「共感」「共創」の時代
社員が戦略的・創造的な働き方をするために
人事は何をすべきか(後編)[前編を読む]
株式会社ウィズグループ 代表取締役
奥田 浩美さん
未来を作り出すのは異質な人材。旧来の採用や教育はもう要らない
これからの時代、人事部はどのように変わっていくべきだとお考えですか。
現在、スタートアップ企業が優秀な人材を採用するのは厳しい状況ですが、「保育園を社内に作ります」などと発表すると、優秀な人がどっと流れることがあります。「週に1回は介護で休める」といったことに、ミレニアル世代の人たちはとても敏感です。まだその世代の人たちが権力を持っていないので、上層部の人たちは気が付かないかもしれませんが、優秀な人を見ると既に変化が表れています。この流れが主流となるのは、もう時間の問題だと思います。
また、あと5年ぐらいで大きく社会を変えると予測されるのが、人工知能(AI)やロボットです。今までの通例や数式化できるものの集合がAIやロボットになるので、「こういう時はこうしろ」と言っていただけの上司は、AIに置き換えられてしまうでしょう。上司がいらなくなるという意味ではありません。上司の役割が、皆が持っている力を未来に向けて引き出す役割に変わる、ということです。すると当然、人事部も変わっていく必要があります。
これからは、人事部こそが会社のクレドの集まりとなるべきです。人事部を見れば、その会社のビジョンや理念、やりたいと思っていることがジワジワと伝わってくるようでなければ、会社自体がダメになると思います。そのためには、人事にコストパフォーマンスを求めていてはいけません。人事はとても大切な役割を担っているからです。伸びているスタートアップ企業の人事担当者と会って話をすると、どんな世界を作り出したいのかがにじみ出ています。そんな人事が、皆さんの会社にはいるでしょうか。
会社を活性化するために、人事として何をすべきだと思われますか。
まずは、社会がどんどん変わっていることを敏感に察知できる人材を採ることです。そして、どの学部を卒業したのかといったことに関係なく、社員の育成や配置を行うこと。日本企業の場合、大学で2年間しか学部の教育を受けていないにもかかわらず、理系だ文系だと区分けしますが、新しい仕事や価値を生み出していくのに、どこの学部を出たかは関係ありません。求める人材指標も変えていくべきです。今まで大企業が欲しがっていた人材は、自分で考えるのではなく、上司が言ったことや指示したことをきちんと実践できる人でした。しかし、現在はそういう時代ではありません。
もう一つの問題は、新卒一括採用です。それぞれの部署で欲しい人間がいるなら、採用のパターンが何通りあっても良いはず。これから社会がどんどん変わっていく中で、人を一律に迎え入れ、一斉に教育していくという概念そのものが違うのではないでしょうか。
日本では大学卒業まで、「他の人と同じことをきちんとやりなさい」と教育されます。また、多くの企業が自分たちの課した命題をしっかりとこなしてくれそうな人を採用します。それなのに入社して一週間ほど経つと、今度は手のひらを返したように、「人が思いもつかないような商品やサービスを考えなさい」と言う。これはおかしいでしょう。他には思いつかないアイデアを提案してほしいなら、少々違和感があっても、他とは違う回答や行動をする人材を迎えるべきです。
私の会社は小さいですが、一人当たり年間100万円くらい育成に投資していて、海外視察にもどんどん行ってもらっています。大企業では海外視察に行く際、何のために行くのか、どんな利益をもたらすかなど、事前に上司に承認を取らないといけませんよね。しかし私は「何かに呼ばれている」という直感だけで海外に足を延ばすことがあっても、いいと思っています。直感で結びついたところから生まれる事業は確実にあります。大企業でも、「報告は要らない。あなたが会社の将来にとって直感的に大切だと思う10日間を過ごしてきてください」という人材育成のあり方が必要だと思います。
私自身、そうしたことの積み重ねが今につながっています。仕事なのか遊びなのかも分からない、「余白」から新しい仕事が生まれてきました。そういう余白をもっと大切にしてほしいですね。現状を見る限り、今の社会人は余白がなさすぎです。大企業になると余白の部分を制度化しなくてはいけませんし、悪用されないようにすることも必要でしょう。でも、グーグルの20%ルールのように、ある意味で開き直って、しっかりと何かを生み出す人の力を信じてみてはどうでしょうか。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。