感性を研ぎ澄ませて時代の流れを読み、
あとは行動あるのみ――
「管理部門特化型」の人材紹介で市場を創造
株式会社MS-Japan 代表取締役社長
有本隆浩さん
「管理部門特化型エージェント」に時代の追い風
設立当初の求人誌ビジネスから現在の人材紹介業にシフトされた背景をお教えください。
会社を立ち上げて絶好調のスタートを切ったのが1990年。バブル景気の終焉の年です。当然、バブルが崩壊した翌年からは、求人ビジネスは急速に落ち込んでいきます。会計事務所と繊維業界の求人誌も参画社数が減っていきました。このような背景で、「次はこれでいこう」と発想したのが人材紹介、それも「管理部門特化型の人材紹介」だったのです。
世間では景気後退で、大手企業が大規模なリストラに踏み切っていました。真っ先に対象になったのが管理部門。総務、人事、経理、法務などの人材です。普通ならそこに特化しても需要がないと思うでしょう。しかし、私は絶対にビジネスチャンスがくると読んでいました。やる以上、NO.1になりたいと考え、総合型で大手の人材会社と勝負するのではなく、管理部門特化型の人材紹介事業で、領域でのトップを採ろうと判断しました。
1990年代前半は規制緩和が進む前で、厚生労働省の認可をもらうのが非常に難しい時代でした。設立間もない会社で、経営者の私は30代になったばかり。非常に苦労しましたね。1995年に全国でも30社ほどしか認可されていない状況の中、当社が人材紹介会社として認可を受けた際には、業界では「奇跡」と言われました。もう本当に情熱だけでした。
ただ、結果的には非常に良いタイミングでの開業になりました。このあたりは運が強いんでしょう。というのも、ちょうどその年が「キャリア採用元年」になったからです。バブル崩壊でリストラを行った大手企業が、はじめて積極的なキャリア採用に踏み出した。これは当社にとって大きな追い風になりました。
現在のIFRSとは異なりますが、「国際会計基準」が導入されはじめたのも同時期。USCPA(米国公認会計士)の有資格者を採用したい企業の求人依頼が一挙に増えます。さらに「ナスダックジャパン」などの新興市場が立ち上がって、ベンチャー企業のIPOブームが到来しました。これも管理部門のスペシャリストの採用拡大につながっていきます。そこからは追い風をうまくとらえて、人材紹介事業を軌道に乗せることができました。
見事に「時代の流れ」を読まれたわけですね。
次に何が来るかを察知する感性は、いつも研ぎ澄ませていたと思います。IPOブームを察知したときには、どこよりも早くIPO支援に着手しました。また、公認会計士や弁護士が活躍するフィールドを広げたのも当社です。従来、会計士は監査法人、弁護士は法律事務所、と就職先はごく限られていました。しかし、不況で監査法人が採用を絞ったり、法科大学院の制度ができて弁護士が増えたりしたことで、せっかくの有資格者が働き場所を確保できない時代になります。そういう会計士、弁護士たちに、当社は「企業内で活躍しませんか」という提案をいち早くしていったわけです。もちろん、同時に企業に対しても会計士、弁護士を採用するメリットを伝えて営業していきました。2000年頃には企業内弁護士は全国でわずか60人ほどでしたが、現在では約2000人近くの方が活躍しています。この新しい働き方、マーケットを提案してつくり上げたのも当社なんです。
そのような「流れ」は顧客を見ていればわかります。管理部門に特化したのも、リストラをしたら必ず揺り戻しがくると読んでいたからで、決して思いつきだけではないんです。リーマンショック後にも、多くの人材紹介会社の業績が半減する中で、当社は25%ダウンで持ちこたえました。多くの企業がバブル崩壊後のリストラの反省から、管理部門の重要性を再認識していたからです。近年でも「J-SOX(内部統制報告制度)」や「コーポレートガバナンス・コード」などさまざまな動きがあり、それらがすべてビジネスチャンスにつながっています。法改正、制度改正を常に注視し、どこよりも早く対応してきた。だからこそ先駆者としてマーケットを握れたのだと思います。
有本社長が経営者として大切にしていらっしゃることは何でしょうか。
「感性」です。感性は変化を好みます。変化の中にあるビジネスの芽を、誰よりも早く察知する。
より具体的なところでは、「最大の売上、最少の経費」こそが経営の本質だと考えます。設立してすぐの求人誌の話のところで「値決め」こそがポイントだとお話ししましたが、人材紹介業でもそれはまったく同じ。顧客が妥当だと考える範囲内で最高の値決めができれば、利益は最大になります。同時にコスト管理もしっかり行う。自社ですべてまかなうのではなくネットワークもフル活用します。人材紹介会社の中で当社の利益率は最高水準のはず。キャッシュフローを最大にする経営が実現できています。
この「値決め」の感覚を養えたのは、やはり小さい頃の家庭環境でしょうね。商売の感覚を身につけさせてくれた親には感謝しています。決して先天的なものではないと思いますよ。小さい頃からの訓練によって、いくらの値段なら売れるか、ぎりぎりのところが瞬時にわかるようになるんです。市場でいちばん高く売れるラインさえ見つけられれば、もう高収益・高付加価値は約束されたようなものですよ。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。