就活「後ろ倒し」の目的は達成できたのか?
関 夏海(せき・なつみ)
次に、「学業・サークル・アルバイトに費やす時間」を比較しました。先ほどの「就職活動に費やす時間」と同様に、「4月1日状況」を境に前後で違いがみられます。「4月1日状況」より前では16年卒のほうが「学業・サークル・アルバイト」に費やした時間は多く、「4月1日以降」では15年卒のほうが多くなりました。このグラフから、3年次後期の学業などに充てた時間は、15年卒よりも16年卒のほうが圧倒的に多くなったことが分かります。
一方、「就職活動に費やす時間」でみられた年度による使用時間の差が、「学業・サークル・アルバイト費やす時間」に反映されたわけではないようです。「2月1日状況」・「3月1日状況」における学業・サークル・アルバイトに費やす時間の年度差は2.5時間以上あります。「5月1日状況」・「10月1日状況」における学業・サークル・アルバイトに費やす時間の年度差は0.5時間以下となりました。
前述のグラフを見れば、16年3月卒業予定の学生の「学業・サークル・アルバイトに費やす時間」が、2月・3月は「15年卒よりずっと多く」、4月以降は「15年卒と同程度」となっているので、スケジュール変更の目的であった「学業の時間確保」は、学生が3年次の段階までではかなったように見えます。
16年卒の調査では、「学業に費やす時間」・「サークル・部活動に費やす時間」・「アルバイトに費やす時間」を別々に集計しています。以下の図は、16年卒の1日に費やしているさまざまな活動の時間を、活動別にまとめたものです。これによると、どの時期でも同程度に時間を割いているものとして、「睡眠」(ピンク色)「サークル・部活動に費やす時間」(水色)があります。横ばいに近いが時期により変化が多少見られる項目として「趣味や遊びに費やす時間」(黄緑色)「その他」(淡青色)があります。
「学業に費やす時間」は紫色で表していますが、この線の傾きと、「学業・サークル・アルバイトに費やす時間」(赤色)の傾きが、かなり比例して変化していることがわかります。15年卒の調査についても、少なくとも変化の小さな成分・時期に影響されない成分のおおまかな値はそう変わらないと考えられます。このことから、前段落で述べたように『「学業の時間確保」は、学生が3年次の段階までではかなった』と考えられます。
以上の結果から、卒業年次前の段階については、学業に時間をより使うようになったことが分かりました。ですが、これが本来目指していた「学修時間の確保」とは言い難いのではないでしょうか。なぜならば、卒業年次については従来までと同じ程度の結果となったこと、卒業論文等に本格的に取り組む時間として今まで確保されていた「卒業年次の夏休み」を就職活動に充てなければならなくなったことなどがあるからです。
夏の就職活動に費やさねばならなくなったことにより、自身の卒論・修論計画を修正しなければならなかった学生はどのくらいいるのでしょう。9月1日状況で「学業に費やす時間」は6月1日状況に比べ減少しました(2016年卒対象調査)。学生が学業に専念できているとは言いがたい結果です。できるだけ早く、より多くの人が納得できる環境が整うことを望みます。
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●文/関 夏海(せき・なつみ)
アイデム人と仕事研究所 研究員。大学卒業後、出版社の営業・編集、編集プロダクション勤務を経て、2004年に株式会社アイデム入社。同社がWEBで発信するビジネスやマネジメントなどに役立つ情報記事の編集業務に従事する。人事労務関連ニュースなどの記事作成や数多くの企業ならびに働く人を取材。
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