業務委託
業務委託とは?
業務委託とは、発注者から受けた仕事の成果物・役務を提供することによって報酬が支払われる仕事の仕方です。企業は求める成果や役務の目的に合わせて柔軟に報酬を決定することができますが、原則として仕事のやり方を細かく指示したり、勤務時間を指定したりといった指揮命令を行うことはできません。業務委託で仕事を発注する場合は、労働契約と見なされないよう、また契約書と実態に相違が生じないように注意する必要があります。
業務委託と似た言葉との違い
雇用・正社員・アルバイト・パートとの違い
正社員、アルバイト、パートと業務委託の大きな違いは、労働契約の有無です。正社員やアルバイトなど、企業と雇用契約や労働契約を結んでいる人は「労働者」に該当します。労働者は、労働基準法やパートタイム労働法などの労働法の保護を受けられます。したがって、最低賃金や所定労働時間、休憩時間、割増賃金、年次有給休暇となどのルールが適用されます。
一方、業務委託の契約は労働契約とは異なります。業務委託で働く人は「事業主」として扱われ、労働法の保護を受けることができませんが、就業場所や勤務時間など、発注者からの指揮命令を受けずに、自身で働く場所や時間を選択できます。最低賃金法や労働基準法、労災保険法、育児・介護休業法、健康保険法、厚生年金保険法などといった労働者に適用される法律が、業務委託では適用されません。そのため、深夜10時以降に稼働してもその分の割増賃金の支払いはなく、育児休業・介護休業なども対象外です。
労働者派遣との違い
労働者派遣とは、労働者が派遣元会社と労働契約を結んだうえで、派遣先会社で働く雇用形態です。派遣労働者は、就業先である派遣先企業から指揮命令を受けて働きます。しかし、トラブルなどが発生した場合は、労働契約を結んでいる人材派遣会社(派遣元会社)が対応します。雇い主と指揮命令権を持つ企業が異なる特殊な雇用形態となることから、労働者派遣法において細かいルールが定められています。一方業務委託では、発注元の企業から指揮命令を受けることは原則としてありません。
- 【参考】
- さまざまな雇用形態|厚生労働省
請負・委任・準委任との違いはあるか
民法には「請負」「委任」「準委任」と呼ばれる契約がありますが、「業務委託」という契約の名称は民法にはありません。これら三つを総称した呼び方が業務委託と考えられています。
- 請負:請負契約とは、請負人がある仕事を完成することを約束し、注文者がその仕事の成果への報酬を約束することにより成立する契約です(民法第632条)。契約内容によっては着手金が支払われるケースもありますが、仕事が完成したあとに報酬が支払われるのが一般的です。建設業などの請負工事、ピアニストの演奏依頼、ソフトウェア開発などが該当します。
- 委任:成果物ではなく業務の履行自体に対して報酬が支払われる契約であり、法律行為を行うものをいいます(民法第643条)。請負との違いは、業務を遂行した部分に対して支払われる点です。たとえば、弁護士が弁護を請け負った場合、敗訴でも勝訴でも結果に関係なく費用が発生します。
- 準委任:準委任は、法律行為以外の業務の履行に対して報酬が支払われる契約です。コンサルティングや、研修会社などが該当します。
「請負」「委任」「準委任」のどれに当たるかは契約書の名前だけでは性質が判断しづらいため、契約書の記載にある内容で判断します。
業務委託のメリット・デメリット
業務委託のメリット
業務委託の企業側のメリットとして、「業務コストの効率化」「生産変動への対応」「専門スキルの有効活用」が挙げられます。
- 業務コストの削減・効率化
- 生産変動への対応の自由度が高い
- 予算・スケジュールに対応しやすい
専門的な業務や一時的に発生する業務を行う部署を新しく組織の中につくれば、設備のほかにも人材採用や教育に関する費用が必要になります。業務を専門的なスキルを有する人や信頼できる人に委託すれば、業務の効率化につながり、教育コストも削減できます。いわゆる3年ルールがなく、有期雇用労働者の派遣社員のように同じ業務に携われる上限が3年といったこともありません。コストを削減しつつ、同じ形態で中長期的に業務を行ってもらうことが可能です。
スポットやプロジェクトごとに依頼ができる業務委託は、生産変動へ柔軟に対応することが可能です。近年は、インターネットを通じてフリーランスなどと簡単にマッチングできるプラットフォーム・アプリが発達しており、企業は必要なときに人材を確保することが可能です。マッチングのプロセスは、派遣会社に依頼するよりも簡素で、より短期的なスパンでの変動に対応することができます。業務委託の契約を終了する場合も、正社員の人員整理の際に求められる解雇回避の努力や、有期雇用の労働者の雇止めなどは問われません。
ただし、労働法が適用されないだけで、下請法や民法の規定は適用されます。自由に契約が解除できるわけではありません。契約期間の途中で契約を終了する場合は、債務不履行などの問題も発生するため、訴訟リスクまで考えた契約内容にする必要があります。
業務委託は、派遣のように労働に費やした時間で費用が発生するわけではないため、予算やスケジュール、成果物の質を優先して依頼することが可能です。
業務委託のデメリット
- 成果物の質のコントロールが難しい
- 費用が高額になる可能性もある
- 労働契約とみなされる恐れがある
業務委託は、指揮命令権が発注者にないため、作業の進め方について指示を出すことは原則としてできません。そのため、成果物が想定とまったく違うものとなるリスクがあります。期待する成果を得るには、契約時に業務内容や量を明示し、委託側と企業の目的や業務遂行レベルを共有することが重要です。進捗状況の共有を依頼することは問題ないため、定期報告の場を設けるとよいでしょう。
業務委託では、専門性の高い仕事を依頼する場合、自社で対応するよりも費用が高額になる可能性があります。削減できるコストと得たい効果、業務委託で発生する費用とのバランスを考えることが必要です。
本来業務委託では行うべきではない労務管理などを行うと、労働契約とみなされる可能性があります。過去には、請負会社の社員が実態は労働者派遣であるとして、発注者に雇用責任を求めた事例があります。実態は労働契約・労働者派遣契約であるにもかかわらず、業務委託とする行為は「偽装請負」と呼ばれ、問題視されています。
労働契約と判断されると、労働基準法などさまざまな法令に違反します。未払い残業代の問題が発生するほか、年次有給休暇を与えなかったことに対する行政指導、健康保険の被保険者として届け出なかったことに対する損害賠償、労災保険の適用の問題や労働災害を被ったことによる慰謝料請求など、多数のリスクが発生する可能性があります。
労働契約とみなされないような業務委託を心掛ける必要
労働契約とみなされないためには、業務委託で行ってはいけないことを把握することが大切です。業務委託の受託者が、労働者としてみなされるポイントには以下のものがあります。
- 拒否権の有無
- 指揮命令の有無
- 拘束性の有無
なお、一つの基準をもって業務委託契約が労働契約であるかを判断するのではなく、実態を総合的にみて判断されます。
拒否権の有無
業務委託では、発注者からの依頼を受けるかどうかについて、受託者が自らの意思で決められなければなりません。拒否権がない場合、労働者とみなされる可能性が高くなります。
指揮命令の有無
業務のやり方など、発注者から具体的な指示を受けている場合、労働者とみなされる可能性が高くなります。
拘束性の有無
勤務場所や勤務時間が発注者から指定されている場合、拘束性が高くなり、労働者とみなされる可能性が高くなります。ほかにも、「仕事で使うパソコンなどの備品を貸与されている」「福利厚生を受けている」「時間に対して報酬が支払われている」といった場合も注意が必要です。
業務委託ではなく労働契約と認定された場合
業務委託ではなく労働契約であり、受託先が発注者の労働者として認められた場合、労働基準法に従い、本来労働者に対して行うべき措置を整備しなければなりません。
- 有給休暇の付与
- 残業代の支給
- 最低賃金を上回る適正な賃金の設定
- 社会保険や雇用保険の適正な加入
- 雇用契約書や労働契約書の作成や労働条件の明示
さらに、業務委託として契約していた過去にさかのぼって、以下のような対応が求められます。
- 社会保険料の加入と支払い
- 最低賃金を下回る場合差額賃金の支払い
- 残業代未払い分の支払い
- その他業務災害発生時には災害補償や慰謝料の支払いなど
法令違反を避けるには
契約書と実態に齟齬がでないようにすることが大切です。業務委託と労働者派遣の契約の違いを認識したうえで業務の依頼をするなど、発注側は正しく対応しなければなりません。また、契約の時点で、契約書に業務の範囲や報酬などを明記し、説明責任を果たして、双方が合意することが重要です。
2023年5月に公布された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」では、書類などによる取引条件の明示や、禁止事項などが定められています。働き方の多様化とあわせて、最新の法令を確認し、法令違反にならない労務管理を行うことが大切です。
指揮命令が必要な業務であれば、はじめから労働者派遣や正社員雇用を検討するなど、コンプライアンスに問題のない方法を選択する必要があります。
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