経営者・人事の視点で取材!業界の傾向と対策
人事管理・給与計算業務を支援するシステムの選び方
製品の高性能化、人事トレンドの変遷。人事部門が利用するシステムは多様化しています。自社の人事システムの導入を考えるにあたって、一般的に自社開発よりも短期間かつ安価に導入ができるパッケージソフトの最新情報をお届けします。
※この記事は2005年6月に作成しました。その後、2018年3月に各社のサービス情報を最新のものに更新しています。
企業の人事を取り巻く環境は、この10年の間に、変化の時期を迎えています。中途採用の活発化による人材の流動化、年功賃金の廃止、早期退職制度の導入、成果主義人事制度の導入企業の増加と、その揺り戻し。また、少子化に伴う、生産年齢人口の減少など、企業の『人材』に対する考え方そのものが変わりつつあります。
事実、人材マネジメントを示す言葉として、『HRM』や『HCM』という言葉を耳にする機会が増えています。『HRM(Human Resource Management)』は従業員の能力を企業の資源として捉え、従業員を公正に評価し、適正な配置をすることで、企業にとって最適な人材活用をする、という考え方。『HCM(Human Capital Management)』は『HRM』の発展形として、従業員を資本と考え、『HRM』以上に、従業員一人ひとりの能力開発とキャリアパスの構築に力点を置いた考え方。『HRM』や『HCM』に基づいた人事政策をとる場合、従業員の業務内容やコンピテンシーと各人がもつスキルを把握し、適宜、必要な教育・研修、配置を提供し、適正な評価、報酬を与える必要があります。
こうした場合、従業員の個人情報だけでなく、業務内容、異動履歴、研修受講履歴、評価履歴、など様々な情報を管理することになり、膨大な量の従業員情報を管理するには、人事情報システムが必要不可欠だと言えます。企業の人事部門が利用するシステムには、人事管理、給与計算などの定型業務の効率化を目的とするものから、成果主義人事制度・グループ人事管理・シェアードサービス化・現場への人材マネジメントの移行をサポートするものまで幅広く製品が存在します。その利用目的によって、機能や導入までにかかるコストや工期が大きく異なります。実際の導入を検討する前に、どのような点に注意し、どのように候補製品を選択していくべきか、注目製品の最新情報を交えながらご紹介します。
人事管理・給与計算パッケージソフトに求めること
企業の人事部が、人事管理システム、給与計算システムの導入を検討する際、システムに何を求めるのかを明確にすることは、非常に重要です。人事部にとって日々の業務に直結するシステムだからです。自社の人事制度を運用していくうえで、(1)どのような情報を管理したいのか、(2)その情報をどのように加工してどんなデータを得たいのか、(3)そのためにどんな機能を自社で必要としているのか、など。システム運用の先駆者である欧米でも、人事システムの導入が活発化しています。定型業務の効率化だけでなく、人事情報を収集、管理、加工し、経営判断に活かす目的でのシステム導入が増加しているのです。
主な人事管理システムの機能
人事部門の定型業務をスピーディに処理する
・従業員データ管理……データの一元化
・給与計算………………処理速度、安定性
・各種申請処理…………ワークフロー機能の有無
・法定帳票の作成………各種帳票出力機能
・グループ人事対応……複数会社対応機能の可否、WEB対応の可否
変化への対応
・組織変更……各種シミュレーション機能の有無
・現場への人材マネジメントの移管……
目標管理、ワークフロー管理機能の有無
・成果主義人事制度への対応……
従業員データとスキルやコンピテンシーと評価の連携、
目標管理機能の有無
従業員の満足度向上
・教育・研修の提供……受講履歴管理機能
・教育・研修の提案……職務内容、評価との連動による研修のマッチング機能
経営指標としての人事データ活用
・各種分析……分析・レポーティング機能の有無
では、こうした機能を持ち合わせている製品にはどのようなものがあるのでしょう。実際に利用イメージによって、製品を大きく区分すると、以下の4つに分類されます。
- 調達、生産、販売、会計、人事などの基幹業務を統合した業務パッケージソフト。ERP(Enterprise Resource Planning)の人事モジュール
- 人事・給与専門のパッケージソフト (クライアントサーバ型:サーバーにインストールしクライアントPCから操作する)
- 人事・給与専門のパッケージソフト (クライアントサーバ型:サーバーにインストールしクライアントPCから操作する)
- 人事・給与専門のパッケージソフト (クライアントサーバ型:サーバーにインストールしクライアントPCから操作する)
製品のコンセプトを知る
海外製ERPの人事モジュール(人事機能)と、国産のパッケージソフトとでは、製品のコンセプトが異なります。欧米と日本とでは、雇用環境や人事制度、文化などが違うからです。具体的には、前者は、欧米の成果主義人事制度への親和性が高く、職務に求められる能力と各従業員のもつ能力の差分を評価や教育に活かすことを目的とし、後者は定型業務の効率化、安定性、法定帳票出力など人事部門の業務の軽減と日本固有の人事制度に対応することを目的としています。
国内の新製品の傾向としては、従業員の人事情報管理、月々の給与計算などの定型業務をカバーするだけでなく、社内の人事情報を戦略的に活用できる機能が拡張されつつあります。国内の製品が、海外の製品に近づいてきていると言えるでしょう。もともとのコンセプトに違いはありますが、どちらも定型業務等の人事・給与パッケージソフトとして、国内で利用するための基本的な機能は網羅されています。
ただ、あらかじめパッケージとして用意された機能の守備範囲と力点が違うということは理解しておいたほうがいいでしょう。どうしても自社に必要な機能であれば追加開発することで、機能面の過不足を補うことができます。導入の最重要目的は何であるのか、必要な機能の優先度はどうなのかをはっきりさせ、コンセプトの近い製品を選ぶといいでしょう。
価格はどうやって決まるのか
では、各製品の価格はどのように決まるのでしょうか。「A社製品は高い」、「競合のC社はB社の製品を導入したようだ」、など、製品を比較検討する材料としては心もとない情報を耳にすることがあります。同じ会社の製品でも、発注時の要件や、発注の仕方によって、初期導入費用が上下します。表1に、価格帯と導入済み企業の従業員規模、おおよその工期の目安を示しています。もちろんこの価格帯もあくまで目安にすぎず、この範囲を超えるケースもあります。価格が上下する理由は、システム導入時の初期導入費用の内訳が表2のように、様々な構成要素をもっていて、発注する要件によって変わる部分が非常に大きいからです。
種類 | 価格帯の目安* | 従業員規模の目安* | おおよその工期の目安* | ||
---|---|---|---|---|---|
1 | ERP(Enterprise Resource Planning)の人事モジュール | 海外 | 数千万円~ | 1000人~ | 半年~数年 |
国内 | 1000万円~ | 500人~ | 3ヶ月~ | ||
2 | クライアントサーバ型人事・給与専門のパッケージソフト | 国内 | 150万円~ | 300人~ | 3ヶ月~ |
3 | スタンドアロン型人事・給与専門のパッケージソフト | 国内 | 数十万円~ | - | 1ヶ月~ |
4 | 人事・給与関連のサブシステム | 国内 | 数十万円~ | - | 3ヶ月~ |
ソフトウェアライセンス | パッケージソフトのライセンス料*1 |
---|---|
その他ソフトのライセンス料 | |
利用人数に応じたアカウント料 | |
ハードウェア | 本番サーバー |
開発サーバー | |
テストサーバー | |
代替サーバー | |
開発費用 | アドオン開発費用 *2 |
周辺システム開発・修正費用 *3 | |
データ移行費用 | |
人件費(外部委託) | プロジェクトマネージャー |
プロジェクト事務局要員 | |
ERPコンサルタント*4 | |
業務系コンサルタント | |
インフラ系コンサルタント | |
パッケージベンダーコンサルタント | |
人件費(社内) | 要員教育費 |
社内人件費 | |
その他 | ネットワーク費用 |
ハード保守料 | |
ソフト保守料 | |
サポート費用 *3 |
*1ライセンス費用は、初期導入時の総額の中でも比率は高くないケースがほとんど。価格帯が広い理由は、各社の要件により*2~4の費用にばらつきがあること。
*2 各製品があらかじめ用意している機能のほかに、必要な機能を追加開発する場合は、その開発費用が別途かかります。
*3 また、新規で導入する製品と既に稼動している既存のシステムとを連係する場合は、連係させるための開発費用がかかります。
*4 サポートに関しては、パッケージソフトベンダーが行うケースや、サポート専門の会社が行うケースがあり、料金設定、サポート内容もまちまちなので、見積もり時に確認する必要があります。特にERPの場合は、導入コンサルタントのサポート費用が、初期導入費用の中で大きな割合を占めるケースが多いので、要注意です。
注目製品一覧
クラウド型人材データベース【カオナビ】
株式会社カオナビ
●クラウド型の人材データベース/カオナビは従来の給与計算や勤怠管理などの労務が目的の人事システムではなく、配置や抜擢といった経営者側のマネジメントを目的としたクラウド型人材データベースです。
●顔写真が並ぶ直観的なインターフェース/社員番号でも、名前でもない、顔写真が並ぶ直観的なインターフェースだから、経営陣や一般管理職など、人事部以外でも使えます。
●手軽にすぐ使え、初期費用はゼロ!/PCだけで簡単導入。顔写真で人材をアイコン化、クラウド上に人材情報を入力し、一元化します。顔写真から配置・抜擢できるので、スピーディな経営判断ができます!
費用 | 基本月額2万9800円~ |
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導入社数 | 800社 ※2018年2月期実績 |
製品形態 | クラウド(ASP・SaaS) |
スマートフォン対応 | あり |
サポート体制 | 導入支援・コンサルティング |
対応範囲 | グローバル拠点対応(多言語対応)既存システムとの連携対応 |
人事総合ソリューション「リシテア」
●業種・業態を問わない豊富な導入実績/大手・中堅企業を中心に培われた人事労務管理の知見や最適解を取り入れた製品や200名を超えるサービス体制が評価され、業種・業態を問わない豊富な導入実績を誇ります。
●従業員の価値創造と組織パフォーマンス向上/1994年以来、 従業員の多様性に寄り添う人事の実現を支援。働く一人ひとりが自分の価値を最大限に発揮できる組織の実現を支援し、企業の持続的な成長に貢献。
●「働く」を変える"デジタル人事"/リシテアは「ワークスタイル改革ソリューション」、「人財データアナリティクス」、「AI」などの“デジタル人事”で多様な人財が「躍動」する組織づくりを支援します。
費用 | お問い合わせください。 |
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導入社数 | 約1630社 ※2023年3月累計実績 |
製品形態 | クラウド(ASP・SaaS)パッケージソフト(オンプレミス) |
スマートフォン対応 | あり |
サポート体制 | 導入支援・コンサルティングヘルプデスク対応運用・管理 |
対応範囲 | グローバル拠点対応(多言語対応)法改正対応既存システムとの連携対応 |
対応分野 | シフト勤怠管理グループ経営管理 |
Rosic経営情報システム
●経営判断に必要なデータをすべて集約/人事、会計、財務、案件管理、生産・販売、業績管理など、重要な経営判断に必要なデータを持つシステムから、データを連携して一元化
●集約された様々なデータを必要な形に変換/各システムで管理されているキー構造の異なる様々なデータを、柔軟な分析・シミュレーションに対応できる形に変換して、データベースに格納。
●独自性と変化に対応した柔軟なレポート機能/経営・ビジネストップの重要な意思決定に必要な分析・レポートは、固定テンプレートでは対応できません。個社独自要件や将来の変化に対応できるレポーティング機能を提供。
費用 | 約500万円から |
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導入社数 | 導入社数非公開 |
製品形態 | クラウド(ASP・SaaS)パッケージソフト(オンプレミス) |
スマートフォン対応 | なし |
サポート体制 | 導入支援・コンサルティングヘルプデスク対応運用・管理 |
対応範囲 | グローバル拠点対応(多言語対応)既存システムとの連携対応 |
POSITIVE / STAFFBRAIN on CLOUDiS
●初期コストを抑制/ITインフラの調達は必要ありません。システム管理人数と利用機能に応じた課金体系により、初期投資のコストを抑えたスモールスタートが可能です。
●人事関連システムの運用負荷を低減/クラウド上で稼働させるだけではなく、システム運用の支援サービスを併せて提供。バージョンアップやパッチ適用、システム監視の代行で、インフラ管理や運用負担を低減。
●業務運用の要員不足にも対応可能/給与業務のアウトソーシングサービスをオプションで提供しています。システム要員だけでなく、業務運用の要員不足も解消したい企業向けのサービスです。
費用 | お問い合わせください。 |
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導入社数 | 約2700社 ※2020年08月累計実績 |
製品形態 | クラウド(ASP・SaaS)パッケージソフト(オンプレミス) |
スマートフォン対応 | あり |
サポート体制 | 導入支援・コンサルティングヘルプデスク対応運用・管理 |
ZeeM 人事給与・人材検索
●スピーデイできめ細かな人事情報提供が可能/目的に応じたオリジナルの人事台帳をWEBで検索・照会できます。 様々な人材検索・照会シーンにスピーディに応えます。
●経営層も活用いただけます/経営層が拠点訪問する際に、事前に訪問先の人材を確認できるほか、次世代幹部候補者の詳細な人事情報を経営者がいつでも確認できます。
費用 | 従業員数300名以上、ライセンス300万円から |
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導入社数 | 約2000社 ※2017年5月期実績 |
製品形態 | パッケージソフト(オンプレミス) |
スマートフォン対応 | なし |
サポート体制 | ヘルプデスク対応 |
自社にピッタリのモノを手に入れるために
ここまで、各社の代表的な人事・給与パッケージソフトをご紹介しましたが、目的次第、発注の仕方次第、使い方次第で同じ製品でも、価格だけでなく導入後の満足度が大きく異なってくることも認識しておくべきでしょう。システムを導入する理由として、多く挙げられるのは、人事制度の変更(の予定)に伴い、既存システムから新システムへ移行するというものです。導入時には、おそらく想定できる限りの想定をし、新システムを導入するわけですが、今後、5年、10年利用するシステムだと考えるのであれば、自社の人事制度がどのように変化する可能性があるのかまでを考慮して、拡張性、柔軟性の高いものを選ぶ必要があるでしょう。
人事・給与システム導入時のポイントまとめ
最重視するポイントをはっきりする
あれもこれもではなく、優先順位を明確に
定型業務の効率化、新人事制度への対応など、優先する事項を明確にし、今後、必要となる機能を満たしてくれる製品選びを。製品選びに迷ったら、どんな人事制度の下で動かすシステムを求めているのか、に立ち戻ることも大切です。大きな買い物だけに、将来を見据えた製品選びを。
業務プロセスの見直し
今の業務プロセスは最良か?
追加開発をどこまで必要とするのかによって費用が大きく変わります。システムを導入するタイミングは、人事の業務プロセスを見直すいい機会です。これまでの業務プロセスが最良の方法であったのかどうか、他にもよい方法があるのかどうか。パッケージ製品のいいところは、多くのユーザー企業の業務プロセスをカバーし、それを支えしてきた実績があることです。全てとは言わないまでも、パッケージ製品には、多くの企業で業務を見直した結果が集約されています。既存のやり方にこだわりすぎると、追加開発が膨らみ、初期導入時のコストが上がるだけでなく、パッケージソフト本体のバージョンアップ時に、追加開発した部分が妨げになる可能性もあります。
導入前後でどの程度の業務量が発生するのか
発生する業務量(=社内の人件費)も導入コストとして考えると、導入プロジェクトは、"通常業務にプラスされるものになる"、という概念のコスト管理も必要です。
既存システムとの連係
すでに導入済みの周辺システムやサブツールなどと連係するように導入をする場合、連係するために必要な追加開発の範囲がどの程度なのかを把握する。
製品の導入に際してのパートナーの姿勢を確認
最後に、数ある製品の中から、いくつかの製品に絞込みが済んだら、今度は製品だけでなく、ソリューションを担当する企業に目を移してみましょう。導入までではなく、運用開始後も長くお付き合いすることになります。パートナーときちんとコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことが、「早く」「安く」「よい」製品を導入する秘訣です。
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