“人と企業のフラットな信頼関係”が日本を変える
シリコンバレー発の新しい雇用のあり方とは(後編)[前編を読む]
東京糸井重里事務所 取締役CFO
篠田 真貴子さん
仕事の価値は周りが決める、他者の目を持った上で自己評価を
あらためて、篠田さんの仕事観をお聞かせください。ご自身にとって、「仕事」とは何ですか。
現在の私にとって、仕事は「発見」「発明」の営みです。ここまでお話ししてきたように、糸井事務所は、仕事の仕方も組織の仕組みも決して一般的ではないので、現行の法規制や慣行、世の中にある既存の枠組みなどを、社内にそのままあてはめるのは難しい。管理部門が制度やルールを設ける場合は、現場の乗組員が働きやすい環境になることを第一に考えて、新しい方法論をいちいちゼロから「発見」「発明」しなくてはなりません。私はそこにやりがいや励み、知的好奇心の充足を感じるのです。
ただし一方で、仕事の価値は自分ではなく周りが決めるという原則も、揺るがせにはできません。若い方とお話しするときなど、自戒も込めてよく言うのですが、社会人としての成長とはつまるところ、内発的な動機と他者の満足とが、いい形で折り合える場所を探す旅だと言えるのではないでしょうか。実は糸井事務所の人事評価では、自己評価に重きを置いています。先ほど言った「仕事の評価は周りが決めるもの」という原則に矛盾しているようですが、それは、内発的動機を起点にしながらも、「自分の中に他者の目も持ち、お客さまや仲間の評価を知った上で自己評価してください」ということ。それができるようになれば、自立的・自律的に仕事ができるので、本当にまかせられる仲間になっていきますよね。
ありがとうございました。最後に企業で人材の採用・育成・マネジメントに携わっていらっしゃる方々へ向けて、メッセージをお願いします。
繰り返しになりますが、やはり「事実が先」――これに尽きると思いますね。管理部門は法制面との接点が多いせいか、制度やルールづくり、あるいはルールに則った書類こそが自分たちの仕事のアウトプットだと、勘違いしがちではないでしょうか。ルールは本来、事業の目標と現場の社員の働きやすさを整合させる手段であって、目的ではないはずです。作ったルールに縛られて、現場の動きやアイデアが制限されてしまうのは、まさに本末転倒ですよね。そもそも制度やルールさえ作れば、人がそれに従うと思うのは、ごう慢にすぎると言わざるをえません。ルールありきではなく、まず「事実が先」。ここに立ち返ってみてください。うまくいっている個人やチームはどんなふうに仕事を進めているのか。仲間をどう巻き込んで、協力し合っているのか。流行の人事施策を安易に取り入れるよりも、そうした身の回りの事実や成功体験から導き出された原則にこそ、自社の発展のヒントが詰まっていると思います。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。