メンバーが自発的に動き、新たなアイデアが次々生まれる企業へ
ヤッホーブルーイングを変えた、チームビルディング研修とは(後編)[前編を読む]
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長
井手 直行さん
斬新なアイデアでファンを増やし続ける「よなよなエール」で有名な、ヤッホーブルーイング。フラットで風通しの良い社内からは新しい発想が生まれ、常に複数のプロジェクトが進んでいますが、かつては業績の悪化と共に社員の士気が下がり、チームがうまく機能しない状態が続いていたといいます(前編参照)。会社の躍進のためには、個人の能力に依存した状態では限界がある。そう感じた代表取締役社長・井手直行さんが始めたのが、「チームビルディング研修」でした。後編では、研修を通じて社内に起こった変化と、今後の目標について、詳しくお話をうかがいました。
いで・なおゆき●ヤッホーブルーイング代表取締役社長。よなよなエール愛の伝道師。1967年生まれ、福岡県出身。大手電機機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。地ビールブームの衰退で赤字が続くなか、ネット通販業務を推進して2004年に業績をV字回復させる。現在まで12年連続増収増益。全国200社以上あるクラフトビールメーカーのなかでシェアトップ。2008年社長就任。ニックネームは「てんちょ」。表彰式などでは仮装をし、製品および企業PRを行うことでも知られている。
チームビルディングでメンバーが変わり、業績が上がり始めた
半ば強引にチームビルディング研修を進めていったとのことですが、1期生の研修が終わったときは、どのような感触を得ていたのでしょうか。
まず感じたのは、参加してくれたメンバーのチームに対する価値観の変化でした。人にはそれぞれ個性があることを理解すると、自分の得意分野や強みにも気付くことができます。強みを活かして仕事をする楽しさに、メンバーたちは気付いていったようでした。さらに、強みを活かしたチームでは、「一人」+「一人」の力が、二人以上のパワーを生みます。そのチームの力の偉大さを体感したことで、メンバーの間には仕事への積極性が生まれていきました。
何か新しいプロジェクトを始動しようとしたとき、僕が「誰か手伝ってくれる人いる?」と聞くと、メンバーからはどんどん手があがり、以前とは明らかに違う反応が返ってくるようになりました。その変化には僕だけではなく、参加していなかった他のメンバーも気付いていたと思います。
当初、メンバーからの理解を得られない中で、なぜ「絶対にやり抜く」という強い意志を持ち続けられたのでしょうか。
2008年に社長になってみて分かったことは、「リーダーにしか見えない景色がある」ということです。リーダーは、会社の10年後、20年後を見据える仕事。だから、今日明日を頑張ってくれているメンバーと意見がかみ合わないのは、むしろ当然です。
僕には、「チームづくり」に取り組むのは早ければ早いほどいい、という思いがありました。「日本のビール文化を変える」という壮大なミッションを達成するには、既存の社員に力を発揮してもらうのと同時に、新しく人も雇用していく必要があります。ところが、組織が大きくなればなるほど、会社の雰囲気は変えづらくなる。それならば、目が行き届く20名ほどの規模のうちに、チームづくりに取り組むのが賢明だと考えました。
期待に応えるように、一期生として研修に参加した7名は、それぞれの部署にチームビルディングの成果を持ち帰り、現場で力を発揮してくれるようになりました。すると周囲のメンバーも、「無駄だと思っていたけれど、チームビルディングには効果があるのかもしれない」と感じ始めます。1年後に第2回の希望者を募った時、集まってくれた8名のメンバーは、第1回のメンバーの姿から「自分も参加してみたい」と思ってくれたのでしょう。そこからは1年に一度、定期的に研修を実施し、毎年10名前後が参加してくれています。
チームビルディングを開始してから、業績はどのように変化していったのでしょうか。
チームビルディングを始めて、最初の3年間は足踏み状態でした。星野から言われていた、「1円でもいいので増収増益してほしい」という目標を、前年比4%増というギリギリのラインで達成し、なんとかクビをまぬがれていました。しかしその後、2011年あたりから、目に見えて社内のパワーが上がっていったのです。一期生から三期生まで、チームビルディングのノウハウが身についたメンバーが増えてきて、一人では思いつかないようなアイデアが生まれたり、規模の大きなプロジェクトでも成果をあげられるようになったり。会社の雰囲気も明るく楽しくなってきました。そこからは、売上も右肩上がりの成長を続けています。
会社の雰囲気が良くなって、メンバーの仕事への意欲が高まると、僕はほとんど指示を出さなくなりました。ただの集団である「グループ」が、同じ目標を持つ「チーム」に生まれ変わったので、大きな方向性さえ示せば、それぞれの得意分野を生かして遂行してくれるようになった。その結果、僕自身も驚くような成果があがり始めたんです。今では、メンバー発信のプロジェクトもどんどん立ち上がり、僕が関与しないプロジェクトがいくつも動いている状況です。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。