通勤手当の廃止や見直しをしてもよいか
テレワークの増加により、通勤手当の廃止や見直しを考える企業が増えています。実施に向けては、まず通勤手当の基本を理解しておかなければなりません。その上で、廃止や見直しについて考える必要があります。
1. 通勤手当の基本的な内容
法的には通勤手当の支給義務はない
法的には通勤手当を支給する義務はなく、労働基準法にも支給義務に関する記載はありません。通勤手当を支給するかどうかは、企業が自由に決定できます。実際には、福利厚生や人材確保の観点から考えて、通勤手当を支給している企業が多く見られます。
通勤手当を支給する場合は就業規則などへの記載が必要
通勤手当の有無や支給額、1ヵ月当たりの上限などは企業が自由に決めることができます。ただし、通勤手当を支給する場合は、支給基準などを決定して就業規則などに記載する必要があり、記載後は支払い義務が発生します。
- 【関連記事】
- 通勤手当|日本の人事部
通勤手当は一定額まで非課税
通勤手当は、自宅と会社を往復する交通費を会社が手当として負担するものです。交通機関あるいは有料道路を使う場合、1ヵ月15万円までの通勤手当が非課税となります。自動車・自転車などの交通用具を使う場合は、距離によって非課税額の上限が異なります。
電車やバスと、マイカーや自転車を併用して通勤している場合は両方を合算して計算しますが、この際の非課税額の上限も15万円です。
通勤手当の金額は社会保険料や年金にも影響
通勤手当は手当の一種であり、労働基準法第11条の「賃金」に該当します。社会保険料や年金額などの計算に使用する「標準報酬月額」にも含まれるので、通勤手当額が減ると社会保険料や年金額に変更が生じる可能性があります。通勤手当が一定額まで非課税である点と併せて、通勤手当の見直しにおける重要なポイントといえるでしょう。
- 【参考】
- 労働基準法|e-Gov法令検索
2. 通勤手当の廃止や見直しを考える上でのポイント3点
総務省が2021年4月に開いたテレワークに関する懇談会の配布資料では、通勤手当の見直しを考える上での要点を挙げています。
- 賃金規程にどのように定められているかによる
- 通勤手当を実費精算に変更する傾向が見られるが、どうするかは企業の考えによる
- 出勤の頻度が少なくても通勤定期代を継続支給する場合、労務上は問題ないが、税務上は税務署などに相談する
- 実費精算に変更する場合は、社会保険の手続き上「随時改定」に該当する可能性があるので注意が必要
- 【参考】
- いまさら聞けないテレワークの常識(「ポストコロナ」時代におけるテレワークの在り方検討タスクフォース資料、p.10)|総務省
- 「ポストコロナ」時代におけるテレワークの在り方検討タスクフォース(第1回)|総務省
上記を参考に、通勤手当の廃止や見直しを考える上でのポイントを三つ挙げます。
(1)就業規則にはどのように記載されているか
通勤手当の廃止や見直しを検討するには、就業規則(賃金規程)や雇用契約書などに、通勤手当について現在どのように記載されているかを確認する必要があります。
テレワークの増加により出勤日数が減ったため、通勤手当を定期代ではなく、出勤日数に往復運賃を乗じた実費で支給するほうが費用を抑えられるケースが考えられます。この場合、通勤定期代と出勤日数に往復運賃を乗じた金額とを比べて、少ないほうを支給するという旨が就業規則に記載されていれば、規則を変更することなく支給方法を変えられます。
記載されていない場合は、就業規則の変更が必要です。さらに、就業規則の変更に当たっては、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聞いた上で、意見書を添付した変更届を労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89・90条)。
- 【参考】
- 労働基準法|e-Gov法令検索
(2)出社頻度を考えて実費精算に切り替えるべきか考える
総務省の配付資料では、実費精算にすべきかどうかは企業の考え方によるとしています。資料では藤沢―四ツ谷間、ふじみ野―麹町間の試算例を示していますが、それぞれ出社が週に3日で、残りの勤務日をテレワークに置き換えた場合は、定期券でも都度乗車でも金額は変わらないとしています。資料では東京メトロの例も示していますが、これによると1ヵ月に22往復以上の利用で定期券利用のほうが得としています。
また実費精算にすべきかどうかを考える上では、時間帯による変動運賃にも留意すべきです。2021年5月28日に閣議決定された第2次交通政策基本計画では、変動運賃制の検討に言及しています。詳細な内容は決まっていませんが、実費精算では管理がより煩雑になる可能性があります。
(3)通勤手当が減ると年金も減る可能性がある
厚生年金保険料などの社会保険料は、標準報酬月額(または標準賞与額)に保険料率を掛けて計算されます。そのため、通勤手当が減って標準報酬月額が下がれば、厚生年金保険料も下がる可能性があります。
一方、将来もらえる老齢厚生年金の金額は「定額部分+報酬比例部分+加給年金額」の式で計算されます。この「報酬比例部分」は標準報酬月額をベースに決まります。
つまり、標準報酬月額が下がると、厚生年金保険料が減り月々の手取りが増える一方、将来的に厚生年金として受け取る金額も下がる可能性がある、ということです。
標準報酬月額について
給料の減額が社会保険料や年金に影響を与える仕組みの鍵は「標準報酬月額」にあります。標準報酬月額とは、社会保険料を計算する際にベースとなる金額です。標準報酬月額は次のように決まります。
報酬月額:195,000円以上〜210,000円未満の場合
標準報酬等級:14等級
標準報酬月額:200,000円
※日本年金機構の保険料額表(令和2年9月分~)による
報酬月額は32等級に分かれていて、報酬月額によって標準報酬の等級と月額が決まります。報酬月額は給与をベースに決まるため、給与が下がれば報酬月額、ひいては等級と標準報酬月額が下がる可能性があります。
なお、通勤手当の金額変更は、条件によっては標準報酬月額を改定する「随時改定」に該当する可能性があります。その場合は、日本年金機構へ月額変更届を提出する必要があります。
通勤手当は非課税のため、代替手当の新設で手取りが減ることも
通勤手当の廃止や見直しを行う際に、年金や手取り給料が減額する可能性が従業員に与える影響を考慮して、代替手当を新設する方法もあります。代替手当に入るものとして想定されるのは、在宅勤務でかかる通信費や光熱費の支給などです。
ここで考慮しておきたいのが、通勤手当は一定額まで非課税である点です。しかし、代替手当は課税対象と見なされるケースもあるため、手当を新設しても従業員の手取りが減る可能性がある点は押さえておきます。
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