大人の発達障害だからこそ“天職”に巡りあえた!!
働きづらさを働く喜びに変える、特性の活かし方とは(後編)[前編を読む]
発達障害の「生き方」研究所‐Hライフラボ
岩本 友規さん
「自立」が進んで働きづらさが改善、仕事の効率や精度も向上
奥様が強く反対されていた障害者雇用での転職でした。決断の決め手は何ですか。
障害者雇用では収入面がネックでしたが、幸い、私のケースでは前職の水準の給与がもらえるということで無事クリアできました。むしろ私にとって大きかったのは、未経験の職種でありながら、在職中から地道にデータ分析を独学、業務で実践していた意欲と経験が評価されての採用だったことです。通常の採用枠では、やはり相応の経験・実績が問われますが、未経験でチャレンジできたのは、障害者採用ならではのメリットだったと思っています。転職にあたって相当な覚悟を固め、能力一本で生きていくと決めてからというもの、その不安が原動力になって入社前からさまざまな勉強会やイベントに参加するなど、かつての私では考えられないぐらい、積極的に行動を起こすようになりました。すすんで行動することで、生きづらさを抱えていた自分を変えていけることにも気づいたのです。
現職では、担当分野の需要予測精度で世界1位(単月ベース)の実績をあげ、社内の個人優秀賞を受賞するなど、目覚ましい活躍ぶりです。仕事に取り組む意識や感覚には、どのような変化があったのでしょう。
いまの職場に移った当初の主な業務は、もともと得意な分析作業でした。ただ時には、自分の需要予測を受けて、「この部品をこれだけ確保します」という意思決定までが自分の業務に入ってくることもありました。上司に確認を仰いだら、「このくらいなら自分で考えて決めてくれていい」といわれました。私には、それがすごく衝撃的だったんです。自分で考えて、自分の責任で仕事を完結するという感覚を、恥ずかしながら、初めて味わいました。逆に言えば、それまでいかに「自立」できていなかったかを思い知らされたわけです。
その後、自立がある程度進んだことで働きづらさも改善され、仕事の精度や効率が格段にアップ、先ほど紹介してくださったような大きな成果も挙げることができました。
岩本さんが考える「自立」とは、どういう状態なのでしょうか?
いろいろな角度の定義が考えられますが、ここでは自分と自分を取り巻く周囲の世界との関係を一段上から俯瞰するような、客観的な視点をもつこと。それが「自立」の感覚だと考えてブログなどで発信しています。このことを改めて実感したのは、妻との衝突がきっかけでした。当時の私は、「夫婦や結婚生活とはこうあるべきだ」などといった固定観念だらけ。しかし、それが対立やストレスの元凶になっていたことに、気づかずにいたんです。「もっとロジカルに考えてみては?」という主治医の助言に従って、家庭での言動を振り返ってみると、たとえば本当は妻子を最優先したいと思っているのに、「月に一度は孫の顔を見せに実家に泊まりに行くのが当たり前だ」とか、まるでロジカルではありませんでした。妻にとってはそもそも理不尽な押し付けでしかなく、私自身も「世間体」や「実家の目線」といった周囲の価値観を無意識のうちに取り込んで、自分の発想を枠にはめていたんです。私はもともと、物事に一定の枠をはめていないと現実に適応しづらい特性があって、学生の頃もその枠組みに囚われるあまり、ストレスを受けやすくなっていたという話を前半でもしましたが、家庭運営についても同じだったんです。
「毎月実家に帰る必要が本当にあるのか」とロジカルに考えたとき、私は、周囲の規範を持ち込んで作った枠から解放され、私自身を取り戻した感覚を覚えました。自分の言動と感情を客観的に見つめ直し、社会や親、学校、組織などの価値観と、自分の意思とを明確に区別する――私の中に「自立」の視点が生まれた瞬間です。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。