採用選考が後ろ倒しになったときの対応は?
古橋 孝美(ふるはし たかみ)
パートタイマー白書や学生を対象にした就職活動に関する意識調査など、当研究所が独自で行っている調査から見えてくることを考察します。
一般社団法人日本経済団体連合会から「採用選考に関する指針」が出され、2016年4月以降入社の新卒採用活動の時期が変更されます。指針の中では、学生がその本分である学業に専念することができるよう、広報活動開始日が従来の12月1日から3月1日へと3ヶ月後ろ倒しに、選考活動開始日が4月1日から8月1日と4ヶ月後ろ倒しにすることが求められています。
「採用選考に関する指針」は、政府の要請に沿って決められたものですので、その影響力は小さくありません。半面、“法律”ではなく、あくまでも“指針”という位置づけのために、独自の期間で新卒採用活動を考える企業もあるようです。
弊社が実施した「2015年度新卒採用活動に関する企業調査」でも、「採用選考に関する指針」を「守ると思う」と回答した企業は63.4%で大勢を占めるものの、「守らないと思う」と断言した企業が10.8%、「わからない」と対応を決めかねている企業も25.8%に上っていました。
では、新卒採用の活動時期が変更になることは、企業側にとってどのようなメリット・デメリットをもたらすのでしょうか。新卒採用活動時期が変更によって自社に「良い影響がある」と回答した企業にその理由を聞くと、以下のようになりました。
1位(45.6%)
学生が学業や課外活動に専念する時間が増え、より質の高い者の応募・採用が見込めそう
2位(26.3%)
採用選考時期が後ろ倒しになった分、採用計画が入念に練れそう
高等教育は、本来、次代を担う人材を育成し、社会へ送り出すという役割を担う場です。しかし、近年は就職活動やその準備の早期化・過熱化が進み、それらが学業に支障を来す本末転倒な状況に陥っていました。採用活動時期が見直されることで、結果として、学業に専念し知性・能力・人格等が磨かれた人材が増えるのではないか、という企業側の期待があるようです。
一方、「悪い影響」が有ると回答した企業に理由を聞くと、
1位(32.7%)
選考期間が短くなることで、採用担当者の負担が増えそう
2位(29.4%)
選考期間が短くなることで、応募者1人あたりにかけられる時間が短くなりそう
となっています。
採用活動の広報開始時期は、2012年卒学生までは10月、2013年卒学生からは12月、そして2016年卒学生からは3月と、ここ数年で半年も後ろ倒しになりました。しかし、内定時期を10月とする企業は多く、一般的には従来と変わっていません。つまり、採用活動にかけられる期間は実質的に短期化の傾向にあり、それによる業務負担が懸念されているようです。
さらに、2016年卒の採用活動期間が、従来よりも「短くなる」と回答した企業に、その対策を聞いています。
「企業説明会の機会を増やす」「大学/キャリアセンターとの連携を密にする」が上位に挙がったことで、短い期間の中でいかに「自社を知ってもらうか」「自社の採用に応募してくれる学生を増やすことができるか」という、自社の認知拡大と採用のための母集団形成が、2016年の採用活動の重点課題となっているように感じられます。
実際に、採用活動と関連しない形で業界のセミナーを実施する企業や、インターンシップの導入を検討する企業が増えてきているようです。
企業が“直接”学生と接する機会を増やすことは、社会と触れ合うことが少ない学生側のキャリア意識の醸成につながります。また、業界・企業研究の場が増えれば、学生の理解も深まり、ミスマッチの少ない採用にもつながるでしょう。企業側も、採用活動期間の変更に加え、従来の大規模な母集団形成をする採用手法から、より人材を見極める手法を模索している傾向があります。今後は、「学生に会える機会を増やす」こと、これが一つのポイントになってきそうです。
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●文/古橋 孝美(ふるはし たかみ)
2007年、株式会社アイデム入社。求人広告の営業職として、人事・採用担当者に採用活動の提案を行う。2008年、同社人と仕事研究所に異動し、毎年パートタイマー白書の企画・調査・発行をトータルで手がける。2012年、新卒採用・就職活動に関する調査等のプロジェクトを立ち上げ、年間約15本の調査の企画・進行管理を行う。2015年出産に伴い休職、2016年復職。引き続き、雇用の現状や今後の課題について調査を進める一方、Webサイトの記事・コンテンツ制作、顧客向け販促資料などの編集業務も行っている。
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