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組織に関する問題を「人」「関係性」に働きかけることで解決
いま日本企業に必要な“組織開発”の理論と手法とは(後編)[前編を読む]

南山大学 人文学部心理人間学科 教授、人間関係研究センター センター長 、
人間文化研究科 教育ファシリテーション専攻

中村 和彦さん

人事部が「組織開発」を推進するためにはどうすればいいのか

 組織開発は、人事が推進していくことがベストなのでしょうか。

いろいろな考えがあると思いますが、既に「人材開発部」が存在する企業なら、「組織・人材開発部」や「人材・組織開発部」という部門に変えて、個人の研修だけでなく、組織開発に関する機能を広げていくという対応が考えられます。

一方、人事部が組織開発を推進していく場合は、「管理機能」と「開発機能」を分けることが必要だと思います。「開発機能」のほうが現場の支援に関わる組織開発の業務を担当するのです。人事は豊富な人事情報を持っています。例えば、「社内のだれが関係性に関して良いセンスを持っているのか」といった情報をつかんでいたりする。そういった人事情報を共有しながら、「開発機能」が関係性について支援していくのです。

また、「経営企画部」が推進していくことも考えられます。戦略を作って推進していく際には、組織の体質をどうすればいいのか、人とその関係性をどうするのかという課題が、必ず付いてくるからです。しかし実際には、経営企画部が組織開発を担当しているケースは少ないです。

 人事部の方々は、組織開発をどのように捉えているとお考えですか。

中村和彦さん Photo

いまから3~4年くらい前、組織開発の話を人事部の方にすると、「これは人事部のやる仕事ではない」という反応が多かったんです。確かに組織開発の手法はイメージしにくい。また、人材開発部が行っているのは研修というスタイルで、組織開発の機能や手法を持っているわけではありません。人事の仕事ではないという反応も、当然のことかもしれません。

ただこの時、私は「それでは、そもそも人事部の仕事をどう定義するのか」という問題であると考えました。人事部の機能をどうクリエイトするか、という話です。トップの考え方にもよるでしょうが、「現場の関係性、現場の風土を良くしていくために支援をすること」、これも人事部の仕事であると定義すれば、組織開発が人事部の仕事になるのです。これまで行ってきた採用、異動、給与計算、労務管理、労働組合対応などに加えて、組織開発の機能も加えていく必要があると考えれば、組織開発を人事部の機能として置くことができます。ウルリッチが言っている「チェンジ・エージェント」の機能です。

現在の日本企業では、組織開発をどの部門が担当するのかが明確ではありませんから、それぞれの企業で一番やりやすい部門が担当すればいいと思います。また、組織開発という言葉にこだわることもありません。人と関係性を良くするためにあるのなら、組織活性、組織づくり、組織力向上、風土改革、職場支援といったような言葉でもいいと思います。

とはいえ、私は人事部には大きな期待を寄せています。人事部は人が対象になる仕事なので、「人」「関係性」の重要性を一番よく理解していると考えているからです。人事部長、役員がその重要性と意味について、社長を説得していくこと。それこそが、人事部が組織開発の担い手となるための第一歩だと思います。

正直、組織開発の力を身につけるには数年かかります。アメリカでは組織開発を大学院修士課程で学んだ専門家が内部組織開発コンサルタントとして、ずっと組織開発部門にいるケースがほとんどです。日本企業には人事異動がありますが、組織開発のことを学んだ人が違う部署に異動後も、人との関係性に関わる動きを続けていれば、その動きが社内に広がっていくと考えられます。実際、ヤフーではそのような形で組織開発が進んでいます。

 人事担当者が組織開発を進めていく際には、どのような姿勢が求められますか。

まず、組織開発に関心を持っている人たちとのネットワーク形成が大切です。外部の識者を招いて社内勉強会を開催するなど、成功事例の共有も重要と言えるでしょう。一口に組織開発と言っても、いろいろな手法や考え方があります。また、組織開発に係わる人たちもさまざまです。違いを乗り越えたり、包みこんだりすることも、組織開発の重要な要素なのです。そういった意味で、組織開発の推進はダイバーシティ推進にもつながると言えます。

ところで最近、組織開発の一つの方法である「ワールドカフェ」がいろいろなところで行われています。非常にやりやすい方法であり、何か対話をしようとしたらワールドカフェを開催するというような風潮がありますが、ただ行えばいいということではありません。「組織開発=ワールドカフェ」ではないのです。どのような目的でワールドカフェを設計し、そこで起こっていることにどのように対応していくかを、最低限おさえておく必要があります。まずは手法ありきではないのです。組織開発が徐々に広まっている中で、一つの課題がここにあると思います。

 最後に、組織開発に取り組む人事の方々に向けてメッセージをお願いします。

会社経営では「X理論」という考え方になりがちですが、人事部の方は会社の中でも、「Y理論」を持っている人が一番多いように思います。「X理論」の下では、人や関係性が疲弊します。私は「Y理論」をベースに組織の人間的側面のマネジメントに取り組むことが、これからはとても大切だと思っています。なぜなら、組織開発は「Y理論」にマネジメント観がベースとなるからです。人と職場の関係性に起こるプロセスに気づき、働きかける取り組みが、まさにこれからは必要です。そのためにも、人事部が「Y理論」の擁護者となれるか。マネジメントにおける人間的側面の重要性を擁護するパワーを人事部が持てるか。これがこれからの組織開発において、とても大事だと思います。

*X理論:人間は、本来なまけたがる生き物で、責任を取りたがらず、放っておくと仕事をしなくなるという考え方
*Y理論:人間は、本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し、進んで問題解決をするという考え方

中村和彦さん Photo

(2015年7月27日、東京・港区にて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

中村和彦さん: 組織に関する問題を「人」「関係性」に働きかけることで解決 いま日本企業に必要な“組織開発”の理論と手法とは(前編)
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この記事ジャンル 組織開発手法

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