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Jリーグ 村井チェアマンに聞く!ビジネスで発揮してきた人事・経営の手腕を、
Jリーグでどう生かしていくのか?(前編)
~組織を変革するリーダーは、夢を共有し、ビジョンを描かなくてはならない

公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)チェアマン

村井満さん

人材を育成し、循環させていくことが組織を強くする

Jリーグが進化していく中で、下部組織が育成した若く優秀な人材が欧州に移籍したり、一部サポーターの問題行動などが話題となっています。「組織」「人材」の観点から見た時、今のJリーグが抱えている課題とは何だとお考えですか。

若いJリーグ所属選手が海外に出ていく問題について、時間軸の中で確認していきましょう。Jリーグが出来た1993年に「ドーハの悲劇」があり、94年のFIFAワールドカップ・アメリカ大会に出場する夢が、最後の最後で破れてしまいました。ただ当時は、海外で活躍するプレーヤーはほとんどいなかったのも事実です。それから20余年、Jリーグで選手を育成してきたことによって、本田圭佑選手(ACミラン)や香川真司選手(ドルトムント)のように、多くの選手が実力で有力クラブに入団し、活躍するようになりました。これは日本全体のレベルが上がってきたことの証左に他なりません。

ビジネス社会で考えれば、日本企業から人材がどんどんスカウトされ、海外で経営者になっていくことになれば、とても誇らしいでしょう。また、通常の日本国内のビジネスパーソンが、アジアや欧米の有力企業から引き抜かれるようなことがあれば、その人たちはまさにグローバル人材と呼ぶことができます。

だから、人材の流失といって悲観的になるのではなく、日本全体のレベルが上がってきたと考えるべきです。日本でしか通用しない人材では、これからは世界のマーケットでは戦うことができません。そういう意味では、やっと人材が引き抜かれる状況になってきたと言えます。

つまり、人材が循環するモデルに入ってきたのです。日本代表で活躍した中村俊輔選手はセルティックというチームで主力選手となり、その後、日本に帰ってきて横浜F・マリノスのキャプテンとして、チームをけん引しています。同じように、小野伸二選手もオランダやドイツで活躍した後、今はコンサドーレ札幌でチームリーダーとして若い選手のお手本となる存在となっています。これまでは、日本国内で「世界」を知っている選手がいませんでした。それが今では札幌にいながら、小野選手が海外で学んだ経験や技術を、直接学ぶことができる。他にも、海外から日本に戻ってきた人材が徐々に出てきていて、まさに今は人材が還流し始めているところです。これは日本サッカーの土壌を上げていくために、極めて重要なフェーズだと思っています。

確かに一人の選手という「点」で見ると、現在の日本代表では海外組が多くなっています。ただそうすると、全体を見失います。長い時間軸の中で見れば、今、日本全体のレベルアップがどういうフェーズにあるのかが十分に理解できると思います。

村井満さん(公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)チェアマン)

今後は選手の海外移籍だけではなく、指導者をどんどん海外に出していくことも考えています。例えば、日本人の指導者が日本人の子どもにサッカーを教える時、同じ言語で同じ文化だから理解も早く教えることができます。しかし、外国の子どもたちにサッカーを教えようと海外に行っても、言葉はなかなか通じませんし、文化も違いますから、指導者として極めて高い水準が求められます。海外で子どもたちにサッカーを教えるという、国際経験を持った指導者が日本に戻ってきた時に、日本サッカーのレベルをさらに上げていくことができるのです。

今、ベトナム代表の監督は、札幌や大宮などJリーグでも監督経験を持つ三浦俊也氏です。そういう指導者がそろそろ現れ始めており、選手だけではなく、指導者もどんどん海外に出していきたいと考えています。

この間、スウェーデンのイエテボリで「ワールドユースカップ」の別名を持つ「ゴシアカップ」が開催されました。73ヵ国から3万8000人もの子どもたちが集まる巨大な国際大会です。日本はJリーグ選抜の14歳のチームを送りました。そこで、1歳上の15歳の大会に出場しました。このカテゴリーに参加したのは208ヵ国。そこでU-14 Jリーグ選抜は地元のスウェーデン、強豪のアルゼンチン、ドイツを破って、見事、優勝したのです。現在では、こういう国際大会を14歳の子どもたちが体験しているわけです。この子たちはアルゼンチンやドイツに対して、コンプレックスを持っていません。これはフル代表のレベルでは考えられないことです。そういう意味では、若い世代に対してどんどん世界大会へ参加してもらいたいと思います。

サッカー界では人材の流出とも言われていますが、私はどんどん選手を出そうと思っています。それは指導者も子どもたちも同様。国際経験が個人を強くし、それによってチームも強くなります。海外の強豪チームに対して臆することなく、対等に戦うことのできる意識と技術を身に付けてもらいたい。とはいえ、まだまだ日本にとどまっているという部分が多いので、積極的に海外に出していく方向に舵を切っていくことを考えています。

他国のサッカー組織と比較して、Jリーグが優れている点は何だとお考えですか。

Jリーグが世界と比べて胸を張れることや、競争優位となるものは何かと考えた時、いくつかの観点ではまだまだ見劣りします。例えば、1試合あたりの平均入場者数。ドイツは約4万人なのに対して、JリーグはJ1で約1万7000人。世界一、人が多く集まるリーグではありません。財政規模を見た場合、スペインのレアル・マドリッドやイングランドのプレミアリーグなどの有力チームは、試合の放送権を中心に数千億の単位でリーグ運営の財政基盤を確保しています。この点でもJリーグはまだまだです。

では、何が世界に対して誇れるかと言うと、「フェアプレー」「暴力行為がない」といったことに代表されるように、試合もスタジアムもクリーンなこと。何より、スタジアムにお年寄りや子ども、女性が安心して試合を観戦し、ゴール裏で応援できる環境があることです。このようなスタジアムは、欧州や南米では考えられません。

スタジアムは、どんな人たちにも開放されています。犯罪や暴力行為、差別行動がない。世界で一番オープンでフェアなスタジアムであろうというのが、Jリーグの一番大切で根本となる力だと考えています。だからこそ今年、一部のサポーターに差別的な行動があった時、ホームゲームでの「無観客試合」という厳しい判断を下したのです。

リクルート時代の経験や知見も踏まえてお聞きします。日本企業にはJリーグのようなやり方で海外に進出し、人材を循環していくようなポテンシャルはあるのでしょうか。

アジアでのエグゼクティブの人材サーチを数多く見てきましたが、残念ながら、その土俵に日本人経営者はまだあまり乗っていません。それに対して、日本企業の中に海外から経営者を招く、という動きは起こり始めています。ただ、日本本社のヘッド・クオーターを海外に移して、外国企業と同じように展開していくというのは、あまり例がありませんね。

それを阻害するのは、言葉の問題が大きいのでしょうか。

そうではないと思います。言葉は手段であり、肝心なのは言いたいことがあるかどうか、堂々と自分の主張を展開できるかどうかです。突き詰めると、この会社をこうしたいという大きな夢やビジョン、デザインや構想を描き、従業員を熱狂させるように巻き込むことができるかどうか。そういう力が大事なのです。もし語学力が足りないのであれば、通訳を使えばいいのです。

グローバル化が進展している現在、そうしたことのできるリーダーが徐々にではありますが、育ち始めているようにも思います。しかし、これまで海外で生産は行っていましたが、外国人のセールスマン相手にコンペティションをしながら戦い抜く人材をつくろうとしてから、まだ日が浅い。これから、というのが日本企業の実情だと思います。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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