楽しく働き、成長することができる
「プレイフル」な学び方・働き方とは?(前編)
同志社女子大学現代社会学部現代こども学科 教授
上田信行さん
四つのPが創造的な学びを促す
そのようなマインドセットを、企業の人たちも持つ必要がありますね。
そう思います。上司からの指示に従ってやるから、それがノルマとなり、面白くないものになってしまう。仮に、それが面白い仕事であっても、上から与えられたノルマとなると、それをこなすことになってしまいます。言い換えたら、こなせたらゴールということになり、それを越えていこうとすることへのモチベーションにはなりません。
この時、四つのPという概念が重要となります。「スクラッチ」を開発しているMITメディアラボのミッチェル・レズニック(Mitchel Resnick)教授が提唱しているものですが、「Give P's a Chance(Pにチャンスを与えよう)」と言っています。ちなみにこれは、ジョン・レノンが1969年に発表した楽曲「Give Peace a Chance(平和を我等に)」をもじったものです。
ここで言っているのは、創造的な学びには四つのP「projects(計画)」「passion(情熱)」「peers(仲間)」「play(遊び)」が必要だということです。まず面白いprojectでないと、人は学んだり、仕事を能動的にできません。また、そのprojectは自分で提案する場合もあるし、上から言われる場合もあるでしょう。しかし、上から言われた場合でもそれを自分のprojectにする。概念を再構築して自分のものにしないといけません。つまり、projectについて自分で意味付けすることが必要なのです。上司から言われたprojectでも、「それを進めるには、こういう風にすればいいのではないでしょうか」と自分の意思・想いを付加していくことによって、自分がやるべきprojectとなるのです。
そして、projectが面白くなれば、passionに火がつきます。その際に、やる気が起こらないのは、projectを自分のprojectにできていないからです。ここで誤解してほしくないのは、仕事に対してやる気のある人、ない人がいるわけではないということ。ポイントは、いまやっているprojectが面白いかと、本気で思えるかどうかなのです。面白くないのは、自分でprojectに対する意味付けがちゃんとなされていないからです。そこで、あえて上司と言い争ってもいいですから、projectに対する意味付けをしっかりと自分で行い、「責任を持って楽しくやります」と言えるくらいに、projectの出発点を作らなくてはいけません。
これができれば、まさに自分のprojectとなるわけですから、やる気がどんどん出ます。それでpassionが湧き、今度はそこに一緒にやるpeersがいると、よりpassionが燃え盛っていきます。そして、projectを仲間と共に、安心して、思いっきりやれる「playful environment」が必要なのです。「失敗してあたりまえ」と許容する仲間がいる環境。「よし、もう一度やろう」と前向きな気持ちにさせてくれる仲間と場が必要なのです。
普段の仕事でも、「自分がきちんと考えた上でなら、失敗しても構わない。次に再チャレンジすればいいのだから」という上司の下であれば、誰でもやる気が上がります。それが「言われた通りのことをやれ」あるいは「失敗は許さない」というようなタイプの上司だと、ミスや失敗をしないよう安全策に走り、高い目標に取り組もうとは思えません。そういう意味からも、「プレイフルカンパニー」を実現していくためには、四つのPがとても大切のように思います。
あまり気の進まない仕事が来た場合でも、まずその仕事内容を自分なりに意味付けして、再構成していくということですか。
要は、自分にとってやりがいがあり、価値があるような仕事にしていくということです。そうすると、自然と情熱が湧いて、一所懸命に仕事をしようという気になります。そして、そこに意見を言ってくれる仲間がいて、いろいろとサポートしてくれれば、失敗を恐れることなくプロトタイプをどんどんと作って、修正していこうという気持ちが生まれ、仕事に対するモチベーションが高まっていきます。こうした職場風土が醸成できれば、どんな仕事でも前向きに取り組めるようになります。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。