この10 年で賃金が上がっている・上がっていないのは誰か
~年齢別・雇用形態別・企業規模別で確認する賃金の現状~
第一生命経済研究所 総合調査部 副主任研究員 岩井 紳太郎氏

1. 2024年春季労使交渉は歴史的な賃上げ、2025年も高い期待
2024年の春季労使交渉は、歴史的とも言える高い賃上げ率を記録した。2025年も政労使が積極的に賃上げを呼びかけており、2024年と同水準もしくはそれを上回る見込みだ。ニュースや新聞記事等で焦点が当てられることの多い賃上げ率は、前年との比較で示すことが一般的であり、それより前の年との賃金比較を見る機会は意外と少ない。そこで、当レポートでは、2024年とその10年前の2015年の賃金を比較して、年齢別・雇用形態別・企業規模別で、どの層の賃金が上がっているか、あるいは上がっていないかについて確認する。なお、データは、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」を用いる。
2. この10年間で20~39歳は大幅に賃金上昇、一方で正社員・正職員の45~54歳は微増に留まる
まず、2015年と2024年の所定内給与額(注1)の変化額・変化率を年齢別で確認する(資料1)。上昇幅は、50~54歳にかけて年齢層が上がっていくごとに小さくなり、55~59歳では大きくなっている(注2)。20~39歳(20~24歳、25~29歳、30~34歳、35~39歳)の所定内給与額は、2015年から2024年の10年間で+30千円以上・+10%以上と大幅に上昇している。一方で、40歳以上は20~39歳と比較すると上昇幅が小さく、特に45~49歳、50~54歳は微増に留まっている(45~49歳:+12千円・+3%、50~54歳:+3千円・+1%)。
次に、雇用形態別で、正社員・正職員と正社員・正職員以外の所定内給与額の変化を年齢別で確認する(資料2)。正社員・正職員は、20~39歳(20~24歳、25~29歳、30~34歳、35~39歳)において10%以上上昇しているが、40~54歳(40~44歳、45~49歳、50~54歳)では年齢層が上がるごとに上昇幅が小さくなっている。特に45~49歳、50~54歳はそれぞれ+3%、+1%とほぼ上昇していない。
一方で、正社員・正職員以外については、20~39歳だけでなく40~54歳も含めた他の年齢層においても10%程度上昇している。昨今の同一労働同一賃金の取組みや最低賃金の引き上げ等が要因と考えられる。
3. 1000人以上企業において、45~54歳の賃金上昇率はマイナス
本章では、正社員・正職員に絞って企業規模別に所定内給与額の変化額・変化率を確認する(資料3)。20~39歳(20~24歳、25~29歳、30~34歳、35~39歳)は、どの企業規模においても+20~30千円・+10%程度の上昇幅であり、これは他の年齢層と比較しても大きい。しかしながら、45~59歳(45~49歳、50~54歳、55~59歳)においては、企業規模によって大きな差がある。10~99人企業の変化額・変化率は、+30千円程度・+10%程度であり、100~999人企業は45~54歳で+20千円弱・+5%程度、55~59歳で+30千円程度・+9%と、20~34歳と同水準もしくはやや少ない水準となっている。一方で、1000人以上企業において、45~54歳(45~49歳、50~54歳)では変化額・変化率ともにマイナスであり、55~59歳については+16千円・+10%と微増に留まり、この年代の賃金押し下げ要因になっている。
同調査によれば、どの企業規模においても45~59歳の従業員割合は約半数と大きなボリュームがあり、賃金も他の年齢層と比較して相対的に高いことは共通している。その中で上記の通り、10~99人企業・100~999人企業と1000人以上企業では賃金の変化額・変化率には大きな差がある。多くの大企業において、初任給の引上げ等若手人材の獲得・定着に重きを置いた戦略をとっており、その一方で人件費の増加を回避するために就職氷河期世代も多く含まれる45~59歳の賃金は抑えられていると考えられる。
4. 2025年春季労使交渉は、40~50代の賃上げにも注目
ここまで、2015年と2024年の所定内給与額を年齢別・雇用形態別・企業規模別で確認してきた。20~39歳は雇用形態・企業規模を問わず上昇しているが、45~59歳の正社員・正職員の賃金はそこまで伸びておらず、特に1000人以上企業において微増もしくは減少していることがわかった。
40~50代の消費支出額は他の年代と比べても大きく(注3)、今後の経済活性化のためにこの年代の賃上げは重要だろう。2024年の春季労使交渉は、若年層だけでなく40~50代にも賃上げが波及したことが高水準を記録した要因の1つであったが、10~99人企業・100~999人企業に限らず1000人以上企業においても、40~59歳の賃金は50~54歳を除いて一定程度上昇している(注4)。2025年の春季労使交渉は、2024年を上回る賃上げ実現に向けて、特に中小企業における賃上げが期待されているが、それと同時に40~50代の賃金(特に大企業)が2024年から継続してどの程度引き上げられるかにも注目したい。
【注釈】
- 所定内給与額とは、厚生労働省によると、労働契約等であらかじめ定められている支給条件、算定方法により6月分として支給された現金給与額のうち、超過労働給与額(①時間外勤務手当、②深夜勤務手当、③休日出勤手当、④宿日直手当、⑤交替手当として支給される給与をいう。)を差し引いた額で、所得税等を控除する前の額をいう。
- 55~59歳の賃金上昇幅について、資料3の通り100~999人企業や10~99人企業における同年齢層の上昇幅が大きいことによる影響と推測される。
- 総務省「家計調査」によると、2024年における二人以上勤労世帯の1か月間の消費支出額は、~34歳:271,148円、35~39歳:288,513円、40~44歳:311,400円、45~49歳:348,895円、50~54歳:364,645円、55~59歳:354,102円、60~64歳:321,649円、65~69歳:310,457円、70歳~:279,179円となっている。40~50代は、消費支出額のうち教育関係費等が他の年代と比較して大きい。中高生・大学生の子供を持つ人も多いためと考えられる。
- 2023年から2024年の年齢別所定内給与額の変化率は、以下の通り。
【参考文献】
- 熊野英生(2025)「賃上げの世代間格差~成果分配よりも人材獲得~」
- 熊野英生(2025)「初任給アップでも世代間格差は残る~給与は増えにくい氷河期世代~」
第一生命経済研究所は、第一生命グループの総合シンクタンクです。社名に冠する経済分野にとどまらず、金融・財政、保険・年金・社会保障から、家族・就労・消費などライフデザインに関することまで、さまざまな分野を研究領域としています。生保系シンクタンクとしての特長を生かし、長期的な視野に立って、お客さまの今と未来に寄り添う羅針盤となるよう情報発信を行っています。
https://www.dlri.co.jp


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