日本の人事部「HRアカデミー」開催レポート
現場・事業・経営と向き合い、戦略実現を支える
~カゴメのHRBPの事例に学ぶ
カゴメ株式会社 CHO(最高人事責任者) 常務執行役員
有沢正人氏
HRビジネスパートナー(HRBP)とは、企業の経営層や事業部門の責任者を人と組織の面からサポートし、成果・実績を創出する人事のプロフェッショナルを指す。数々のグローバル企業で人事の要職を務めてきた有沢氏は、2012年にカゴメ株式会社へ入社し、同社のグローバル人事制度を構築。その後、営業利益が最高益を記録するなど、HRBPを含めた組織体制で成功を収めている。これからの人事はどのようなHRBPを目指すべきなのか。有沢氏がカゴメでの体験をもとに、これから経営に求められる人事戦略のあり方について語った。
※本講座は2020年3月に開催しました。
- 有沢正人氏
- カゴメ株式会社CHO(最高人事責任者) 常務執行役員
1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。 銀行派遣により米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグループの人事を統括。全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また、委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任。グローバルサクセッションプランの導入等を通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築する。2009年にAIU保険会社に人事担当執行役員として入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。2012年1月にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメ株式会社の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2018年10月より現職となり、国内だけでなく全世界のカゴメの人事最高責任者となる。
有沢氏が構築した、カゴメのグローバル人事制度とは
有沢氏はカゴメに2012年1月に入社し、人事面でのグローバル化の統括責任者に就任。ミッションはカゴメの人事のグローバル化を実現し、中期計画達成のための基盤をつくることだった。しかし、有沢氏は入社して人事制度の未整備な実態に愕然(がくぜん)としたという。
「入社してすぐにオーストラリアの拠点に行き、現地のHRの責任者に評価シートを見せてとほしいと頼んだのですが、なかなか見せてくれない。ようやく見せてくれた内容を見て、唖然としました。営業部長の目標が『たくさんの人に会う』で、その評価は『たくさんの人に会った』で最高点だったんです。これでは、評価でもなんでもありません。このようにカゴメの人事制度は運用を含め、実に問題の多い制度だったのです」
こうした状況はオーストラリアだけでなく、日本も同様だった。人事評価は客観性がまったくなく、人事はオペレーションしかやっていないような状態。そこで有沢氏は半年をかけて、世界および日本国内の拠点を回り、人事制度がどのように運用されているのかをヒアリングした。そして改善策を考え、7月に会長、社長、副社長へのプレゼンテーションを行った。
「ヒアリングした事実を見せて、人事制度がまったくなっていないことをトップに伝えました。そして、これから改革を行うために『人事戦略が経営戦略の中でもっとも大事な戦略だと認めてほしい』と言ったのです。全員が人事制度がまったくなっていないという事実にショックを受けており、私の考えを認めてくれました」
2013年に出した、2013~2015年度中期計画「Next50」では、象徴的な五つの課題「Symbolic5」の一番目に「グローバル人事制度の導入」とあった。中期計画の第一課題に人事の課題がうたわれたのは、カゴメの長い歴史の中で初めてのことだ。
「社員は人事制度が最初の項目にあったので驚いたようです。この課題で特に注力する点として人事評価、人材調達・育成、ダイバーシティを挙げています。どれも人事の皆さんから見れば、整備されていて当然のものばかりだと思いますが、カゴメの人事改革はこのような状況からスタートしました」
グローバル人事制度の導入で、有沢氏が最初に取り組んだのは、管理職以上への職務等級の導入だ。それまでは職能資格制度だったが、それを廃止し、仕事に対してお金を払うジョブ型の制度へと移行したのだ。これにより、社内の年功序列は一気になくなった。
「私はカゴメが4社目ですが、どの会社でも職務等級制度を導入しています。これはAという仕事を誰がやってももらえるお金は同じ、ということです。もっとも問題だったのは、役員報酬でした。執行役員16人の年収が1円単位まで同じだったのです。要するに評価をしていなかった。そこで職務等級の導入を役員から始めました。制度改革はトップから行わないと意味がありません。トップから導入することで社員にその重要性を理解してもらう。そのうえで、役員の職務等級を開示しました。カゴメでは課長以上は職務等級を持っていますが、グローバル全体の職務等級は全員が開示しています」
職務等級を開示することのメリットは、個々にキャリアの目標ができることだと有沢氏は語る。職務等級の公開で個々の仕事の次の目標が自動的に定まるのだ。職務等級を導入している企業はたくさんあるが、その内容を社内で公開している企業は少ない。だが、有沢氏はオープンにすべきだと主張する。
次に有沢氏が改革したのは、定性評価をすべてなくし、定量評価に変えたことだ。
「間接部門にも定量評価を導入しています。間接部門は定量評価が難しいと言われますが、私は簡単だと思います。『何を、いつまでに、どれくらいやるか』を期初に決め、そのうちどれだけやれたかをパーセントで示すのです。研究職も同じ。10年かかる研究でも、今年は何をどこまでやるかを期初に決め、進捗をパーセントで示す。営業職は定量化しやすいと言われますが、その努力の過程をどこまで評価するかを考えると実は難しい。それに比べると、間接部門は実はわかりやすいのです」
役員の評価では、社長と専務二人、そして有沢氏の4名が各役員と面談し、「昨年1年間に何をやったのか」「自分は何点なのか」を確認する。次年度については25項目のKPIを設定し、それを全社員に公開している。
「役員のKPIを公開する理由は、上の目標がわかったほうが下の目標が設定しやすいから。部長の目標は、役員の目標がわかったうえで決めるべきです。上の目標につながる目標を下は設定していくので、社員全員の目標は会社の目標と必ず一致します。こうした目標設定ができるのも、仕事そのものを評価基準としているからです。私は職能資格制度を否定はしませんが、目標を設定しにくいように感じます」
有沢氏は、カゴメに来てから人件費を削減したことは一度もないと言う。行っているのは人件費の再配分であり、仕事をした人にきちんと相応の報酬を払っている。ただし、年齢や経験年数は関係なくなるため、報酬の逆転現象が必ず起きる。
「カゴメでも摩擦はありました。しかしそれも2、3年で収まります。今では誰も文句を言いません。それよりも『自分をこの仕事に抜てきしてほしい』と自己申告してくれるようになっています」
グローバル人事制度の構築に向けた三つのポイント
有沢氏はグローバル人事制度の構築のポイントとして、「トップの強い意志」「人材確保(外から来た人事部長)「体制づくり(専門組織の旗揚げ)」を挙げる。「トップの強い意志」では、2013年の中期計画推進に当たり、西元会長(当時社長)が人事制度の改革の重要性を宣言した。これによって改革のスピードが速くなった。
「人材確保」では、社内にはグローバル人事制度を構築した経験者がいなかったので、スピード感のある大胆な改革を行うために外部人材を登用。有沢氏はカゴメ初の外部出身の人事部長であり人事担当役員だ。最後は「体制づくり」。グローバル人事制度を構築するには実務部隊が必要になる。そこでグローバル人事グループを2013年4月に旗揚げした。
次に重要なのは構築までのステップだが、グローバル化の進展のためには10年先を見据えて取り組む必要があり、有沢氏は人事施策を二つのステージに分けて展開している。
「第1ステージは、グローバル化を推進するための基盤づくりです。職務等級や評価基準の統一、コア人材のサクセッションプランの策定、教育体制の確立を行います。ここでは上(役員)から変えるとともに、外(海外)へも同時に導入することがポイントになります。
第2ステージは、グローバルな人材を経営に生かすための戦略人事施策の展開。どんな質の人材が、いつまでに、どの地域にどれだけ必要かを見極める。グローバル人材の見える化を行い、スキルマップを作成。必要なときに必要な人材を供給できる仕組みを確立しました」
カゴメでは第1ステージを3年、第2ステージを2年の計5年で行った。有沢氏は第1ステージを3年以上もかけてしまうと社員が飽きてしまうという。「変わる」と言っておきながら変わらないと思ってしまうからだ。逆に3年より短くすると、変化が速すぎて社員がついて来られない。また、役員報酬の改革では有沢氏は大胆な社内広報に打って出た。社長の報酬実額を社内報に掲載したのだ。
「社長以下役員の固定報酬部分を減らしたのですが、そのときに社長の報酬の実額を社内報で公表しました。理由はそれくらいしなければ社内の雰囲気は変わらないと考えたからです。これには社内で大きな反響があり、改革の本気度を伝えることができました」
教育面では、同期が集まるお楽しみだけになっていた、年次別研修を実質的に廃止。アセスメント以外の研修を原則選択制とし、そのほとんどを土日の実施へと変更した。この研修は休業手当の対象にはならないという。
カゴメが提案する、社員の“生き方”改革
こうした人事改革を成功させるうえで重要になってくるのは、個々の働き方であり、仕事の捉え方だ。個人がよりよい働き方や暮らし方ができれば、人はもっといきいきと働ける。そこでカゴメでは、会社と個人の改革を総合して「生き方改革」と呼び、活動を推進している。
「そもそも今、国が進めている『働き方改革』はあくまで会社側の論理です。しかし、個人は個人の生活を充実させる『暮らし方改革』があります。この『働き方改革』と『暮らし方改革』を合わせて、カゴメでは『生き方改革』と呼んでいます。要は会社で使い過ぎていた時間を個人に振り向けることで、より充実した人生を送れるように配慮しています。家族と暮らすことを優先させるため、単身赴任もできるだけなくす方向の施策を打ち出しています」
カゴメは2019年に、「生き方改革報奨制度」をつくっている。これはより少ない時間で成果を挙げた人に報奨金を出すもので、最大で数十万円。また、ダイバーシティにも注力している。
「ダイバーシティを女性活躍の推進だと思っている人がいますが、目的はそれだけではありません。異なる価値観を持った人が、互いの考え方を尊重し合えるようになることが目標です。そこでカゴメでは、新卒採用の要件を変えました。私が入る前の新卒はほとんどが『カゴメっぽい人』を採っていました。どちらかというと、誠実で正直で真っ白な人のイメージです。しかし、同じような人ばかりでは社内は活性化しません。そこで半数は『カゴメっぽくない人』を採るようにしました。すると現場からは『もっととがった人を採ってほしい』などと要望が届くようになりました」
有沢氏は人事改革で大事なことは、制度や仕組みといったハード面と、相互理解・尊重の土壌づくりであるソフト面、その両方を同時に展開することだと語る。そのうえで制度や仕組みづくりで重要なことは、処遇や評価がオープンであり、フェアであることだ。
「そうすればカルチャーも変わります。今のカゴメになるまでに3年かかりました」
あるべき未来の“理想の働き方”から考える人事制度改革
有沢氏は、人事が今後注力すべきこととして「個人のキャリアは個人が決める」ことを挙げる。そのため、カゴメでは働き方のオプションを数多く用意し、そこから自分のキャリアを決められるようにさまざまな制度を整えている。時間面では、スケジューラーの活用と勤怠システムを連動させて、総労働時間の見える化を行っている。
「スケジューラーのスタートと終了のボタンを押せば、それで勤務時間になります。残業の申告は必要ありません。フレックスのコアタイムもなくす予定で、スケジューラーにどこで何をするかを入力すれば、会社に来なくてもいい。営業も週報を送れば、ミーティングは必要ありません。2020年は、全員が総労働時間1800時間を目指しています」
勤務地域については、全従業員を対象に、職場の地域を選べる地域カードという制度をつくっている。一つ目のカードは、一定期間勤務地を固定する“動かない”カード。転勤を回避できる。二つ目は、希望勤務地へ転勤できる“動ける”カード。配偶者帯同転勤を可能にするものだ。
「ともに3年間有効で、各2回まで利用できます。このカードでの希望は、会社が必ず守ります。もちろん昇進昇格には影響しません。このカードは退職理由として多い配偶者との同居問題と、今後増えてくる育児と仕事の両立を叶えるオプションとして新設しました。大変評判が良く、すでに100名以上が利用しています」
次は、テレワーク勤務制度の導入だ。勤務をオフィスに限定することなく、自宅なども可とするオプションだ。情報セキュリティを遵守できる場所であれば、どこでもOKであり、勤務時間を分割・すき間時間での業務も可能である。
また、副業制度も全面解禁した。カゴメの制度の特徴は他の会社と雇用契約を結んでも良い点にある。ただし主たる雇用者であるため、健康管理を目的に、年間総労働時間が1900時間未満の人という条件がある。
「長く働き過ぎている人は副業制度を使えない、ということです。すると生産性が上がります。副業もキャリアであり、転職もキャリア。カゴメにはカムバック制度があって元の職位で復帰できます。また、キャリア志向の人のために専門職コースを新設しました。これらの制度を設けることで、自分で自分のキャリアを決められるようになり、会社と個人がフェアで対等な関係を持てるようになります」
聴講者との質疑応答
Q. 社内のすべての仕事を、職務等級にひもづけているのでしょうか。また、それに関して職務分析を行われていますか。
有沢:職務等級を導入しているのは管理職以上です。なぜ現場の担当者は職務給にしないかというと、皆さんの会社もそうだと思いますが、現場の担当者の仕事がどんどん広がるからです。上司から仕事を振られたり、プロジェクトに入ったりして、仕事はどんどん広がります。担当者の仕事を限定してしまうと、その人はなかなか成長できません。機会を与えるためにも、担当者に職務等級を導入していないのです。ただし、評価と処遇ははっきりさせています。
また、管理職については1年ほど職務分析を行いました。しかし、仕事は毎年変わっていきますから、職務分析も万能ではない。カゴメで職務規律書をつくっているのはキーポジションだけです。ただし、社員全員のKPIシートには「あなたはどんな責任を持っていますか」と仕事の責任の所在だけは明確にしています。
Q. 地域カードの利用によって、勤務地を変えない人と変える人という違いが生まれると思いますが、そこに処遇の差はありますか。
有沢:カゴメには以前、勤務地が変わらない地域職がありましたが、これを止める代わりに勤務地が選べる地域カードの制度をつくりました。地域カードはあくまでも社員個人の都合に合わせる目的のものですから、勤務地を変えても変えなくても、そこに処遇の差はまったく生じません。
Q. 地域カードで勤務地が変わるときには、職種の希望は聞いてもらえますか。また、東名阪に人員が集中するのではないかと思うのですが、実際はいかがでしょう。
有沢:職種はできるだけ同じものを用意しますが、ポジションに空きがないときは一旦別の仕事に就いてもらうときがあります。経営としては社員にいろんな仕事を経験してほしいとも考えているので、意図的に別の職を提案し、その後HPBP(人材育成担当)が支援するケースもあります。東名阪への人材集中は私も心配していましたが、実際に行ってみるとそんなことはありませんでした。例えば九州への異動が人気で、地方への希望理由もさまざま。結果として集中は避けられています。
カゴメの“サクセッションマネジメントと次世代経営者育成”
有沢氏は人事としての最重要な仕事として、次の社長をつくることを挙げている。そこで大事になるのが、特定ポジションの後継者育成計画をマネジメントするサクセッションマネジメントだ。
「現在のカゴメの社長は2020年1月に交代したばかりですが、創業以来、初の理系出身の社長です。2、3年前から数名の候補者に絞り込んで決定しました。次の社長の候補者探しもすでに始まっています」
こうした経営を担う者に対する育成および透明性の高い選任の実現は、コーポレート・ガバナンスコードによる必達事項でもある。コーポレート・ガバナンスコードとは金融庁が上場企業に対して提示している国際的な企業評価を高めるガイドラインだ。カゴメではポジション・人材情報について可視化を行っている。その流れは「キーポジションの選定→後継状況の可視化→人材要件の明確化→望ましい経験・キャリアパスの明確化→現在の人材の可視化」だ。その後は人材会議・報酬指名諮問委員会で議論して意思決定し、候補者のレベル向上を図る。人材開発に結びつけて、現任者および候補者の底上げを行っている。
「カゴメでは次世代の中長期人材プールとして、40歳くらいから母集団をつくり始めます。次に役員および主要部長ポストについて、ポジションベースの人材管理を行って、候補者の順位づけを行います。そしてポジションごとの候補者マップをつくり、そのポジションに今候補者がとれだけいるかが一目でわかるようにしています」
また、ポジションごとに人材の育成方針を決定している。どの部署のどの地位をどれくらいの期間で経験すべきか。経験する順序についても考えている。だいたい10年後までをイメージして人材をプールしているところだ。
「候補人材の入れ替えももちろんあります。敗者復活も可能。候補者は社内とは限りません。社外の人材も含めて考えています。そして人材は役員になってからも育成が続きます。定期的な役員教育を実施しています」
カゴメにおけるHRビジネスパートナー(HRBP)機能
カゴメは2025年までに「トマトの会社」から「野菜の会社」への変革を目指しており、人材・組織両面の成長を支え、促進するために、2017年度からHRBP機能を導入した。社内的には「人材育成担当」と呼ばれている。その役割は「個人の自律的キャリア開発支援」「現場人事課題の明確化」「経営・本部と人事の強固なブリッジづくり」だ。
「人事部内にHRBP担当を設置し、人事部長・各機能担当、および各担当本部と連携しながら、現場における人事課題やその解決策について、意思決定機関である人材会議に報告・提案を行っています。そのため、HRBPの担当には、役員一歩手前くらいの大変優秀な人材を当てています。営業部長や工場長など、さまざまな分野の出身で、各々が人脈を持ち、人間性が豊かな人たちです。
HRBPの担当者は現場に張り付いて、常に『現場が何をやりたいのか』を考え、そのためにどうしたらいいかを明確にするため、現場に質問をし続けています。HRBPは将来を含めた視点から現場の課題を明らかにしていくことが求められるのです。」
聴講者との質疑応答
Q. 社員として一定の年次を超えると、部門を超えるような大きな異動はなかなか難しい面もあると思います。その点で苦心されることはありますか。
有沢:人は組織で上に行くほど専門性を求められるように思いますが、現実は逆で、上にいくほどゼネラリストになることが求められると、私は考えています。下にいるときは黙っていてもいろいろなことを経験できますが、上にいくとあらためてポジションを与えないと、なかなか新しい経験はできません。だから私はあえて育成のために、部門を超えた異動を行っています。
例えば、工場の優秀な技術者を営業部門に出す。するとその人が新しい発見をしたり、提案をしてくれたりする。もちろん、ある程度は人を選びますが、それでも優秀な人は部門が変わってもきちんと成果を出せる。それにこうした異動を下の人間に見せると、新たなチャンスと捉える人が多かったので、その点でも意味があると考えています。
Q. 私の会社には何事も人事任せの風土があり、働き方改革を進めるときに「何でも人事で決めてほしい」との考えから問い合わせが殺到します。改革を進めていくときの、現場と人事のバランスはどのように考えられていますか。
有沢:人事に問い合わせが来るということは、頼りにされているわけですから、いい状況ではあると思います。しかし、人事の使命は人事戦略をつくって従業員のエンゲージメントを高めることにありますから、何でもこなせる部署と思われても困りますね。私は経営に関する問い合わせや文句であれば、直接、経営サイドに質問者をつなぐようにしています。問い合わせの対象の部署が明確であれば、その部署の役員や部長につないでしまう。企業もワンチームと考えて、どんどん他部署に協力してもらっていいのではないでしょうか。
最後に、有沢氏は人事のマインドセットの変化についての質問に答え、講義は終了した。
「HRBPの仕組みを入れて、人事部員の意識は大きく変わりました。経営に役立つために、と施策を考えるようになると、その結果も経営に直結するようになります。人事から経営への提案では、担当者自身がプレゼンテーションを行うようにしており、人事部員は経営への説明スキルも身に付けなければいけない。ただ、こうした経営に提言する場は、将来の経営人材の原石を見つけることにもつながるので行う価値があります。こうした経営との交流を人事がどれだけ行えるかが、これからの時代には求められるのではないでしょうか」