者が「面接指導が必要」と認めた労働者が面接指導の希望を申し出た場合、事業者は医師による面接指導を実施しなくてはならない。面接では、勤務状況や職場でのストレス、メンタル面での症状・心身の状態、周囲のサポートなどを確認する。その際、ストレスへの対処法や自己管理の指導を受け、うつ病などの疑いがあれば、専門医への受診を勧められる。また、医師から人事部門などに、仕事内容や職場環境について配慮するように意見が提出されることがある。職場ではその内容を聴取・検討し、何らかの配慮を行わなくてはならない。
ステップ4:集団分析
事業者は、検査結果を職場の一定規模の集団(部・課など)ごとに匿名化したデータを集計してストレスの状況を分析し、職場環境を改善するよう努めなくてはならない。なお、集団分析の単位が10人を下回る場合、労働者が特定される可能性があるので、集団分析を行うためには全ての労働者の同意を得る必要がある。
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