給与計算業務や社会保険手続きなどの労務管理から、採用・異動・評価といった人事業務まで、総務人事部門が担うべき業務は多岐にわたります。それに加えて、昨今はタレントマネジメントの重要性が高まっており、総務人事部門には、より戦略的な人事管理が求められています。そのための強力な味方となってくれるのが「人事給与システム」。情報を一元管理し、人材の適材適所を促すデータベースは“戦略人事”の基盤となるからです。ただし、人事給与システムは安価なものではなく、頻繁に入れ替えるものでもないため、導入の際には慎重に検討する必要があります。人事給与システム選定のプロであるNECソリューションイノベータ株式会社の加藤正己さんに、システムを導入する際に注意すべきポイントをうかがいました。
- 加藤正己氏
- NECソリューションイノベータ株式会社 業種・業務営業部 シニアエキスパート
(かとう・まさみ)1990年 中部日本電気ソフトウェア株式会社 入社(現NECソリューションイノベータ)。入社後、NECにてオフィスプロセッサのネットワーク技術担当、ERP製品の拡販担当、人事・給与・会計システムの販売担当などに従事したあと、NECソリューションイノベータに復帰。人事給与・会計システムの導入責任者として20年以上の経験の中で、350社を超える豊富な導入実績を持ち、現在所属する営業部門でも人事給与・会計領域の販売責任者としてユーザーの厚い信頼を得ている。
人事の役割は「運用・オペレーション」から「戦略立案」へ
人事給与システムを導入する企業が増えていますが、その背景には何があるのでしょうか。
日本では若年層の労働人口が減ってきており、働き方が多様化しており、終身雇用という考え方は古いものになってきています。昔と比べて転職に抵抗を感じる人も少なくなり、正社員以外の働き方をあえて選ぶ人も増えています。環境の変化により人材が流動化する中、企業が人事戦略を見直さなければいけないフェーズに入ってきたわけですが、その引き金になったと言えるのが「働き方改革」でしょう。企業において、就労時間の管理や生産性の向上、女性の活躍推進に関する現状を可視化しようという動きが盛んになっています。このような状況を受けて、人事給与システムを再構築する企業が非常に増えています。
人事給与システムの導入企業に、何か傾向は見受けられますか。
企業によってきっかけは異なると思いますが、大手・中堅企業では「攻めの投資」として導入する企業が多く、中小企業では「守りの徹底」のために導入する企業が多いようです。具体的に言うと、「攻め」はグループ会社全体の人材の活用方法や次世代の幹部候補の育成、ダイバーシティ、健康経営など、組織の成長に着目しています。一方の「守り」は業務の効率化や見える化、コスト削減につながるところを目的とした導入が中心です。守りの場合も、単に残業を減らすことを目的にするのではなく、生産性向上のために自動化できる部分と従業員がすべき部分の棲み分けを考える必要があります。
その上で、どのような課題が見えてきましたか。
株式会社マクロミルと当社が実施したアンケート調査の結果を見ると、企業の規模にかかわらず、人材活用の最適化や人材の最適配置などに課題を抱えている企業が大変多いことがわかります。社員一人ひとりのパフォーマンスを十分に発揮させることができていない、と考えている企業は多いようです。また、企業規模が小さくなるにつれて、事務的な面で課題を抱えている企業が増えてくる傾向が見られます。例えばマイナンバーなど、新しい制度への対応が困難に感じていることがわかりました。
企業規模によって課題に違いがある、ということですね。製品としての人事給与システムにトレンドはあるのでしょうか。
トレンドといえば、やはりHR Techですね。HR Techとは、Human ResourceとTechnologyを組み合わせた造語です。弊社が取り扱っている『POSITIVE®』という製品でも、2018年9月のバージョンからAIを搭載した仕様に変わります。タレントアナライズ機能と呼んでいるのですが、例えば海外赴任の候補者選定する場合、現在の海外勤務者がどういう資格をもっているのか、TOEICは何点以上で、どんなキャリアを積んできた人物なのかなど、人間では見落としがちな項目まで含めて候補者が抽出されます。人の目では見逃してしまっていたかもしれないタレントを、AIなら見つけることができるのです。この機能を使うことで、個人の最大化、組織の最適化へとつなげることができます。
環境が変わったことで、人事が担うべき役割も変わってきているように思います。
そうですね。これまで人事総務部門の業務は運用・オペレーションが中心でしたが、戦略性の高い業務へと変化しなければなりません。すると、意識の変革はもちろん、スキルセットが従来とは変わってきます。そのため、人事総務部門の人材育成も、人事給与システムの導入とセットで考えなければならないと思います。
経営戦略に寄り添った人材をどのように採用していくのか、新規事業を成長させるのに必要なのはどういう人材か、誰にどのような教育研修が必要なのか、人事評価のあるべき姿はどういうものかなど、戦略的な事案を考えていくべきなのです。従来と変わっていないと感じるかもしれませんが、事業における勝利の方程式が見えない現代においては、人事にも「0→1」の力が求められます。お金の分配も、再考しなければなりません。従来は偏りなく公平に給与が支払われていましたが、今後は、より成果に応じた報酬を支払う制度が必要です。組織がお金を払いたい人材は誰なのか、育成のために研修費を投資していくべきなのは誰か、それらを見据える力がこれからの人事に求められています。
導入に向けては、まず候補を絞ることが重要
人事給与システムを導入する際に、必要なステップについてお聞きします。まず、導入に向けて気を付けるべきこととは何でしょうか。
人事給与パッケージに分類できる製品は、ERP製品や業務特化型のパッケージなども含めると、20~30以上あります。それらをすべて並べて比較検討しようとすると、膨大な検討時間が必要です。まずは製品を三点前後に絞り込むべきでしょう。いろいろな機能を知ってしまうと、「あれもやりたい」「これもやりたい」と理想をどんどん追求したくなります。しかし、利用頻度や影響範囲、効果をしっかりと見定めてから、自社にとっての重要度や優先度を冷静に判断していかなければ、思うような結果を得られずに終わってしまいます。
例えば失敗例として、自社にどれくらい導入プロジェクトに関われる要員がいるのか、負荷の状況、システムへの習熟度などを的確に捉えずに導入を開始してしまうと、当初予定していたよりも何倍も時間がかかってしまうことがあります。また多機能なパッケージを選ぶと、システム導入にかかる工数が非常に多く、煩雑になっていきます。
導入できたとしても、本番稼働後の運用負荷を見逃しがちです。運用には、それなりの知識を持った担当者を配置する必要がありますが、それをおざなりにするとせっかくのシステムも効果が半減してしまいます。せっかく業務にかかるコスト削減を実現できたのに、運用負荷が必要以上にかかってしまうと本末転倒です。実際に私も、運用できる人材を配置しなかったことで豊富な機能を使いこなせず宝の持ち腐れになってしまった、という企業をたくさん見てきました。どれくらいの導入工数・運用工数を割けるのかに加え、担当者のシステム習熟度や業務習熟度をしっかりと見極めることが大切です。理想を追いすぎないことも、重要なポイントだと思います。
事例から読み解く「攻め」の導入と「守り」の導入
これまでの企業の導入事例で印象的だったものはありますか?
私が導入に関わった企業はこの20年で350社以上あるのですが、大手食品メーカーA社のケースをお話しましょう。A社では、グループ会社を横断的に管理する人事情報データベースが存在していませんでした。人材情報が各社で個別管理されていたため、グループ全体の人材育成、人材配置などに大変苦労をされていました。そこで、まずは人材情報を一元管理し、戦略的な人事情報基盤の構築に着手することにしました。同時に、グループ統一基準の新しい人事制度を構築しました。
例えば「評価:A」という項目一つをとっても定義がバラバラだったので、まずはグループ全体でのスケールを統一しました。次世代リーダー候補として各社から「A」の人を抽出しても、その定義が違っていては意味がないからです。データベースの統一と同時に、人事制度自体を見直し、物差しを合わせました。これによってグループ間の異動もスムーズになり、戦略的に適材適所を実現できるようになりました。
この事例は「攻め」の導入に近いと思いますが、「守り」の事例もありますか。
電気部品メーカーB社は、比較的少人数の運用保守体制でした。抱えていた課題は、自社でプログラムを一から開発し、少人数で運用しているので、常にギリギリの状態で運用を回していたことでした。税法改正の対応や人事戦略の変化など、世の中の環境の移り変わりが激しく、その都度開発していかなければならないという状態です。導入に際して詳しくうかがってみると、独自色の強い過剰な手当などが給与制度を複雑にしていることがわかりました。例えば、「会社の改善に関する提案メモを提案ボックスに入れたら給与に500円が上乗せされる」というようなものです。採用されない提案でも受理されていたので、多い人は毎月それだけで2~3万円稼いでいたそうです。そのほかには、年末年始休暇・夏季休暇制度、就業形態・産前産後休暇・有給休暇制度などに特徴がありました。そこで、上流からコンサルをさせていただき、運用を圧迫していた過剰な手当てを少しシェイプさせていきました。なおかつ、パッケージでのご提案をさせていただき、運用の負荷を軽減させたことで、人数を増やすことなく、運用できるようになりました。
またC社では、グループ全体のコストダウンという課題がある中で、就業システムと人事給与システムとの連動によってコスト削減を狙いました。グループ各社がそれぞれシステムを導入すると、膨大なコストがかかります。しかし、親会社で大きなシステムを導入し、グループ全体で共有すれば、導入コストも運用コストも大幅に削減できます。更に、人事システムに導入・登録した後に勤怠システムと連携する処理が不要になるので、人事で入力したものが即時に勤怠へ反映されます。二重入力といったことも解消し、運用コストを大幅に削減することができました。
導入・運用がうまくいっている会社とそうではない会社の違いとは何でしょうか。
導入の際に主体的に関わろうとされるかどうかによって、結果が大きく違ってきます。導入目的を明確に持ち、自ら改善意欲が高い企業では成果も出ます。中には導入ベンダーに全てを任される企業もいらっしゃいます。また、プロジェクトオーナーが不在で決定権が不明確な場合もあります。しかし、それではうまくいきません。システムの打ち合わせをしていると、課題・問題点をどのような方針で進めていくべきかを意思決定しなければならないシーンが多く出てきます。そのとき、決定権の所在が曖昧なプロジェクトでは、プロジェクト期間の間延びや間違った方向に進んでしまったりして、失敗プロジェクトにつながりやすくなります。理想は、プロジェクト責任者を明確に定め、できるだけ権限を委譲することです。経営に影響を与えるような大きな課題・問題以外は、できる限り現場の判断で進められる体制を整えることがプロジェクト成功のために重要です。
事例の多さが強みのNECソリューションイノベータ
いくつかの事例をうかがいましたが、NECソリューションイノベータからシステムを導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
弊社には「製品選定支援サービス」というものがあり、その名の通り、製品の選定をお手伝いしています。システム導入にあたって、「何を選べばいいのか分からない」という方が多くいらっしゃいます。そこで、私どもの導入コンサルティングメンバーがお客さまを訪問して課題や機能要件についてうかがい、プロの目でそれぞれの会社に合う製品をお選びします。現状の課題だけでなく、将来的に解決したい課題に対する機能の追加もスムーズに行えるよう、ご提案しています。また、経営トップにお話をうかがい、その思いも機能要件に盛り込むようにしています。
また、他社製品も含めてフラットな立場で選定をしています。機能要件への充足度、費用、デモンストレーションなど、さまざまな指標を全て点数化することで、最終的にはお客さまに納得感を持って決断していただけるように橋渡しをしています。
30ほどある製品の中から、数点に絞り込んでもらえるのは心強いですね。
弊社の体制にも、三つの特長があります。一つ目は、先ほども製品選定支援サービスについてお話ししましたが、業務コンサルティング・導入支援・運用保守と、上流から下流まで一気通貫でサービスを提供している点です。さまざまな企業の業務改善を経験していますので、事例を通したノウハウが多いところが強みです。二つ目は、運用保守です。保守専用の部隊を常駐体制で抱えており、運用保守に関するポータルサイトも立ち上げています。インシデントの検索ができるため、小さな障害であればお客さまの方で速やかに解決することができる仕組みを用意しています。運用担当者の育成・人事総務部門の新入社員へのシステム教育や、日常の業務支援、社内制度が変更になった際の対応支援など、ソフト面のサポートも行っており、導入したシステムが宝の持ち腐れにならないよう支援しています。三つ目は、豊富な周辺システムの提供です。人事給与システムを核として、届出申請ワークフローやタレントマネジメント、就業管理システムのほか、メンタルヘルスケアサービス、職場環境改善支援サービス、健診結果予測シミュレーション、健診管理システムなど様々な周辺システムを揃えています。
では最後に、今後NECソリューションイノベータが提供できる価値とは何でしょうか。
業務課題を解決するだけではなく、新しい価値を生み出す共創パートナーとして貢献していきたいですね。すでに顕在化している課題への対応だけでなく、お客さまが気付いていなかった改善を生み出し、先方の事業拡大につながるような提案や、お客さま同士の引き合わせなども行っていきたいと考えています。健康経営やタレントマネジメントなど、人事がアンテナを立てるべきキーワードは多岐にわたっています。課題は見えているけれどもどうしていいか分からない方、はっきりと見えていないが、現状業務に問題意識のある方などから気軽にご相談いただけるような存在を目指したいと考えています。
※「POSITIVE」は、株式会社電通国際情報サービス(ISID)の登録商標です。
日本全国に拠点があり、13,000人のマーケットセンサーを持つ私たちだからできることがあります。それは都市部から地域までしっかりと寄り添い、当社の強みであるICTの技術力と人間力で、社会の様々な課題解決に努めることです。また見えない”未来の課題と可能性”も”こころの目”で発見し、共創パートナーと共に持続可能な世の中をカタチにしていきます。