【コスト削減・業務効率UP・コンプライアンス強化】
要注目の「電子契約」とこれからの企業実務
2. 電子契約の法的有効性
契約書を電子的に作成した場合、民事訴訟での証拠となるのか、あるいは、公的な書類の保管としては有効なのかという疑問があると思います。これは、以下で説明する通り、一部の文書を除いて、電子文書でも有効です。
(1)証拠としての契約書
契約書は民事訴訟の際に証拠となるものですが、契約書を作成しなくても契約は成立します。よく「口約束も契約のうち」というように、口頭の合意でも契約は成立します。しかし、本当に契約したのか、契約の内容はどうか、ということが争いになった場合、口約束では、契約の成立や内容を証明することは困難です。
そこで、契約の内容を確認し、合意したことを証明できるように契約書が作られます。契約書末尾に「本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙が記名押印して各自が1通を保存する」というような文言がある通り、多くの契約形態では契約書は証拠のために作成されます。
契約書の作成は必須でないため、契約書が紙でなければならないという制限はなく、証拠になれば問題ありません。したがって、一般的な売買、請負、委託などを含むほとんどの契約書は、電子化が可能です。ただし、裁判に証拠として出すためには、一定の条件があります。これについては、後述の(3)で説明します。
(2)法律で契約書が要求される場合
一部の契約には、法律上、契約書が必要とされています。例えば、保証契約(金銭消費貸借契約=借金の契約において、貸主と保証人の間で結ばれる契約)は、書面によることが必要とされています(民法446条2項)。書面によると規定されている場合には原則として紙の契約書が必要ですが、電子化を可能とする条項が設けられているものが多くなっています。
例えば、上記の保証契約の場合には、電磁的記録(電子文書のこと)で契約した場合には書面によるものとみなす、という規定(同条3項)があるため、電子的な契約書でも問題ありません。書面が要求される取引は、様々な分野の事業の法律(業法)などに見られますが、その多くは電子文書で代えることができます。
(3)民事訴訟における証拠
民事訴訟に文書を証拠として出す場合には、その文書の作成者とされる人(名義人)が、その人の意思で作成したことの証明(法律的には「真正な成立の証明」といいます)が求められます(民事訴訟法228条1項)。例えば、契約書にAさんの名前が書かれていても、Aさんと無関係に作られたものであれば、Aさんに契約の効果は帰属しません。ですから、契約書等の文書の名義人の意思表示であることを証明する必要があるのです。
本人の意思による作成の証明は、通常は簡単ではありません。そこで、紙の文書の場合には、本人または代理人の署名または押印があれば、本人の意思によるものと推定することになっています(民事訴訟法228条4項)。電子文書については、一定の条件を満たす電子署名があれば、本人の意思によるものと推定されます(電子署名法3条)。この電子署名が、電子契約においては重要な役割を果たします。
(4)電子署名
ここで、電子署名について簡単に説明しておきます。
電子署名は、公開鍵暗号を用いる技術で、正しく運用すれば、印鑑による押印をはるかに上回る安全性を持つものです(印鑑は、スキャナと3Dプリンタで、印影から印鑑を偽造される可能性がありますが、電子署名にはそのような危険はありません)。
[1] 電子署名の生成
印鑑を用いて紙の文書に押印するように、電子文書に対しては、ICカード等に格納された秘密情報を用いて電子署名を作成します(図3参照)。この電子署名は、暗号文のようなものですので普通に読むことはできませんが、元の電子文書および署名者の秘密情報と密接な関係がある情報です。電子文書と電子署名とは別々のファイルとして格納することもできますが、pdfファイルなどでは1つのファイルに両者が格納されます。
[2] 電子文書の検証
紙の文書の場合には、押印された印影と、印鑑証明書の印影とを見比べて、印鑑証明書に記載された人の押印だということを確認します。印鑑証明書と同様なものが、電子証明書です。電子証明書には、本人の氏名等と、電子署名を検証するための「公開鍵」という情報が含まれています。この公開鍵は、署名の時に用いた秘密情報に一対一に対応するものです。実際の検証は、コンピュータプログラムを用いて行いますが、署名対象の電子文書、電子署名および公開鍵の三者が正しい関係になっているかどうかをチェックします(図4参照)。もしも、この三者が正しい関係になっていれば、
[a]本人だけが持つ秘密情報を用いて電子署名されたこと(本人による電子署名であること)
[b]電子署名が作成された時から電子文書が変わっていないこと
の両方が確認されます。逆に、本人の秘密情報を用いなければ、公開鍵との関係が不正になりますし、署名後に電子文書を書き換えると、電子文書と電子署名の関係が合わなくなります。
したがって、電子署名が正しく検証されれば、「まさにこの電子文書」に「本人」が署名したことを確認できるわけです。なお、電子文書と電子署名が1つのpdfファイルとして構成されている場合には、acrobat reader等でも検証ができます。
つまり、上記の(a)(b)を満たすものであれば、法的な電子署名として認められるのです(電子署名法2条1項)。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。