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《論談時評》第2回 女性の働き方は変わった? 「均等法」を読み解く

男女雇用機会均等法の施行から、今年でちょうど20年になります。それを反映してか、このところ女性向けのビジネス書がつぎつぎに出版され、売れてもいます。この20年間、女性の働き方をめぐる何が変わったというのでしょうか?
(text by 村山弘美=ライター)

消えた悲壮感と疲れた女性たち

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堀江孝司 『現代政治と女性政策』 (勁草書房) 2005年2月刊。1980年代の「女性の働き方」に関する政策は、どんな政治過程でつくられたのか。1968年生まれの若手学者が分析。

均等法施行から20年と聞いて、「へえ」と思うか、「何それ?」と思うかで、世代がわかる。職場ではこのところ、「何それ?」派が増殖中だ。『日経ウーマン』2006年5月号が、男女雇用機会均等法20周年を記念して、「働く女性の進化論」を特集した。これによると、職場の女性は「均等法世代(40代前半)」「バブル世代(30代後半)」「ポストバブル世代(30代前半)」「デフレ世代(20代後半)」「ポストデフレ世代(20代前半)」に分けられる。

このうち「ポストバブル世代」にあたるのが、リクルートや楽天などを経て、若干26歳でマーケティングサービス会社を立ち上げた経沢香保子さんだ。2005年6月に『自分の会社をつくるということ』(ダイヤモンド社)を出して以来、出版界でも注目の的。起業を目指す女性たちを集め、「女性起業塾」も開くカリスマだ。

経沢さんが属するポストバブル世代は、1973年の生まれ。阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起きた95年に大学を卒業し、就職するとすぐに、山一証券・北海道拓殖銀行の破綻を目の当たりにした。上の世代ほどおいしい目には遭っていないが、『日経ウーマン』いわく、「20代でITバブルを経験し、波に乗って転職・起業した人もいる」。その典型が、経沢さんかもしれない。

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鹿嶋敬 『男女共同参画の時代』 (岩波新書) 2003年12月刊。1999年の「男女共同参画社会基本法」で女性の働き方はどう変わったのか。ベテランのジャーナリストが分析。

この世代には、男女平等も均等法も、「あって当然」の感覚がある。だから、「仕事か家庭か」の二者択一ではなく、ごく当たり前のように、「仕事も家庭も両方、欲しい」と望む。女性起業家であり、2児の母でもある経沢さんは、そうした理想の体現者なのだろう。「子供は5人産んで育てたい」と言うし、起業はビジネスではなく、「人生を自分で創り出していく生き方だ」と言う。

高卒でダイエーの会長兼CEOにまで上り詰めた林文子さんも、人気では負けていない。2006年1月に出版した最新刊のタイトルは『一生懸命って素敵なこと』(草思社)。普通なら照れてしまう言葉も、さらりと言える。誰が付けたか、「褒め殺しの林」。とにかく人を褒めて、褒めて、褒めまくるので有名だ。

林さんは1946年の生まれ。東京オリンピックの翌年にあたる65年に高校を卒業し、社会人になった。最初の職場で与えられた仕事はコピー取りやお茶汲み。「普通ならそろそろ結婚退職」という時期に、新聞の求人欄で秘書職を見つけて転職。そこで現在の夫と出会って結婚する。

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浅倉むつ子 『労働法とジェンダー』 (勁草書房) 2004年9月刊。男性中心の視点からではなく、女性中心のそれから労働法を見ると、どうなるのか。1948年生まれの学者が分析。

シンデレラ物語ならここで終わるが、林さんの場合はここからが本番だ。結婚で退職を余儀なくされてもとにかく、「働くことが大好き」。新聞の折り込みチラシをきっかけにホンダの販売店に入社すると、たちまちトップセールスになる。武器は「根っからの人好き」というその性格。客が怒鳴り散らしても、嫌がるどころか、「こんな生身の人間性を見せてくれるなんて」と友情さえ湧き、「なんとしてもこの怒りを鎮めてさしあげたいという気持ちになってしまう」。

高級車を扱うビー・エム・ダブリュー東京へ転職してからは、マネジメントの手腕も発揮。業績の悪かった新宿支店を最優秀支店に育てると、ライバル会社のファーレン東京(現フォルクスワーゲン)から、「ぜひ社長に」とお呼びがかかる。そこでも成功すると、今度は古巣のビー・エム・ダブリューで再び社長に。そうこうしているうちに、ついには誰も再生できなかったダイエー再建まで託されてしまう。

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『日経ウーマン』 (日経ホーム出版社) 1988年創刊。働く女性たちが読者層の月刊誌。仕事の話題から恋愛、結婚、お金、健康まで幅広い内容をカバー。創刊号の巻頭特集は「働きやすい会社はどこか?」だった。

経沢さんと林さん。世代も境遇も全く違う二人だが、共通点もある。それは、苦労を苦労と語らないこと。子育てが楽しい経沢さんと、仕事が楽しくてしょうがない林さん、二人が語る言葉に、悲壮感はみじんもない。あるのは、ほとばしる元気と癒し、美しい励ましの言葉である。

そんな二人の本が売れるという現実は、必ずしも、女性が元気になったことを意味しない。『日経ウーマン』6月号の巻頭特集は『ココロ快晴 カラダ美人』。アンケートによると、ストレスでカラダを壊したことがある人は全体の7割にも上るそうである。

均等法ができるまでの苦労

カラダを壊してまで働くなんて嫌。でも、20年前はもっと嫌かも。女性たちにそう思わせてくれる本が、赤松良子『均等法を作る』(勁草書房)だ。

赤松さんは、1993年の細川連立内閣、続く94年の羽田内閣で文部大臣を務めた。東京大学を卒業し、1953年に当時の労働省に入省した元キャリア官僚である。

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林文子 『一生懸命って素敵なこと』 (草思社) 2006年1月刊。高卒OLからクルマのトップセールスマンとなり、カリスマ経営者となった林さんは「働く女性たちに心からのエールを送りたい」と言う。

官公庁が女性キャリアを採用するようになったのは、1950年の旧労働省が最初だ。それ以外の役所はずっと遅く、旧厚生省は1958年から、旧通産相では1962年からとなっている。赤松さんが労働省に入った年、採用された女性キャリアは赤松さんを含め2人だけ。2人とも、当時の女性ではエリート中のエリートということになる。

その赤松さんが、婦人少年局(後に婦人局)長時代に手がけたのが均等法だ。均等法は当初、「男女雇用平等法」という名で検討されていた。しかし、「平等」という言葉に対する財界のアレルギーは、かなりのものだったらしい。1983年初秋、法制化作業を進めていた赤松さんらの元へ、日経連が法制化反対の声明を出すという知らせが届く。

当時、女性は就職しても数年で辞めていくのが慣例で、男女の平均勤続年数には大きな開きがあった。当然、多くの企業はそれを基に賃金体系や労務管理を組み立てる。女性を補助労働ではなく、男性と対等な労働力として扱わなければならないとしたら、人件費などの面から考え、大きなコスト増になる。経営者たちはそう考え、法制化に強く反発した。

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経沢香保子 『自分の会社をつくるということ』 (ダイヤモンド社) 2005年6月刊。リクルートなどを経て26歳で起業、カリスマ社長となった経沢さんは「仕事と家庭を両方楽しみ、子供は5人欲しい」と言う。

もともと、こうした法律をつくろうということになった背景には、国連が1976年からの10年間を国連婦人の10年と定め、79年に「女子差別撤廃条約」を採択したことがある。日本はこの条約に署名し、85年には批准する運びとなっていた。しかし、批准するにあたっては、(1)国籍法の改正(2)男女別カリキュラムの廃止(3)雇用における男女平等の法制化、といった条件をクリアしなければならなかった。赤松さんら法制化スタッフは、こうした国際状況を巧みに利用しながら、政界や財界の幹部を必死で口説いていったようである。

その甲斐あって、条約批准ぎりぎりの1985年には、均等法が成立する。正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」。結果の平等を求めるのではなく、あくまで平等な機会を確保するための法律ですよと強調したあたりに、スタッフの苦労が忍ばれる。

ちなみに、正式名称にある「女子労働者の福祉の増進」という文言は、1997年の改正(施行は99年)で消された。均等法はもともと、1972年に制定された勤労婦人福祉法を全面改定してできた法律だ。だから当初は、福祉法時代からある「女子保護」の概念を引きずってもいた。その残滓を完全に取り払ったのが97年。これにより、女性に対する時間外・休日労働、深夜業の規制はなくなった。同時に、募集・採用、配置・昇進における男女の均等待遇に関しては、努力義務から差別を禁止する禁止規定にもなった。

日本の女性労働政策は、これによって完全に「保護」から「平等」へ転換したと言われている。

女性政策をめぐる80年代の矛盾

均等法が成立した1980年代、政府の女性政策は一つの矛盾も抱えた。均等法では女性の社会進出を後押ししながら、年金と税制では専業主婦でいるほうが有利な仕組みをつくったのだ。

そのことを指摘したのが、堀江孝司『現代政治と女性政策』(勁草書房)だ。同著のユニークさは、女性政策を貫く共通点はその「マイナーさ」にあるという基本認識だ。女性政策を「あるべき姿」から論じる本が多い中で、その第三者的視点はとても役に立つ。

年金法が改正され、専業主婦を第三号被保険者とすることが決まったのは、均等法が成立したのと同じ1985年である。改正について堀江さんは、専業主婦から保険料を徴収するよりも、夫であるサラリーマンから徴収するほうが簡単だという「技術的な理由」と、年金改革の本来の狙いである保険料の引き上げや給付減を実現するための譲歩策という「政治的理由」が影響した、と説明している。

1987年にはさらに、政府の税制改革案に配偶者特別控除が盛り込まれた。こちらは、いわばサラリーマンの鼻先にニンジンをぶら下げたようなもの。当時、大蔵省(現・財務省)は売上税導入のチャンスをうかがっており、そのためには専業主婦を妻に持つサラリーマン層の支持を得ておきたいという思惑があった、と堀江さんは書いている。

明確な政策的意図をもってつくられた均等法と、そうではなく誕生した年金、税制の制度だが、その結果は、意図せざる政策が、意図した政策の足を引っ張った。これも突き詰めれば、女性政策がマイナーであり、それに関心を持つ政治家があまりにも少なかったため、ということになる。

少子化と男女共同参画社会の関係

均等法ができてからの20年間、いったい何が変わって、何が変わらなかったのか。ひょっとすると、一番変わったのは女性の働き方ではなく、政府の方針ではないかという気がする。

改正均等法が施行された1999年、国会は全会一致で「男女共同参画社会基本法」を成立させた。国として、男女が共に協力して成り立つ社会を目指すと意思表明したことは、それなりの意味がある。鹿嶋敬『男女共同参画の時代』(岩波新書)は、この基本法の狙いを、「男女の新しい関係を築くこと」と書いている。

基本法ができた以上、かつてのように省庁ごとに違った方向を向いて政策を立てるようなことはできないはずだ。目指す方向は一点、男女共同参画社会になる。ならば、男女共同参画社会とは何なのか。基本法の前文には、こう書いてある。

「少子高齢化の進展、国内経済活動の成熟化等我が国の社会経済情勢の急速な変化に対応していく上で、男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現は、緊急な課題となっている」

なんのことはない。これを少しいじわるに解釈すると、「子供が減っちゃって、国も企業も大変だから、女の人ももっと働いて税金を納めてください、そして、男の人はもっと子育てに協力してください」という意味になる。20年前と比べて、女性たちのチャンスは格段に増えたし、働きやすくもなった。財界があれほど反対したコストの問題は、年功序列の崩壊と成果主義の浸透で、根本からガラガラと崩れた。

多くは均等法ではなく、少子高齢化や経済のグローバル化がもたらしたもの。そう考えるとなんだか、「やれやれ」という気がしてくる。


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