職場のモヤモヤ解決図鑑
【第19回】組織開発とは?人と人との関係性をよくするアプローチ
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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山下 健悟(やました けんご)
関東圏のメーカー課長職45歳。20人ほど部下がいる。部下がもっと働きやすく、活躍できるチームを目指し、試行錯誤の日々。
二つのチームをまとめる山下課長は、天海さんのチームの雰囲気が悪いことが気になっています。コミュニケーションがうまく取れておらず、仕事をフォローし合う様子も見えないからです。「どうすればチームで協業する意識を高めることができるのか」と思っていたときに出合ったのが、「組織開発」という言葉。いったい、どのような手法なのでしょうか?
チームがうまくいかないときのヒント「組織開発」とは?
なぜ、チームがうまく機能しないのか
「以前は協力し合っていたのに、最近は雰囲気が悪い……」
「新しいチーム編成になってから、関係がぎくしゃくしている……」
自分のチームに、このような課題を感じている人もいるのではないでしょうか。チームの一体感が得られない原因の一つに、メンバーの考え方や働き方の「多様化」が挙げられます。
現在の組織は、終身雇用制度が絶対的であったころと比べると、より多様な人材で構成されるようになりました。これまでのキャリアや雇用形態など、一様ではありません。「何のために働くのか?」という目的も、人によってさまざまです。
さらに短時間勤務やフレックスタイム制などの多様な働き方が浸透し、テレワークの導入が急速に進んだことで、「同じ時間に・同じ場所で働く」というスタイルが変化しました。IT技術の発展もあり、仕事はより個業化されています。
このように、多様な価値観を持つ人々が一人で完結する仕事に従事する状態では、協業関係を生み出すことが難しくなります。同僚が何をやっているのかがわからなければ、フォローのしようもありません。個別にタスクを完了させるだけでは、新しいイノベーションも起こらないでしょう。
組織の価値は、一人では想像もつかない成果を生み出すことにあります。多様化する組織のあり方に対して、人と人とのより良い関係をつくり上げるのが組織開発なのです。
組織開発とは、人と人との関係性から
組織の活性化を目指す取り組み
「組織開発(Organization Development」とは、「人と人との関係性」に働きかけ、組織の成長と発達を促す手法です。
個人が持っている能力やスキルがうまく発揮されなければ、いくら優秀なメンバーがそろっていても、組織の生産性向上を実現することは難しいでしょう。また、スムーズに業務を連携できていない状態であれば、大きなミスはなくても、「働きにくい」と感じているメンバーがいるかもしれません。
南山大学 教授 中村和彦氏は、組織開発の大きな特徴が、このような組織が抱える「プロセス」の問題に働きかけることにあるとしています。「プロセス」とは「コミュニケーションの取り方」や「意思決定の仕方」といった、人と人との関わり方を指します。
さらに、課題の改善主体が組織のメンバーであることも、組織開発の特徴です。課題の当事者たちが、なにがうまくいっていないのかに気づき、働きかけ、現状を変えていくのが組織開発のアプローチです。
参考:入門組織開発(中村和彦著・光文社新書)
組織開発のアプローチが適した「適応課題」とは
組織開発のアプローチは、現場が抱える「適応課題」の解決に向いているといわれます。
「技術的問題」と「適応課題」
物事は「技術的問題」と「適応課題」の二つに分けられます。これは、リーダーシップの研究者ロナルド・ハイフェッツが提唱した課題分類の考え方です。
技術的問題とは「何が問題か」がはっきりしていて、既存の対策で解決できる課題のことです。たとえば機械の故障や、個人のスキル不足といった問題を指します。パソコンが故障したときは、その原因さえわかれば、既存の解決策で解決できます。
一方、適応課題は、問題を解決するために、当事者側の変化が必要なものです。そもそも問題の原因や定義がはっきりとわからず、既存の解決策を使えません。問題の原因を明らかにしていくには、当事者同士で現状を確認したり、原因を話し合ったりする必要があります。当事者たちは、対話する中で、問題の改善や新しいことを学習していきます。
こうした課題の探求と改善のプロセスを通じた「当事者の考え方や行動の変化」が、適応課題を解決します。そのための手法として生きてくるのが「組織開発」です。
参考:『マンガでやさしくわかる組織開発』
「適応課題」の解決は当事者の探求と対話、行動が必要
リーダーやマネージャーが陥りやすい失敗は、組織が抱える課題が適応課題だと気づかずに、技術的問題のアプローチを行ってしまうことです。
天海さんのチームのコミュニケーションが少ない状態に対して、コミュニケーションスキル向上の研修を取り入れたり、コミュニケーションの機会を増やす施策を提案したりするのは技術的問題へのアプローチです。
しかし、天海さんのチームの課題には、問題の探求から必要な適応課題が含まれています。メンバーが考え方や行動を変えるには、「なにが問題か」にメンバー自身が気づき、「どうなりたいか」を共有することが必要です。当事者間の対話を通じて解決策を考え、実行していかなくてはいけません。そこで役立つのが、「組織開発」なのです。
管理職の立場にある人々が、問題の性質を見極め、適切なアプローチで課題解決にあたることで、働きやすく、よりよいチームの形が作られていきます。
組織開発の代表的手法
最後に、組織開発で用いられる代表的な手法を紹介します。
ワールドカフェ
コーヒーやお茶を飲みながら、リラックスした雰囲気で会議を行います。オープンな空間で自由に対話を重ねることで、アイディアを生まれやすくします。互いに意見を出し合いやすい空気を作り、相互理解や親睦を深めることを目的としています。
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)
Appreciativeは 「価値を認める」 、Inquiryは 「問いかけ・探究」 という意味があります。課題や問題点を指摘し、目指したい未来やあり方を描いたうえで、実現を目指すアプローチです。当事者が自身の強みや価値を掘り下げるため、組織のパフォーマンス向上につながるという特徴があります。
フューチャーサーチ
問題や課題の利害関係者が全員で、状況を認識し、目指す未来を共有し、アクションに落とし込んでいくプロセスをいいます。当事者全員が合意できるものに焦点をあて、対立や利害を乗り越えて取り組むことを目指します。
オープンスペーステクノロジー(OST)
関係者がそれぞれに議論したいテーマ(アジェンダ)を持ち寄り、その場で取り扱うものを選択します。テーマの大枠を決めたうえで、具体的な議題は参加者に委ねられるため、参加者の自主的な取り組みを促します。
参考:組織開発|日本の人事部
これらは、あくまでも組織開発の手法です。組織の状態を変えていくためには、なぜこのような手法を用いるのか、目的を明確にしてアプローチを設計することが重要です。
【まとめ】
- 組織開発とは、人と人との「関係性」にアプローチする取り組み
- 仕事の個業化や働き方の多様化に伴って、人との関係性を考え、よい状態にする組織開発の必要性が増している
- 組織の課題には既存の策で解決できる「技術課題」と、そうではない「適応課題」がある
- 「適応課題」には、当事者が問題を把握し、解決策を考える組織開発のアプローチが適している
後編では、組織開発を行う上で、管理職が気をつけるべき姿勢や考え方を紹介します。
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