有賀 誠のHRシャウト!人事部長は“Rock & Roll”
【第10回】人事部とリーダーシップ(その6):すべての人がお客さま
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
前回に続き、リーダーに必要とされる姿勢や志向性について、私の心がけをご紹介したいと思います。
お客さまは誰か?
自分の周りの人すべてがお客さまだと思えば、人との接し方において失敗は起こらないでしょう。上司、部下、同僚、関係部署、取引先、先輩、同期、後輩、友人、家族、親族……それらすべてがお客さまだと。
もちろん、お客さまだからといって、すべてのわがままを受け入れろということではありません。「それはわがままですよ」ということを上手に伝えるのも、立派なお客さま対応なのです。
周りの人すべてがお客さま……簡単なことではないかもしれませんが、世界中の人がこの姿勢を実現できたとしたら、世の中からけんかも紛争も戦争もなくなるはずです。ということは、「人の道」として、これは絶対的に正しい志向であるということができるのではないでしょうか。
そして、リーダーたる自分がそれを実践すれば、それは組織やチームにも広まると思うのです。
お客さまに喜んでいただくということ
以下は、リッツ・カールトン・ジャパンの社長からうかがった話です。
リッツ・カールトン・ホテルの廊下を二人のご婦人が歩いていました。
「あなた確か今日が誕生日じゃなかった?」
「あら、よく覚えていたわね。でも、もう歳をとることがうれしくはないわ」
「それはそうねえ(笑)」
「本当に(笑)」
二人が向かった先はホテルのレストラン。フランス料理のフルコースを食べ終えたところで、立派なケーキが運ばれてきました。見ると、名前入りのバースデー・メッセージまで入っています。
「これ、どうしたの? ケーキなんか頼んでいないわよ」
「○○さま、お誕生日おめでとうございます。こちらは当ホテルからのプレゼントです」
感激したご婦人は、その場でご主人に電話をかけました。それ以来、ご主人が経営をする会社では、リッツ・カールトンを指定ホテルに定めたのだとか。
このエピソードの裏で動いていたプロセスは、以下のようなものです。廊下の清掃をしていたスタッフが二人の会話を耳にし、すぐにパティシエに連絡。パティシエはケーキを用意しつつ、レストランの受付でお客さまのお名前を確認した上でバースデー・メッセージをトッピング。それを受け取ったレストランのスタッフがローソクと共にケーキを食卓にデリバリー……。
お客さまを感動させるまでの動きをする職場間のチームワークとコミュニケーション。そのプロセスの中には、マネージャーの関与や承認といったステップは入っていません。「お客さまのために」が、組織内共通の使命・価値観になっており、スタッフにはそれに基づいて行動をする裁量が与えられているのです。また、廊下の清掃を担当していたスタッフが、自分の仕事を「掃除をすること」ではなく、「お客さまに喜んでいただくこと」であると明確にとらえていたことも特筆に値します。使命・価値観を基盤に、スタッフの裁量・チームワーク・コミュニケーションが一体となったとき、組織はものすごいパワーを発揮します。
私は、上記のエピソードの裏に、複数のリーダーシップが透けて見えると感じます。まずは、グローバル規模で「お客さまに喜んでいただくこと」を明快な組織ミッションに据えた、本社のCEOとトップ・マネジメント。そして、日頃の社員教育の中でそれを浸透させた、日本の当該ホテルの支配人とマネジメント・チーム。さらには、ミッションの実現に向けて、主体的かつ素晴らしいチームワークで動く現場の社員。
組織内のすべてのレイヤーにリーダーシップが存在し、それらのベクトルが「お客さまに喜んでいただくこと」に対して完璧に照準を合わせられているということではないかと思います。そのような組織を実現すべく、人事部は何をすべきか。ぜひ考えてみて下さい。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
Hear Me Sing! Everyone Around Me is My Audience!
み~んな、お客さま!
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。