「本音」を語ってくれない求職者
心の壁を崩すために必要なこととは
大切なのは信頼関係 転職の背景にある求職者の「本音」を知る
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どんな転職理由でも恥じることはない
「求人票をじっくりとご覧になって、いろいろと比較してみるのもいいかもしれませんね」
この日の転職相談は終了という雰囲気をつくり、本音を聞きだせるように世間話をしてみた。
「日本人の場合、お金が欲しいから転職するのを『よくないこと』『恥ずかしいこと』だと思っている人もいますが、そんなことはありませんよ」
「やりがい」や「キャリアアップ」といった前向きな理由で転職する人も、本音の部分では「年収が高い仕事につきたい」「人に使われるより使う側になりたい」といった単純な欲望がベースにあることは多い。だから、どんな本音であっても恥ずかしいことは何もない。私はざっくばらんにそんな話をした。この日のところは、「そういうこともあるのかな」と思ってもらえればそれで十分だ。
「ただ、面接の場で、企業に本音をそのまま伝えるのは控えた方がいいでしょうね。本音をうまく建前に言い換えていく必要があります。そうでないと、今度は熱意が伝わってこないと言われて面接がうまくいかないケースもありますよ」
そこまで話したところで、Mさんの表情が今までと少し変わったような気がした。
「そんなこともあるんですか。実は、別の紹介会社経由で面接を受けた企業で、大手勤務だし別に転職する必要はないんじゃないかと言われて面接で落ちたことがありました」
その言葉を聞いて、「壁」を崩してもらえるきっかけになるかな、と私は思った。
「もう少し詳しく聞かせていただけますか? 転職を成功させるために、過去の事例を分析するのはとても効果的ですよ」
それまでMさんは、他にはどんな会社に応募しているのか、話してくれていなかった。まずは信頼関係を築いて、本音を語ってもらうこと。それが人材紹介会社の仕事の第一歩なのである。
「わかりました。もう少しお時間よろしいですか?」
Mさんがもっと話したいというのに断る理由はない。
「もちろんです」
私は新しいコーヒーを取りに立ちあがった。
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