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【大使館職員】
外交や国際交流の最前線を担う
日本と外国との橋渡し役

東京には、多くの大使館がある。木々に囲まれた古い屋敷のようなものや、マンションの一室のこぢんまりとしたものなど、街を歩くと、さまざまな国の大使館の存在に気付く。日本には2019年5月現在、155ヵ国の大使館が所在している(ちなみに日本の大使館は、現在世界195ヵ国にある)。街中にこつぜんと姿を現した、小さな外国ともいえる大使館。日常生活において、その中の世界を知る機会はほとんどないだろう。今回は、大使館および大使館職員がどのような職務を担っているのかをひもときたい。

「職場としての大使館」を選ぶなら、選択肢は二つ

私たちが大使館に行くのはどんなときだろう。例えば海外旅行のためにビザが必要になったとき。外国にある日本大使館に行くのは、滞在中にパスポートを紛失したときや、現地駐在員の各種証明書を発行するときなどだろう。ただし、それらは大使館の業務のほんの一部だ。大使館は国交のある国の首都に置かれ、相手国との外交活動や、自国を知ってもらうための広報活動、発展を支援するための開発協力などを行う。事件や自然災害が発生したときには自国民の生命や財産を保護したりするための拠点にもなるなど、重要な役割を担っている。

大使館で働くには、二つのパターンがある。「日本にある外国の大使館で働く」「外国にある日本の大使館で働く」の二つだ。前者は、本国から派遣されているスタッフが現地採用で日本人スタッフを雇用する。後者は、外交官と呼ばれる外務省職員が業務にあたっている。大使館にはビザ発行から、経理、広報、政治、文化など多様な部署があるため、どの部署で採用・配属になるか次第で業務内容はガラリと変わってくる。前者の場合、採用は欠員が出たときにのみ行われるため不定期採用となることが多いが、職種は秘書、通訳、事務職員、ドライバーなど幅広い。在日本大使館の使命は「自国の情報を日本に紹介し、日本の情報を自国に報告する」こと。アメリカ大使館の広報部を例にとると、メディア、企業、個人などからアメリカに関する問い合わせが来たときの問い合わせ窓口の役割を担うほか、本国の美術館が日本の美術館でエキシビションを行う際の後援や、本国の文化への理解を促進するセミナーの開催など、民間企業の広報と業務内容に一見大きな違いはない。

国際交流の最前線を担うやりがいある仕事だが
高いコミュニケーション能力とスキルが必須

しかし、日本にいながら国際的な環境に身を置けること、多様な人種・価値観の人たちと共に働くことができるなど、大使館で働くことのやりがいは大きい。どの国の大使館に勤めるかによって職場環境は変わってくるが、日本固有の年功序列やジェンダーロールの概念が薄いため、属性にかかわらずいろいろな仕事に挑戦できることが魅力だ。サービス残業の習慣もないため、家族や趣味などのための時間の捻出に困ることは少ないだろう。

一方、外国にある日本の大使館で働くとなると、業務内容や就き方はかなり異なる。外交官は国家公務員にあたり、外務省総合職と外務省専門職に分かれる。総合職は、赴任先の国との外交的な交渉から、その国の情報収集と報告、国際会議を開催する際のサポートなどを最前線で行う。国益を左右する重要な交渉を行うこともあるため、責任は重大だ。外務省専門職は、赴任先の社会、文化、歴史などに精通した専門家として、高い語学力を武器に、より地域に特化した業務を行うことを期待されたポジション。発展途上国の支援や、赴任先の国への日本文化の紹介なども外務省専門職の業務の一つだ。例えば日本映画の上映や折り紙コンテストの開催など、日本と外国の親交を深めるためにさまざまな活動を行っている。

人と人とをつなぐのが大使館職員の役割。違いに寛容な姿勢が必要

日本と外国の企業を仲介する役割には、苦労も多い。言語だけでなく、歴史や社会、文化など、なにもかもが違う者同士がビジネスをするときに、トラブルはつきものだからだ。大使館職員が板挟みになることも少なくないという。バックグラウンドが異なる者同士が集まって業務を進める大使館では、高いコミュニケーション能力が求められる。

大使館で働くために必要な素養の一つは、違いを受け入れ、楽しむことができること。違った文化や言語の中で育ってきた人たちとチームを組んで働くため、互いのコンテキストを言葉にして説明する根気や歩み寄りの姿勢は必須。また、英語のほか、その国の言語がビジネスレベル以上でないと業務に支障をきたすことがあるため、語学力も重視される(職種によっては、高い語学力が求められない場合もある)。さらに、正式な書類を作成するためのライティング能力も必要だ。日本に対する理解を促す役割を担うため、日本の歴史、文化、政治、経済について熟知したうえで、日々のニュースにもアンテナを立てておかなければならない。

言語や知識のほかにも、自分の意見をはっきり伝えることができなければ大使館で働くことは難しい。日本にある外国大使館で働く場合、日本に詳しくない外国人スタッフに対して、日本人の代表として意見を言わなければならないこともあるからだ。職場環境は外資系企業に近く、上司の指示を待つのではなく、自分から仕事を取りに行く積極性が求められる。積極性より協調性が磨かれる環境で育ってきた日本人にとって、乗り越えなければならないポイントだろう。

大使館職員は狭き門。現地採用と国家公務員とでは、収入に大きな差も

日本にある外国大使館の職員になるには、それぞれの大使館で不定期に行われる募集に応募する必要がある。レジュメ(履歴書)の審査に通過したら面接を行われるが、人事担当者による面接が1回だけというケースもあれば、現場の担当者や上司による面接が複数回という場合もある。応募資格は職種によって異なるが、語学力と専門性を問われることが多いので、過去の実績が分かるポートフォリオなどがあるといいだろう。

一方、外国にある日本大使館で職員になるには、国家公務員または外務省専門職員の採用試験に合格しなければならない。総合職の場合、採用試験に合格して外務省へ入省すると、まず東京・霞が関にある本省で1~2年の研修を受ける。その後は2~3年ほど各国の大学で言語や文化、政治などを学び、研修修了後は本省と外国大使館を5〜6年程度の周期で行き来することになる。専門職も総合職と同様で、まずは本庁で勤務した後、外国での研修期間を経て海外勤務と本省勤務を繰り返すことになる。

日本には2019年5月現在、155ヵ国の大使館が所在。
日本の大使館は、世界195ヵ国にある。

前者の大使館職員の給与は、職種やポジションによってかなり差がある。ビジネス拡大支援など、専門性の高い職種になると年収1,000万円を超えることもあるが、一般事務やドライバーなどは、月給にした場合フルタイムで22~25万円ほどの水準。後者の場合は、国家公務員や専門職員として、国が規定する額が支給される。海外赴任の場合は、固定の額に加えて手当が支給される。当然、大使館は先進国ばかりでなく、インフラが整っていなかったり、多少の危険が伴ったりする地域に赴任することもある。赴任者やその家族が安全に生活できるようさまざまな手当が支給されるため、勤続年数や役職によっても異なるが、赴任期間中の年収は1,000万円~3,000万円となる。

いずれにしても、大使館職員になるには狭き門を突破しなければならない。現地採用でも、一人の募集枠に対して100人を超す応募が来ることは珍しくない。国家を代表する責任ある仕事をしたい、世界平和に貢献したい、日本の良さを広めたいなど、大使館職員を志す理由は人によってさまざまだが、他の誰かではなく自分がそのポジションに就かなければならない理由を自らの言葉で語れることが、面接においても職務においても求められる能力といえるだろう。

この仕事のポイント

やりがい日本と外国の架け橋となれること。言語も文化も価値観も違う人たちと働き、自分の知見や視野を広げられる環境に身を置けること。
就く方法日本にある外国大使館で働く場合は、大使館からの不定期の募集に応募する。外交官として外国の日本大使館で働く場合は、国会公務員試験や外務省専門職の試験に合格する必要がある。
必要な適性・能力高い語学力と学び続ける姿勢。バックグラウンドの違う人たちを理解しようと歩み寄れる姿勢は、大使館で働く上で必須。
収入職種によって収入は大きく異なる。一般事務やドライバーの場合は月収22~25万円程度。ビジネススキルを買われた専門職の場合は年収1,000万円ほどになることも。外交官の場合は、規定に沿った額に加えて手当が支給されるため、海外赴任中は年収1,000~3,000万円ほどの水準となる。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 中途採用

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