男性の育児休業取得に向けた「企業」に必要な視点
-企業は就業規則における制度設計や職場内理解の醸成を、男性も育児知識の必要性、育児時間は労働時間の抑制がカギ-
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛氏
要旨
本稿では、育児・介護休業法の改正に伴い、新設された産後パパ育休と男性の育児休業制度について概説し、現状と課題を整理し、企業に求められる視点について整理した。
今回の育児・休業法の改正では、産後パパ育休の新設により、子の出生後8週間以内に分割して休業が取得できるようになったこと、育児休業制度においても分割取得が可能となり、男女のワークライフバランスを考慮した柔軟な取得方法が可能となったことがポイントとなる。
しかし、男性の育児休業の取得率をみると、13.97%と目標値との大きな乖離が認められ、取得タイミングもばらつきがあり、取得期間も短い実態が明らかとなっている。
男性の育休取得率が低い要因を探ると、企業の就業規則上の制度設計や業務繁忙・人手不足、職場内での理解の醸成不足、長時間労働などが影響していることが判明した。
企業がこれらの要因に対し取り組むことは、男性の育休取得率の向上はもとより、男女のワークライフバランスが是正され、エンゲージメントの向上や性的役割分業の是正に貢献できる。企業の働き方改革が進み、健康経営視点を考慮した企業成長が見込めるようになれば、企業側の価値向上に寄与することが期待できるであろう。
また、企業側の情報提供に必要な視点として、新生児の生活リズムや母体の回復過程を把握し、育児に関わるための具体的な方法をイメージすること、さらに、有業男性が育児時間を確保するには、労働関連時間の抑制が必要であり、企業が男性の育休取得率を向上させるには、大前提として男性のワークライフバランスを考慮した柔軟な働き方の見直しが重要であることが示唆された。
1――はじめに
日本では、育児・介護休業法の改正に基づき、産後パパ育休(出生児育児休業)が新設され、2022年10月1日から施行された 1。
この産後パパ育休では、子の出生後8週間以内に4週間まで取得が可能で、分割して2回取得することが可能となっている。また、労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲内で、休業中にも就業が可能となった。
さらに、この産後パパ育休とは別に、育児休業制度に基づき、原則、子が1歳までに分割して2回の育児休業が取得可能で、育休開始日を柔軟に設定できるようになっている。
しかし、令和3年度雇用均等基本調査 2 によると、男性の育児休業取得率は13.97%と年々上昇傾向にあるものの、2025年男性の育休取得率の目標値30%と比べるといまだ大きな乖離があり、女性の育児休業取得率85.1%とも大きな差が認められる。
では、男性の育児休業取得率はなぜこんなにも低いのか?本稿では、男性の育児休暇取得の現状と課題を分析し、男性が育児に関わるために重要な視点を示したい。
また、保健師の知見を活かし、育児休業の本来の目的である「子どもの育児」に焦点を当てて、これから育児休業を取得する男性に向けて必要な視点を示す。
1 厚生労働省「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/11911000/000977789.pdf
2 厚生労働省 令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要「事業所調査」より、令和元年10月1日から令和2年9月30日までの間に配偶者が出生した男性のうち、令和3年10月1日までに育児休業を開始した者の割合であることに留意。https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf
2――産後パパ育休制度と男性の育休取得率の現状
1|新設「産後パパ育休制度」のポイントとは?
まず、2022年10月から施行された「産後パパ育休(出生児育児休業)」制度について、概説する。
この制度は、改正育児・介護休業法により、男女とも仕事と育児を両立することを目的に、1)雇用環境の整備、個別周知・意向確認の措置の義務化、2)有期雇用労働者の育児。介護休業取得要件の緩和、3)産後パパ育休の新設及び育児休業の分割取得、の3段階で施行された3段階目にあたる。
図表1の通り、産後パパ育休制度では、原則休業の2週間前までに申出ると、子の出生後8週間以内に4週間まで、分割して2回取得することが可能となる制度である。
また、この産後パパ育休制度とは別に、育児休業制度が存在し、原則休業の1ヶ月前までに申し出ると、子が1歳(最長2歳)になるまでに、分割して2回の育児休業が取得可能となった。
これらの制度改正により、産院から自宅へ戻るタイミングや、女性の産後休業制度が終了するタイミング、女性が復職するタイミングなどに休業を取得でき、男女とも柔軟に育児休業制度を設定することが可能となった。
つまり、男性の育児休暇を取得するタイミングが業務都合等を考慮して、より柔軟化し、男性の育児休業取得率の向上を狙った対策であることが見て取れる。
男性の育児休業の取得率が向上すれば、男性の育児参加を促し、女性の社会参加を促すことで、育児に関する性的役割分業の是正につながり、男女ともにワークライフバランスの向上が期待できる。
また、男性の育休取得を契機に、働き方改革や休業取得がしやすい企業風土を醸成することにつながり、自身の通院や家族の介護など、多様な事情を抱える者たちに対しても就労しやすい環境を提供できる。男性育休取得の促進は多様なメリットを生み出す可能性があると言えよう。
2|男性の育児休業取得率の現状は?
では、なぜこれらの育児休業制度を柔軟化する必要があったのか。この主な背景として、男性の育児休業取得率が非常に低いことが挙げられる。
厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 」3 によると、男性の育児休業取得率は13.97%と年々上昇傾向にあるものの、2025年男性の育休取得率の目標値30%と比べるといまだ大きな乖離があり、女性の育児休業取得率85.1%とも大きな差が認められている。
また、平成29年度「仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」4 では、男性が育児に関する休業を取得した際に活用した制度として、「年次有給休暇制度のみ」が28.8%と最も高く、年次有給休暇で対応した層では、妻が退院したタイミングで取得していた傾向が高い。さらに、取得期間では、年次有給休暇で対応した層では平均7日未満であり、育児休業制度を活用した層では平均1か月から2か月取得していると報告されている。
男性の育児休業取得の実態をまとめると、そもそも育児休業制度は活用せず、年次有給休暇制度を活用しており、女性の産後回復期間である産後数か月には取得しておらず、さらに取得期間も育児に関わるには十分な期間を取得していない実態が明らかとなっている。
3 厚生労働省 令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要「事業所調査」より、令和元年10月1日から令和2年9月30日までの間に配偶者が出生した男性のうち、令和3年10月1日までに育児休業を開始した者の割合であることに留意。https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf
4 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000174277_3.pdf
3――仕事と育児の両立に関する実態調査結果から見える要因
1|就業規則における制度設計、業務繁忙や人手不足、理解の醸成不足の改善などがポイント
次に、なぜ日本において男性の育児休業取得率が低く、育児休業制度を活用して有効に育児に関わることができていないのか。その要因を探るために、平成29年度「仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」の結果を用いて、要因を分析した。
「男性の育児を目的とした休暇・休業取得の要因」の職場要因において、男性が育児休業を取得しなかった理由をみると、「いずれの休暇・休業も取得していない層」では、「会社で育児休業制度が整備されていなかった」の割合がもっとも高く、38.3%となっていた。
一方で、「育児休業を取得せず、年次有給休暇等で対応した層」では、「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」が28.4%でもっとも高く、次いで「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」が25.8%、続いて「会社で育児休業制度が整備されていなかった」が24.2%となっていた。
また、末子の妊娠判明時の男性の週当たりの労働時間別でみると、「週60時間以上」の層において取得していない傾向が認められており、育児への関り度合いについても、1週間あたりの実労働時間別で週60時間以上の層では、「育児に十分関われている」に対し「あまりそう思わない・そう思わない」が56.8%となっていた。
さらに、「ほとんど19時までに帰宅していない」層や、「残業のため、深夜勤務をすることがある」層では、「育児に十分関われていない」とする割合が高くなる傾向が認められている。
これらのことから、男性の育児休業取得を阻む要因として、企業の就業規則における制度設計、業務繁忙や人手不足、職場内での理解の醸成不足、長時間労働などが影響していることが明らかになった。企業側は、これらの要因に対し取り組むことで、男性の育児休業取得の促進に効果を与えることができると考える。
これらの要因に対する企業の対策に触れると、「就業規則上の制度設計」については、企業経営者の方針に依存することが大きい。そもそも、企業が育児に関する独自の制度を就業規則に定めるには、企業経営者の判断によるところが大きいため、厚生労働省が示すように 5、仕事とのワークライフバランスを整えている企業であるというイメージアップ、社員の意識向上、生産性向上、優秀人材の確保、人材定着につなげる「健康経営」の意識を企業経営者が持つ必要がある。
企業が育児との両立に関する制度導入や取り組みを実施すると、くるみん認定マークの取得による優遇措置や、イクメン企業宣言により 6、イクメン推進企業として認知されることにより、人材の確保につながるなど、企業側のメリットも存在する。
「業務繁忙・人手不足」も、ICTなどを活用した業務効率化に取り組む必要があり、業務フロー自体を見直すには、これらについて企業経営者は方針を示す必要がある。また、企業内での柔軟な人材配置や、企業の追加コストは発生するが育休取得期間中の派遣社員の採用などに取り組む工夫も重要である。
「職場内での理解の醸成不足」については、先ずは企業の人事や経営企画部部門などが役職ごとに応じた制度説明による理解の醸成や、研修機会を設けて役職ごとに応じた業務の調整方法や分担方法などを具体的に検討する機会を設ける必要がある。管理職や上司など立場が上の者が積極的に休業を取得した事例をイントラネットで共有すると、取得しやすい雰囲気を醸成することができた企業事例もあり、ひとつの手かもしれない。
これらの要因に対する企業の取組みは、制度が活用されやすい働き方改革につながり、各企業の従業員のエンゲージメントの向上が、社会全体での理解の醸成や処遇改善につながる。企業の経営者層をはじめ、管理職や従業員に対し、これらの考え方やつながりを浸透させることに意義があると考える。
尚、長時間労働に対する要因については、男性のワークライフバランスを具体的にどのように調整すれば良いかを明確に把握する必要があるため、男性の生活時間を用いて分析した結果を後述する。
5 厚生労働省「就業規則への記載はもうお済みですか‐育児・介護休業等に関する規則の規定例」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000685055.pdf
6 イクメンプロジェクトとは、「育てる男が、家族を変える・社会が動く。」をビジョンに掲げたプロジェクトである。https://ikumen-project.mhlw.go.jp/project/about/
2|企業が育児休業制度を情報提供する重要性
次に、男性の育休取得の取得率に影響する要因として、育児休業制度に関する情報提供の重要性があげられる。
先の調査において、男性が育児休業を取得したキッカケをみると、「職場の同僚や上司などから取得を勧められた」が22.9%、「会社から取得を勧められた」が17.1%となっている。逆にいうと、企業側からの情報がなければ、取得していなかった可能性が非常に高いことが伺える。
また、配偶者との関係において、妊娠期間中に妻とよく話し合った層では、男性の育児休暇の取得率が高い一方で、妻とあまり話し合っていない層では取得率が低下する傾向が認められている。
さらに、育児休業を取得しなかった理由について、「制度を知らなった」と回答している層も一定数認められる。
そもそも、女性は妊娠届け出や妊婦健診のタイミングで、育児や休業制度に関する情報に触れる機会を得ることができるが、男性は自治体や産院の両親学級に参加したり、自分から企業へ問い合わせない限り情報を得る機会そのものが少ない。
企業側は、人事部などが雇用時や人事面談時に制度概要について説明する機会を設けるとともに、制度や働き方改革と絡めた研修の実施、社内向けの広報誌などで復職計画と合わせてロールモデルを示すなど、継続的に制度に関する情報を提供する努力が必要である。
ただ、従業員個々の家庭の事情は男性側からの申告がないと企業側は把握できないため、男性当人も配偶者の妊娠期から積極的に情報を取得し、休業時期の相談や復職計画などを事前に準備しておくことも重要である。育児に関する情報に触れる機会の多い配偶者と、普段から良く話し合う機会を妊娠期から設けることも必要であろう。
こうした情報提供は人員の確保や組織の見直しなどと比べると、企業として比較的手を付けやすい施策と考えられるので、企業は是非参考にされたい。
以降は、保健師の臨床経験を基に、男性の育休取得の必要性が分かる育児の視点と、男性が育児時間を確保するために長時間労働を是正する必要があるワークライフバランスの視点について考察する。
4――男性の育休取得の必要性が分かる育児の視点
1|新生児の生活リズム
今回新設された産後パパ育休では、女性の産後休業期間中である産後8週間以内に、男性が産後パパ育休の取得が認められている。そのため、その期間に該当する生後0か月の新生児の生活リズムを事前に知識として知ることは、育児内容の具体化や事前の準備において非常に役立つと考える。
以下の通り、図表2に新生児の生活リズムを示した。この表は、筆者が行政保健師時代に両親学級やプレママ・プレパパ教室で使用していた教材を基に作成したものであり、助産院や医療機関の両親学級でも良く用いられているものである。
生後0か月までの新生児は、一般的に2~3時間ごとの睡眠を繰り返し、一日では合計12~16時間ほどの睡眠をとるが、眠りは浅く、ちょっとした音(足音やドアの開閉音)でも敏感に反応し覚醒することもある。
また、授乳は睡眠の合間に1日8回~10回程度することとなるが、授乳には、母乳のみの完全母乳、人工乳いわゆるミルクのみの完全人工乳、母乳と人工乳の混合授乳の3つの方法があり、完全母乳を保つための乳房マッサージや、哺乳瓶の洗浄や消毒など、新生児が入眠している間に、手間のかかる準備や事後対応が必要となる。また、授乳後には、毎回、排気(ゲップ)をさせる必要があるが、胃の噴門部の締りが弱い新生児では、授乳後にゲップができず、寝かせた後に吐乳をする可能性があり、着替えや時には飲みなおしが必要となる場合もある。排泄は、少量の排尿を15回~20回程度、排便は少量を授乳後に毎回、もしくは1日に2~3回程度が目安となり、便は水様性で皮膚がかぶれやすいため、少量でも排泄があればすぐに取り換えることが基本となる。
このように、新生児時期の育児は、睡眠・授乳・排泄の繰り返しが基本となるが、他にもぐずり対応や、衣類の取り換え等、様々な育児が必要となる。この新生児の生活リズムは個人差が大きく、子どもの個性に合わせて、不快を排除していくことが新生児育児の基本となる。
これらの新生児の生活リズムを考慮すると、例えば、完全母乳の際には、授乳以外の家事・育児を男性側が担い、混合授乳や人工乳の場合には男性が積極的に授乳に参加することで、その間に母体の回復を促すことができる。また、沐浴等は新生児をお湯の中で支えながら洗うという力仕事になるため、産後の母体回復を優先したい女性ではなく男性が担うなどの役割分担ができれば、男女ともに育児がしやすくなる。
2|母体の回復過程
次に、男性が育児をする上で必要な視点として、産後の母体の回復過程についても触れておきたい。産後の母体は、分娩時のいきみなどで骨盤底筋群が伸びて断裂し、割けた会陰や産道からの出血と痛みが続き、胎児を通しやすくするために骨盤が開くため歩行が困難になるなど、「全治2か月の事故」と例えられるほど身体にダメージを負っている 7。
しかし、これらのダメージからの回復は、分娩回数や分娩方法によっても産後の母体回復スケジュールは大きく異なるが、あまり知識として得られる機会がないのが実状である。
この母体の回復過程は、男性側の育児参加の仕方にも大きく影響するため、事前に知識として知ることができれば、非常に参考となるであろう。
一般的に、産後の母体が妊娠前の状態に戻るまでの期間を「産褥期(さんじょくき)」と呼び、この期間は通常、6~8週間ほどを要する。この産褥期には、妊娠により約11倍程度拡大した子宮が、分娩後に元(妊娠前)のサイズに戻ろうと収縮し、悪露(おろ)(出血様の子宮内膜や分泌物)の排出などの「子宮復古(しきゅうふっこ)」が促される。この子宮復古に伴い、子宮収縮による痛みや、悪露によるマイナートラブル(陰部のかぶれ等)が生じることが認められている。
また、出産経験のない者を初産婦(しょさんぷ)と呼び、出産経験のある者を経産婦(けいさんぷ)8 と呼ぶが、実はこの出産経験(回数)の有無により、分娩時間が大きく異なる。初産婦は平均12~15時間、経産婦は4~8時間程度とされ、この分娩に伴う陣痛についても初産婦の方が長く、経産婦の方が短いため、初産婦の方が産後6か月までの疲労に関する主訴が経産婦の約2倍以上あると報告されている。つまり、初産婦の方が身体的な疲労に関する訴え、母体に関するケアを多く必要とされているのである。
さらに、分娩方法では、経腟分娩(けいちつぶんべん)と帝王切開(ていおうせっかい)に分類される。経腟分娩では通常、分娩に伴う膣壁や外陰部の裂傷を回避するために、あらかじめ会陰切開(えいんせっかい)を実施するが、産後にはその切開部の痛みなどが日常生活動作に影響を及ぼすことが指摘されている。
一方で、帝王切開は下腹部を切開するため、その傷が完治するまでに約6週間を要するとされており、産後の経過をみるために帝王切開で分娩した者の方が入院期間も長くなり、身体活動制限が段階的に課されるのが一般的である。
産後パパ育休を取得する男性は、パートナーの分娩が初めての場合は、産後の母体疲労へのケアを家事・育児の合間に取組み、出産経験があっても分娩方法によっては、創部の完治までは沐浴などの創部への負担がかかる身体活動は控えてもらい、男性が代わりに取り組むことをお勧めしたい。
7 分娩による身体への影響は、分娩に伴う各部位の出血と痛み、骨盤底筋群の開きによる便漏れや尿漏れ、いきみによる高血圧や痔、乳腺発達に伴う緊満感と痛み、ホルモン値の変動による抜け毛や肌の黒ずみ等が生じる。
8 経産婦(けいさんぷ)とは、正確には、妊娠22週以降の胎児を1回でも出産した者と定義されている。
5――男性の長時間労働是正にもつながるワークライフバランス改善の視点
さきほどまでは新生児の生活リズムと母体の回復過程から、男性が産後パパ育休を取得する必要性が分かる具体的な育児内容について触れてきた。
続いて、厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」2 によると、男性の育休取得期間は5日から2週間以内が最多と報告されており、大半は就労しながら育児に参加することが想定される。これを踏まえて、【長時間労働】の是正にもつながるであろう、就業中の男性が育児参加する際のワークライフバランスについて検証した。
2021年に国立成育医療研究センターが実施した未就学児を持つ父親の1日の生活時間を分析した手法を参考に 9、有業の父親が確保すべき1日の生活時間(睡眠等の1次活動、就労や育児の2次活動、移動や余暇等の3次活動)のバランスを2021年の最新基幹統計である総務省「令和3年社会生活基本統計」10 を用いて算出した。
尚、今回は産後パパ育休を取得する期間のワークライフバランスの参考となるように、1)夫婦と子ども世帯、2)有業の父親(共働きと専業主婦世帯)、3)子どもが0歳児、の3つの条件を満たす1,492名を分析対象とした。
その結果、0歳児のこどもを持つ有業(共働き)の父親の生活時間の現状は、睡眠や食事などの1次活動時間が10.30時間、2次活動は2つに分類し、仕事関連時間が8.1時間、家事・育児が2.3時間、移動や余暇などの3次活動は3.3時間であることが明らかとなった。
政府は、男性が育児時間を確保するために、2025年までに6歳未満の子どもをもつ男性の1日あたりの家事・育児時間を150分(2.5時間)となるように目標を掲げている。また、ワークライフバランスを検討する上で、食事や睡眠などの人間が生理的に必要な1次活動時間は調整することができないものとして取り扱う必要がある。
さらに、先行研究より3次活動時間を約2時間として算出していることから、1次活動は現状維持、育児時間を目標の2.5時間へ拡大した上で、①3次活動時間を2時間へ縮小が可能な場合と、②3次活動の縮小が不可能である場合に就労時間を縮小する必要がある2つのパターンを以下に検証した。
その結果、政府が掲げる男性の目標育児時間を確保するためには、余暇時間などの3次活動時間を調整できる①の場合には、共働き世帯における仕事関連時間は最大9.2時間まで、専業主婦世帯における仕事関連時間は8.7時間以内に抑制する必要があることが明らかとなった。
さらに、余暇などの3次活動時間が調整できないと仮定した②の場合には、政府が掲げる男性の目標育児時間を確保するには、共働き世帯における仕事関連時間は7.9時間以内へ、専業主婦世帯における仕事関連時間は7.4時間以内へ抑制させる必要があることが明らかとなった。
特に、余暇時間を調整できない②の場合には、0歳児の育児時間を確保するためには、仕事を8時間未満に抑制しなければならない。さらに、今回の算出方法では、健康上の理由から抑制して欲しくない1次活動を現状維持のまま算出しているが、筆者の臨床経験から、実際に父親はこの食事や睡眠などの1次活動時間を削って仕事と育児を両立しようと試みる傾向が認められていた。
図表2に示したように0歳児、特に新生児期には、授乳対応などが2~3時間ごとに必要となるため、そもそも連続した睡眠時間は確保できない。子どもが生後3か月を過ぎるあたりからは、授乳や睡眠リズムが一定のパターンを示すようになるため、育児の見通しがつくようになる。
可能であれば、生後3か月ごろまでは、男性も産後パパ育休や育児休業を取得し、育児に専念する環境を作って欲しいが、難しいようであれば、上記の算出時間を参考に育児時間を確保して欲しい。
9 大塚美耶子ら(2021)国立成育医療研究センター「未子が未就学児の子供を持つ父親の労働日における生活時間」厚生の指標第68巻15号 P24~30.2021.
**https://www.ncchd.go.jp/press/2022/220112.pdf
10 総務省統計局(2022)「令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果」https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/pdf/youyakua.pdf
6――まとめ
本稿では、育児・介護休業法の改正に伴い、新設された産後パパ育休と男性の育児休業制度について概説し、現状と課題を整理し、企業に求められる視点について整理した。
今回の育児・休業法の改正では、産後パパ育休の新設により、子の出生後8週間以内に分割して休業が取得できるようになったこと、育児休業制度においても分割取得が可能となり、男女のワークライフバランスを考慮した柔軟な取得方法が可能となったことがポイントとなる。
しかし、男性の育児休業の取得率をみると、13.97%と目標値との大きな乖離が認められ、取得タイミングもばらつきがあり、取得期間も短い実態が明らかとなっている。
男性の育休取得率が低い要因を探ると、企業の就業規則上の制度設計や業務繁忙・人手不足、職場内での理解の醸成不足、長時間労働などが影響していることが判明した。
企業がこれらの要因に対し取り組むことは、男性の育休取得率の向上はもとより、男女のワークライフバランスが是正され、エンゲージメントの向上や性的役割分業の是正に貢献できる。企業の働き方改革が進み、健康経営視点を考慮した企業成長が見込めるようになれば、企業側の価値向上に寄与することが期待できるであろう。
また、企業側の情報提供に必要な視点として、新生児の生活リズムや母体の回復過程を把握し、育児に関わるための具体的な方法をイメージすること、さらに、有業男性が育児時間を確保するには、労働関連時間の抑制が必要であり、企業が男性の育休取得率を向上させるには、大前提として男性のワークライフバランスを考慮した柔軟な働き方の見直しが重要であることが示唆された。
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
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