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【保存版】死亡労災事故等が起こったときに担当者がやるべきこと
お通夜・告別式、弔問、事実関係の説明、資料の交付、労災申請等

弁護士

岡 正俊(狩野・岡・向井法律事務所)

9. 労災申請はすべきか?

(1)死亡労災事故の場合

死亡労災事故の場合は、通常、事故直後に労災申請の手続きがなされていると思いますので、遺族に対して今後の手続きと労災補償の内容(どのような補償がなされるか)等の説明をすることになります。厚生労働省のパンフレットでは、休業補償については「請求受付から給付決定までの期間はおおむね1ヵ月ですが、場合によっては、1ヵ月以上を要することもあります。」と記載されていますが、遺族補償については、「請求受付から給付決定までの期間は、おおむね4ヵ月ですが、場合によっては、4ヵ月以上を要することもあります。」と記載されています。労災も認められると思いますが、念のため、「労働基準監督署が決めることなので絶対とは言えません」という説明は必要かと思います。万が一、労災が認められなかった場合に、話が違うということになりかねません。

(2)過労死・過労自殺の場合

(2)過労死・過労自殺の場合【保存版】死亡労災事故等が起こったときに担当者がやるべきこと

過労死・過労自殺の場合は難しい問題です。

労災申請が認められれば遺族も助かりますし、会社が金銭の支払いをする場合に、支給された労災保険分を会社の支払額から控除することができますので、会社にとっても良い面があります。

一方で、労災申請に会社が事業主証明をし、労災申請が認められた場合、その後会社に対して損害賠償請求があったときは、国が業務との因果関係を認めた、会社も業務との間に因果関係があったことを認めていたではないか、といった主張がなされることが多くあります。業務と死亡との因果関係の判断が難しいケースでは、会社としては、一定の金銭を支払い、労災申請に協力する代わりに、会社にはそれ以上請求をしない、会社との間には債権債務がないことを確認するといった合意書面を取り交わす必要があると思います。

トラブルケース(6)

過労死・過労自殺が問題になり得るケースで、会社から遺族に対し、一定のお見舞い金を支払うとともに可能な範囲で労災申請に協力するが、その代わり、会社に対しては一切請求しない、会社との間では何ら債権債務がないことを確認する内容の合意書を取り交わして欲しいとお願いしたところ、「何のためにそのような書面を取り交わす必要があるのですか?本当は会社からもっとお金を支払ってもらえるはずなんですか?」と聞かれた。

⇒ 遺族としては、会社に責任がある、会社の業務が原因で家族が死亡したとは考えていないのですが、会社から上記のように言われると疑問を感じるかもしれません。そうすると、「あまり余計なことは言わないほうが良いのではないか?」と思われるかもしれません。確かにそれも一理ありますが、労災認定の後の会社に対する損害賠償請求のことを考えると、やはり遺族との間できっちりと合意しておいたほうが良いと考えます。遺族から上記のように聞かれた場合には、「そういうことではありませんが、労災が認められた場合に会社に損害賠償請求をするケースがあると聞いています。会社としては、ご遺族との間でそういった事態になることは避けたいと思いますので、このようなお願いをしています」などと率直に話をしてはいかがでしょうか。

10. 弁護士の介入

会社としては、遺族に弁護士がつく事態になることは避けたいと思われるかもしれません。確かに弁護士がついて、損害賠償請求額が高額になったということはあるかもしれません(もっとも法外な要求がされることはほとんどなく、一定の基準に基づいて計算した請求が多いですが)。

一方で、遺族が感情的になっており話がまとまらない場合に、弁護士同士の話合いによって事態が進展することもあります。また、直接遺族に対しては被災者の過失について言いにくい場合でも、代理人が間に入って、上手く説明、説得してくれる場合もあります。会社に支払能力がない場合、弁護士としては訴訟をして判決をもらっても支払ってもらえなければ意味がないと考えますので、会社の支払能力の範囲で合意できることもあります。

11.合意書の作成例

遺族との間で合意に達することができた場合には、合意内容を確認する文書を作成します。以下に簡潔な合意書のサンプルを示します。

合意書

甲(遺族)【1】と乙(会社)は、平成●年●月●日、乙の●工場(所在地●)内で丙(被災者)が死亡した事故(以下、「本件」という)【2】について、以下の通り合意した。

  1. 乙は甲に対し、心より哀悼の意を表する。【3】
  2. 乙は甲に対し、労災保険法に基づいて支給される給付金のほかに【4】、本件解決金【5】として、金●円の支払義務があることを認め、これを平成●年●月●日限り、甲の指定する以下の口座に振込送金する方法によって支払う。
  3. (口座情報)
  4. 甲と乙は、本合意書に定めるもののほか、本件に関し、何らの債権債務のないことを相互に確認する。 上記合意成立の証として、本合意書を2通作成し、甲、乙が記名捺印のうえ、各1通を保管するものとする。

平成●年●月●日
(甲)●●●●
(乙)●●●●

【1】 法定相続人を確認する必要があります。示談する場合は、法定相続人全員とするか、ほかの法定相続人から委任を受けた代表者との間で行います。代理人がついている場合は代理人が法定相続人全員から委任を受けていれば問題ありません。
【2】 何について示談するのか、事故を特定する必要があります。
【3】 弔意を示す条項を入れることはよくあります。他に再発防止に努める旨の条項を希望される場合もあります。
【4】 労災保険法64条2項は損害賠償と労災保険給付との調整を定めています。示談金は通常は調整の対象ではないと考えられますが、このように記載しておくと明確ですし、遺族も別に労災保険給付が受けられることがわかり安心します。
【5】 任意保険に加入している場合には、保険会社から保険金が支払われるためには、解決金の名目で良いか、損害の内訳を明示する必要があるか、確認が必要です。

*****

本稿では死亡労災事故等が発生した場合の遺族対応を中心に解説しましたが、ひとくちに死亡労災事故等といっても、実際には案件によってケースバイケースです。実際の対応にあたっては、本稿を参考にしつつも、その時々の状況や遺族の反応等を見極め、場合によっては専門家に相談しながら対応されるようお願いしたいと思います。

『ビジネスガイド』は、昭和40年5月創刊の労働・社会保険の官庁手続、人事労務の法律実務を中心とした月刊誌(毎月10日発売)です。企業の総務・人事・労務担当者や社会保険労務士等を読者対象とし、労基法・労災保険・雇用保険・健康保険・公的年金にまつわる手続実務、助成金の改正内容と申請手続、法改正に対応した就業規則の見直し方、労働関係裁判例の実務への影響、人事・賃金制度の構築等について、最新かつ正確な情報をもとに解説しています。同誌のご協力により、2016年3月号の記事「保存版死亡労災事故等が起こったときに担当者がやるべきこと」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は、日本法令ホームページへ。

【執筆者略歴】 岡 正俊(おか まさとし)●弁護士(第一東京弁護士会所属)。1994年 早稲田大学法学部卒業、2001年 弁護士登録(54期)、同年 狩野祐光法律事務所(現 狩野・岡・向井法律事務所)に入所し、使用者側の労働事件を専門に扱う。経営法曹会議会員。現在、中央労働災害防止協会「安全と健康」にて「裁判例に学ぶ」を同事務所所属弁護士とともにリレー連載中。

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