野村證券株式会社:
多様性に優先順位をつけない!
野村證券の“草の根”発「ダイバーシティ&インクルージョン」の取り組みとは(後編)[前編を読む]
野村證券株式会社 人材開発部 エグゼクティブ・ディレクター タレントマネジメント・ジャパンヘッド 兼 ダイバーシティ&インクルージョン・ジャパンヘッド
東 由紀さん
目に見える違いにとらわれず、見えない違いにも心を寄せて
前半でもご紹介がありましたが、御社では、社員ネットワークの活動と並ぶダイバーシティ推進のもう一つの柱として、研修にも力を入れています。
はい。今期から初めてすべての管理職を対象にダイバーシティ&インクルージョン研修を実施することになりました。その他、新卒・中途採用の採用研修や新しく管理職になる人向けの研修などにも、ダイバーシティ推進の内容が入っています。研修でも、女性への支援を優先するようなことはありません。人と人の間に存在し得るあらゆる違い――特に外見上の性別や人種などの“目に見える違い”だけでなく、価値観や信条、受けてきた教育、性的指向といった“目に見えない違い”にまで配慮することの必要性を伝えています。目に見える違いだけにとらわれると、そこにはどうしても思い込みや決めつけ、偏見が生まれやすい。「男のくせに」なんて暴言にもつながってしまうわけです。
LGBTへの対応は、まさにその典型例ですね。
やはり日本では特に理解が遅れている部分なので、研修でも力を入れています。LGBTに限らず、ダイバーシティ研修全般に言えることですが、具体的にそれが自分の仕事にどう影響してくるのか、ビジネススキルの一つとして伝えると反応がいいですね。たとえば営業の支店長向けには、次のような事例を紹介します。皆さんが男性の部下を連れてお客さまを訪問した際、雑談中に「こいつ、もう30にもなるのに、彼女もいないらしいんですよ。“こっち”じゃないかと思って」と紹介して同性愛ネタでウケを狙ったとしましょう。もし、そのお客さま自身がLGBTの当事者だったらどうしますか、と。なるべくリアルなシチュエーションに結びつけて、理解を促すように工夫しています。
LGBTについては、今年から新卒採用の現場でも面接官向けのガイドラインに入れることにしました。弊社の取り組みに対する認知が広がり、当事者の学生はもちろん、そういう姿勢に共感して弊社で働きたいという学生の方も増えてきましたからね。
また女性に関してですが、一貫して以下の三つのステージでのキャリア支援研修に取り組んでいます。一つ目は「働き続けるため」の施策として、女性社員のキャリア意識の醸成を目的とした「WOMAN IN NOMURA」研修を、2年次社員および、新入社員を指導する立場にある入社6~10年目の女性社員向けに実施しています。二つ目は「ステップアップするため」の施策で、男女問わず参加できる自由選択型研修を年間 30本以上提供。唯一女性限定の「女性のための成功するセルフ・ブランディング」研修は、女性が自分をブランドとして捉え、自分の良さをアピールするためのブランド戦略を構築するプログラムになっています。さらに三つ目の「引き上げるため」の施策として、女性管理職を対象にメンタリング・プログラムやスポンサーシップ・プログラムを実施、組織をけん引する女性リーダーの育成を進めています。
多様な取り組みについてご教示いただきありがとうございました。最後に、ダイバーシティ推進に取り組む他社の人事部門の方々へ、メッセージをお願いします。
弊社では今年初めて、社内でダイバーシティに関する意識調査を実施しました。その結果を見ると、ダイバーシティという言葉の意味を「理解している」「やや理解している」と答えた人の割合の合計は全体の92%。また、会社がLGBTへの取り組みを行っている目的は何だと思うか、という問いに対しては、「多様な社員が働きやすい職場環境の醸成」「優秀な人材確保/保持」「新たなビジネスチャンスの創設」などのポジティブな回答が全体の約9割を占めたんです。数年前だったら、この結果はとても考えられません。弊社のような草の根中心の取り組みでも、ここまで広げることができたということを、まず皆さんにも知っていただきたいですね。そして、繰り返しになりますが、ダイバーシティとは、決して女性活躍推進だけを意味しないということです。予算も人員も限られるので、取り組みに優先順位や進捗の差が生じるのはやむをえません。ただ、活動を広げていくためには、最初の段階で、ダイバーシティとは多様な人材と価値観が存在することである、という本質の部分をきちんと打ち出し、前提として共有しておくことが重要でしょう。