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有賀 誠のHRシャウト!人事部長は“Rock & Roll”
【第16回】メンター&ロールモデル(その4)

株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括

有賀 誠さん

有賀 誠のHRシャウト! 人事部長は“Rock & Roll

人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。

みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠

皆さん、「あのときの上司の一言が自分のキャリアを決定づけた!」というような経験をおもちではないでしょうか。今回は、私にとってのそのような瞬間を共有したいと思います。

forではなくwith

私は38歳で初めての転職を経験しました。日本の鉄鋼メーカーから、60万人の社員を擁する当時世界最大の企業であったゼネラル・モーターズ(GM)へ。初めての人事の仕事でもあります。ビジネス・スクールの同窓である中島豊氏(現在、日本板硝子CHRO)に声をかけてもらってのことでした。そのときの上司がアメリカ人のSallyさん。以下は、オファー・レターにサインをする場での彼女の一言です。

「本来であれば、年恰好が似ており、出身校まで同じであるYutakaとあなたの二人を採用することはなかったでしょう。限られたマネジメント・ポジション(日本法人の人事部長)への内部競争が、組織にとって健全なものにならないというリスクがあるからです。ただ、バックグラウンドをよく見てみると、Yutakaは純粋な人事のキャリア、あなたは生産や営業や経営企画を経験してきている。その違いから、それぞれがこの会社で活躍できるという確信をもつことができたので、オファーを出すことにしました」

スタッフを採用する時点で、目先のポジションを埋めることだけではなく、一人ひとりの成長や中長期的な組織の成功を考えている点に感動をおぼえました。優れた経営(特に人事の)リーダーとは、このような姿勢と視座をもっているのだと学んだ瞬間です。

その1年後、Sallyさんの後任としてDebbieさんが着任することになりました。職場に挨拶に来られたとき、お母さまを帯同されていました。私は自己紹介の中で、“I will be working for Debbie(私はDebbieの下で働きます)”と申し上げました。極めて標準的な表現です。ところが、お母さまは、次のようにおっしゃったのです。

“No, you will be working with Debbie(いえ違います。あなたはDebbieと一緒に働くのですよ)”

このようなお母さまに育てられたからこそ、素晴らしい人事のリーダーになるのだなと納得してしまいました。

GMから分社独立をしたデルファイという自動車部品メーカーにて、グローバルCHROのKevinさんが来日をされたときのこと。幹部社員に対しては厳しい姿勢と応対であったものの、若手と語るワークショップでは身を乗り出すようにして笑顔でうなずきながらコミュニケーションをはかっていました。

当時の私は人事マネージャーで、幹部と若手の中間くらいであったかと思います。グローバル組織のエクゼクティブというものは、自身の言動が周囲にどのような影響を及ぼすのか、常に考えながら、よい意味で「演技」をするのだなと教えられました。そのKevinさんがアジア歴訪を終えて米国へ帰る際、オフィスから送り出すエレベーターの前で、手書きのカードを渡してくださいました。

「私の訪日のホストをしてくれて、どうもありがとう。すべてが完璧で、多くの気づきや学びを得ることができた。マネジメントや社員からのフィードバックにより、君と君のチームがとても良い仕事をしてくれていることもわかった。今後の活躍に大いに期待をしている。Keep in Touch!」

大変に忙しいCHROが出張の合間をぬって手書きのメッセージをしたためてくれたことから、私は大きなモティベーションをもらいました。もちろん、それもパフォーマンスの一部(「計算」や「演出」)であったかもしれません。だとしても、私にとっては昇格や昇給よりも嬉しかったのです。

forではなくwith

お前はこの程度……

そのとき、私は社長室で猛烈に怒っていました。

40歳の頃、私はデルファイで経営企画と人事を兼務するマネージャーでした。あるとき、アジア・パシフィック部門の社長であったJimさんから「競合のX社が日本でどのような戦略展開をしているか、調べてくれ」という指示があり、私は一晩で調査・分析を行い、翌朝パワポ資料を持ってJimさんのところへ行きました。私の説明を聞き終えた彼は、面白くなさそうな表情で、「お前の力量では、この程度の分析が精一杯だろうな」と言ったのです。

なので、私は不満に思い、がっかりもしつつ、怒っていたわけです。

社長室を退出しようとドアを開けた私は、後ろから肩を叩かれました。握手を求めて手を差し出してきたJimさんが満面の笑みで言ったことが、"Congratulations! Great Job!"

その場で、新たにY社の分析も依頼されました。私がまた一晩でそれを仕上げたことは言うまでもありません。

そのしばらく後、私はDebbieさんの後任としてアジア・パシフィックの人事本部長に(上司はKevinさん)、そして兼務で日本法人の代表に(上司はJimさん)就任しました。今こうして思い出してみると、連続するストレッチ・アサインメントの中、多くの上司・上長の方々から愛とともに育てていただいたのだと痛感します。

GM/デルファイは、大組織であるがゆえの問題もたくさん抱えていましたが、名門グローバル企業としての懐や器も確かに保有していました。自分の価値観の多くの部分が、あの数年間に培われたのだと思います。

有賀誠の“Rock & Roll”な一言
パフォーマンスもリーダーとしての能力。
周りをノリノリにさせてこそのRock’n’Rollだぜ!

有賀 誠
有賀 誠
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括

(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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この記事ジャンル リーダーシップ

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