「共感」「共創」の時代
社員が戦略的・創造的な働き方をするために
人事は何をすべきか(後編)[前編を読む]
株式会社ウィズグループ 代表取締役
奥田 浩美さん
自分の仕事を通して、社会に何かを創造したい――。その想いを叶えるために、さまざまな立場の人とのつながりを大切にしながらプロジェクトを動かしている、奥田浩美さん。「やりたい」という強い気持ちを表現し続けているうちに、仲間が自然と増えていったと振り返ります(前編参照)。起業家支援にも携わっていますが、奥田さんは「全員が起業家になる必要はない」と言います。自分の強みを会社で生かすことや、会社のリソースを最大限に使って自分のやりたいことを実現することには十分な意義があると考えているからです。インタビューの後半では、変化の激しい時代、社員が戦略的・創造的な働き方をするために、人事は何をすべきかをお聞きしました。
おくだ・ひろみ●鹿児島生まれ。インド国立ボンベイ大学(現州立ムンバイ大学)大学院社会福祉課程修了。1991年にIT特化のカンファレンス事業を起業し、数多くのITプライベートショーの日本進出を支える。2001年に株式会社ウィズグループを設立。2008年よりスタートアップと呼ばれるITベンチャーの育成支援に乗り出し、スタートアップのエコシステムビルダーとしての活動を開始。2013年には徳島県の過疎地に「株式会社たからのやま」を創業し、地域の社会課題に対しITで何が出来るかを検証する事業を開始。地域と海外を繋ぎ、新しい事業を生み出す活動も行っている。委員:情報処理推進機構(IPA)「IT人材白書」検討委員、「未踏IT人材発掘・育成事業」審査委員、内閣府「アジア・太平洋輝く女性の交流事業」委員、総務省「地域情報化アドバイザー」著書:会社を辞めないという選択(日経BP社)、人生は見切り発車でうまくいく(総合法令出版)、ワクワクすることだけ、やればいい!(PHP出版)
これからは社会に評価される会社員こそが生き延びる
著書『会社を辞めないという選択』のなかで、「会社員として戦略的に生きていくべきである」とおっしゃっていますね。
「会社員として戦略的に生きる」とは、これまでに作られてきた会社のリソースを十分に活用しながら、会社を大きく伸ばしていく、ということです。社員には自分が会社のブランドを発信することで自分の価値は上がっていくのか、社会は変わっていくのか、というシビアな目が求められます。言われたことだけをやっているようでは、いけないのです。会社側も「この会社をグレードアップさせていくぞ」という気持ちの人を採用しなくてはいけませんし、そういう人を育てるべきです。
「創造的会社員」という言葉を使っていらっしゃいますが、どのような意味なのでしょうか。
「創造的会社員」とは、自分が持っているものと会社のリソースとを掛け合わせて、未来をどう作っていくかを考えていける人のことです。これは、“ワーク・ライフ・バランスではなく、ワーク・ライフ・インテグレーション”という話とつながるのですが、世に言うブラック企業とは、自分のプライベートな時間とワークの時間の境目がはっきりしている会社の話ですよね。私は1日20時間仕事をする日もありますが、誰もブラックだとは言いません。なぜなら、私のやりたいこと、実現したいことが会社の仕事の枠よりも上にあるからです。自分のやりたいことを、会社を使って実現させる、自分の能力をやりたいことに注ぎ込みながら、同時に会社の何かも伸ばしていく。そんな働き方ができる人を、創造的会社員と定義付けています。
「創造的会社員」は、起業家精神を持った社員とは違うのでしょうか。
自分のやりたいことを実現しようとするとき、自分の力で会社を立ち上げ、利益も生み出そうとするのが起業家です。一方、自分がやりたいことを会社にいながら実現するのが創造的会社員です。会社の中にいても、世の中の価値は増やしていけるのです。ただし、実現するには、自分が世の中に対してどういう貢献ができるのかを明確にしておかなければなりません。
私は一日のうち、寝る時間以外を三つに分け、それぞれの時間で「すぐお金になる仕事」「5年くらい掛けてお金になる仕事」「誰がやってもお金にならないけれど、誰かがやらなければいけない仕事」をするようにしています。そう決めたのは2008年頃ですが、それから10年ほどで会社の業績がとても伸びたので、現在は直接お金をもらわない仕事の比率が増えています。これこそ、“未来”だと思っています。「この会社は世の中に対して良いことをしているから、一緒に何かをやりたい」という人が増えてきているんです。「このプロジェクトをお願いしたい」と言ってくれる人が増えると、営業に費やす時間もコストもゼロになります。自分たちが目指したい社会のあり方を発信していれば、一緒に働きたい人、仕事をお願いしたい人が増えるということを、私たちの会社は実績として示すことができているのです。
奥田さんは、「会社の仕事しかしない人間はいらない」ともおっしゃっていますね。
私の会社には、「会社の仕事しかしない」という社員が一人もいません。そういう人は、将来的に通用しなくなっていくでしょう。子育てのために時間を割けないような人間は要りませんし、自分の親の介護を会社のために諦めてしまうような弱い人間も要りません。地域の活動に参加しない人間も同様です。一言でいうと、社会にとって良い人だけが欲しい。“会社のことしかしない人間は要らない”ということではなく、 “社会に評価される人間”だけ欲しいと言っているのです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。