大人の発達障害だからこそ“天職”に巡りあえた!!
働きづらさを働く喜びに変える、特性の活かし方とは(後編)[前編を読む]
発達障害の「生き方」研究所‐Hライフラボ
岩本 友規さん
「自立」した人的環境が、組織に真のダイバーシティをもたらす
フローや「自立」の大切さなどについてうかがっていると、大人の発達障害を改善・克服するためだけでなく、一般のビジネスパーソンの仕事への集中度やパフォーマンスを高めるためにも有効なプロセスではないか、という印象を受けます。
周囲の価値観に惑わされず、自分の情熱に従って、とにかく行動を重ねていく――私が体験した大人の発達障害の克服プロセスは、これからの時代、他の人にとっての成功法則でもあるのかもしれません。私自身、単に症状が改善されただけでなく、“天職”と呼べるようなライフワークと巡りあい、思考から行動、コミュケーションまで、すべてが変わりました。もちろん、まだ苦手なことや心が折れそうになることも多々ありますが、できて当たり前の業務もこなせず、部署のお荷物だった前職時代と比べると、われながら別人の感があります。私が、生業のかたわら、「発達障害の『生き方』研究所 Hライフラボ」というブログを立ち上げ、自身の克復ストーリーを含めた情報発信につとめているのも、それを少しでも多くの人に役立ててほしいからです。
大人の発達障害を抱えながら、あるいはグレーゾーンで苦しみながら、日々の仕事に取り組んでいる人たちに対して、周囲はどのように接していけばいいのでしょう。職場の上司や同僚が支援する上で、注意すべき点は何ですか。
前回もいいましたが、ひとくちに大人の発達障害といっても、当事者が抱える働きづらさや特性は人それぞれ。大切なことは、ADHDだから、アスペルガーだからとレッテルを貼らないで、その人は何ができて、何が苦手なのか、どういうことに興味や強みがあるのかといった、その人の“個”に目を向けることではないでしょうか。その人その人に合った支援や環境があれば、誰もが自分らしさを発揮できるはずですから。
私が現在の職場で働き始めた当初は、毎週かならず、上司との面談がセットされていました。困り事があっても、なくても、業務の内容や進め方について話し合う機会が頻繁に設けられていたのはありがたかったですね。そういう機会がたまにしかないと、コミュニケーションが苦手という特性上、相談があっても言い出しにくくなりますし、先延ばしの欠点が出て、その間に問題が悪化してしまう事態にもなりかねません。
また、私たちには物事に対応できる絶対量があります。仮に、与えられた仕事がうまくこなせたとしましょう。すると周囲の人は、期待からか、あるいはもっと経験を積ませてやりたいという親心からか、「あなたならもっとできるはず」といって、より多くのこと、より難しいことを悪気もなく求めてくるのです。ただ特性からくるコミュニケーションスタイルの影響か、日々接している相手に対して、何かを断ることがうまくできない方も少なからずいます。次第に業務の質や量についていけなくなり、「無理です」の一言が言えないまま、自分の対応能力の限界を超えて体調を崩してしまうということが、私にもよくありました。こうしたリスクへの配慮も必須でしょう。
ありがとうございました。最後に、よりよい職場づくりのキーパーソンである企業の人事部門の方々にメッセージをお願いします。
障害のある・なしにかかわらず、いざとなれば自分の習慣的・無意識の視点や感覚を意識的に離れて、お互いに相手の立場からの世界を想像できるか――多様な個性を活かしあう職場づくりのポイントはそこにあると思います。要は、「自立」できているか、ということです。「自立」は、大人の発達障害を克服するためだけに求められるプロセスではありません。むしろ当事者を迎え入れる側の人事担当者や職場のリーダーにこそ、自立した生き方を実践されていてほしい。そういう人的環境が、私たちの自立をさらに促し、組織に本当のダイバーシティをもたらすのだと思います。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。