有賀 誠のHRシャウト!人事部長は“Rock & Roll”
【第6回】人事部とリーダーシップ(その2):リーダーの役割
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
前回、「リーダーシップ=目標を定め、チームを作り、成果を出す力」という定義をご紹介しました。言い換えると、それこそがリーダーの役割ということにもなります。
理念、使命、価値観
リーダーには、自分が長期的に目指すもの、また、自分が関わるチームやプロジェクトの目的を定め、それを仲間に伝え、けん引する責務があります。その目的を、理念と呼ぶこともできるでしょう。
「理念」は、「使命」と「価値観」からなります。すなわち、「使命(Vision:何をやるのか)」と「価値観(Values:どのようにやるのか)」を足し合わせると、それが「理念(Vision:自分(たち)自身の定義)」となります。
例えば、自動車メーカーの使命が一般的には「お客さまに喜んでもらえる車を作って売る」だとしても、その製品内容としては「速い車」「格好のいい車」「運転が楽しい車」「乗り心地がいい車」「燃費のいい車」「安全な車」「大勢を乗せることができる車」「荷物を多く運ぶことができる車」などと、多くの「使命」がありえます。
また、企業としても、「売上・利益を追求」「環境に優しく」「社会に貢献」「業界をリード」「人材を輩出」など、目指すべき「価値観」には多くの選択肢があるはずです。それらの「使命」と「価値観」を定め、合算をしたところで、企業目的である「理念」が定義されることになります。
「理念」の存在意義は、「自分たちが進むべき戦略の方向性、戻るべき軌道を定め、ブレをなくすこと」と「チームを結集させる旗となり、メンバーの思いと言動のベクトルを合わせること」の二点だと考えられます。例えば、壁にぶち当たった時や意見が割れた際、立ち返るべき憲章となるでしょうし、その存在がチームとしての求心力を生むことにもつながるでしょう。
理念なきところに戦略なし、戦略なきところに勝利なし
理念を掲げない組織には、骨太な戦略を策定することはできないでしょう。そして、優れた戦略を持たない組織は、まぐれ当たりは別として、長期的に競争に勝つことができません。企業社会においては、理念なきところに戦略なし、戦略なきところに勝利なし、なのです。
リーダーの役割が「目標を定め、チームを作り、成果を出す」であることはすでに述べました。つまり、理念の設定と展開はリーダーの責務なのです。一方、戦略の策定はチームで行ってもよいでしょう。人材育成やメンバーの巻き込みのためには、その方が望ましいとも考えられます。ただし、戦略の確定は、やはりリーダーの責務です。理念と戦略を語り続け、体現することも、リーダー以外にはできないことです。逆に言えば、それをする者こそがリーダーなのです。
次回は、リーダーとしてのあるべき姿勢について提唱をしたいと思います。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
理念なきところに戦略なし、戦略なきところに勝利なし
そして、それを作り、語るのはあんたの仕事だぜ!
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。