すべてはCSマインドから始まる
リピーターを生み出し続けるユナイテッドアローズの「理念経営」とは
株式会社ユナイテッドアローズ
執行役員 山崎万里子さん 人事部長 安田 徹さん
理念は掲げるものではなく、使い倒すもの
これから取り組んでいくという、従業員参加型の人事制度改革についてご説明いただけますか。
山崎:私たちが大切にしている価値観を表したものが経営理念であることは、創業時も今も変わりません。しかし従業員が4,000人を超えて、考え方や働き方も多様化している中で、「一つのルールの中で全員がモチベーション高く働くのは限界があるのではないか」と、経営層が仮説を立てたのです。そこで、従業員に本音を聞いてみようとサーベイを行いました。「会社についてどう思う?」「将来への不安はある?」「お給料はどう思う?」などと、従業員インサイトを探ってみました。
その結果から分かったことが、四つあります。CSマインドは非常に高い、会社に対するロイヤリティも高い、しかし、新たなポジションに挑戦することなどの「機会提供」に不満があり、「評価に対する納得性」にも不満がある、といったことです。新たな職種にチャレンジしたいと思っても、社内公募はなかなか狭き門。本部の仕事を経験してから店頭に戻ると見え方が変わるように、さまざまな経験をしてもらうことは、組織・個人両者にとって長期的なメリットが大きい。そこで、ジョブローテーションを制度化していくことにしました。
また、昇格基準や評価の決定プロセスといったテクニカルな面も含めて「目標管理制度」を見直さなければなりません。通常なら人事部が主導すべき領域なのですが、あえてプロジェクトにしました。人事の経験が全くない取締役と営業部門の事業部長もプロジェクトに加わり、給与と賞与の比率や報酬テーブルの見直しなどを行っています。現場の意見が入ることで、人事サイドの事情に左右されない、現場にやさしい制度をつくることができると考えています。
4,000人規模の会社で評価制度を変えるとなると、大規模な改革になりますね。
山崎:まさに「評価報酬制度の根こそぎ改革」です。全員がじわじわと上がるような評価制度では、誰も満足しません。まずは、組織として誰に報いたいのかを明確にする必要があります。その「誰」を突き詰めていくと、やはり「理念を体現できる人」に行きつきます。現状の問題点は、目標の高さや難易度が評価に考慮されていないこと。チャレンジングな仕事でとった100点と、ルーティンワークの100点が同じ重みになっているので、一つの目標管理制度の中で評価するのはフェアではありません。チャレンジした人には正しくペイしたい。健全な組織であるためにも、機会を提供し、報酬できちんと報いることができるよう、取り組んでいきたいですね。
仕組みを整えつつ、採用や育成面で取り組みたいことはありますか?
山崎:私は「手挙げの教育」をもっと充実させていきたいですね。「これを受けてください」と会社から発信するのではなく、将来やってみたい仕事やまだ見ぬ機会に向けて、社員が主体的に学べるような場をつくりたい。ビジネススクールの単科受講のように、手段はいくつかあると考えています。組織人事、アカウンティングファイナンス、マーケティング戦略、これらを知っているだけでビジネスは面白くなります。マーケティング部門にいた人は、マーケティングは分かるけれどファイナンスは分からない。そうすると、ずっと同じ場所にいることになってしまいます。フィールドの異なる仕事がしたかったら、横串を刺して勉強しなければなりません。知らなければダメということではなく、やることによって見える世界が変わることを伝えたいですね。
最後に「理念」に戻りますが、理念の浸透に必要なものは何でしょうか。
安田:いつでも思い出してもらえる状態にしておくことが大切です。弊社では、理念ブックという冊子の制作に力を入れています。「ユナイテッドアローズらしさを写真で表すと」というフォトブックも作成しているのですが、ちょっとしたアートブックのようになっています。このように、楽しみながら理念を考える機会を設けていることが浸透の理由の一つだと思います。また、理念をスマホで持ち歩ける従業員向けアプリも開発しています。例えば「店長HANDBOOK」には、チームビルディングやお店でのコミュニケーション、モチベーションアップの方法などが書かれています。仕事の中で迷ったときにいつでも立ち返れるよう、「理念を持ち歩く」ことができるようにしました。
山崎:理念がただの標語になってしまっているようでは、意味がありません。掲げるだけではなく、使い倒すこと。理念のキーワードを、しつこいくらいに声高に叫ぶこと。そうすれば、経営層の意思決定でも販売スタッフの接客でも、迷ったときに次の一手を示してくれる温かい存在になってくれると思います。