学生と企業それぞれが考える
「インターンシップ」の乖離をなくしたい
「学生が選ぶインターンシップアワード」に込められた想い、
実現したい世界観とは
「学生が選ぶインターンシップアワード」実行委員会 委員長
株式会社マイナビ 就職情報事業本部 事業推進統括部 統括部長
林 俊夫さん
売り手市場と言われる、近年の新卒採用。企業・学生ともに、短いスケジュールのなかで行動しなければならず、苦労も多いのではないでしょうか。そこで、このところ注目されているのがインターンシップです。本来は学生の職業観を育むことが期待されますが、受け入れ側である企業側は試行錯誤の域にあり、まだ改善の余地が多いと言わざるを得ません。そんな状況を打破するためにスタートするのが、「学生が選ぶインターンシップアワード」です。同実行委員会 委員長を務める林 俊夫氏に、インターンシップの現状、課題、アワード開催の意図、受賞メリットなどをお聞きしました。
- 林 俊夫さん
- 株式会社マイナビ 就職情報事業本部 事業推進統括部 統括部長
はやし としお/2005年に毎⽇コミュニケーションズ(現︓マイナビ)⼊社。入社以来、一貫して新卒採用事業に関わり、営業、営業推進部門を担当。2017年より現職。事業戦略の策定から就職情報サイトのマイナビを始めとした各種サービスの企画、マーケティングや事業部内の人材育成まで幅広く担当。
学生にとって意味のあるインターンシッププログラムを発信したい
現在のインターンシップを取り巻く環境を、学生・企業それぞれの視点からご説明いただけますか。
就職活動の広報開始が12月から翌年の3月に移ったことで、学生の就職活動期間は短くなりました。選考解禁が6月になってからは、さらに短期化しています。その期間中で学生は企業を探し入社するところを決めなければなりませんが、決して簡単なことではありません。できれば3月までに企業研究や自己分析を行っておきたい――そういう思いから、インターンシップに参加しようとする学生が増えているようです。
昨年度のインターンシップへの学生の参加率は62.5%。学生からすると「特定の業界や企業のことをより深く知りたい」「自己分析や業界研究・企業研究をしたい」といったモチベーションからインターンシップに参加するのがスタンダードになってきた印象があります。最近では、社会との接点を持つのは早いほうが良いと考える人も多く、1~2年生の参加が増えています。
■図表1 企業インターンシップ実施率
一方、受け入れ側である企業のインターンシップ実施率は、2018年卒で37.6%です。採用スケジュールが短期化して以降、3年連続で実施率が伸びてはいますが、まだ半数にも満たない状況です。学生の需要に対して、企業が追いついていないのです。実施率が37.6%に留まっているのは、採用活動と次年度のインターンシップ実施時期・検討時期が重複していることや、業界・企業理解に効果的なプログラムを作成するのに時間を要してしまうことなどが原因です。特に中小・中堅企業には、そういう傾向が強いですね。上場企業・大手企業の場合は、総じて実施率が7割前後ありますから。業種別で見ると、小売業・サービス業・情報業などの実施率が高くなっています。
採用環境が良くて、企業の求人意欲が高い状態が続けば、実施率は引き続き上昇していくでしょう。
ところで、なぜインターンシップアワードを実施しようと思われたのですか。
現在、インターンシップに関してさまざまな議論がありますが、本質的な部分で学生にとって有益なのかといった疑念が、このアワードを検討するきっかけでした。企業に対しては、インターンシップにおけるベストプラクティスを提示することで、どんな内容ならば学生に興味を抱かれやすいのか、また、教育効果を得られやすいのか、といったことを発信し、企業が「学生の成長を促す」インターンシッププログラムを構築する一助になりたいと考えました。学生に対してはこのアワードを機に、インターンシップに参加する意義や、学生にとって価値のあるインターンシップを考察、理解してもらうきっかけにしてほしいと考えています。 結果、内容の充実したインターンシッププログラムが増えれば増えるほど、参加学生の職業観涵養の機会を増やす事に繋がると思っております。
インターンシップアワードには、経済産業省・厚生労働省・文部科学省・日本経済団体連合会(経団連)・日本経済新聞社が後援されています。この背景を教えてください。
まず、この取り組みを行うにあたり、インターンシップを管轄している三省(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)や、「採用選考に関する指針」を発表している日本経済団体連合会、経営層に広く周知を行う際に強みを持つ日本経済新聞社の後援が不可欠と考え、早い段階からインターンシップアワードの概要や意義について説明さしあげました。そのプロセスにおいて、様々なご意見を頂戴し、アワード全体の設計を創り上げていきました。最終的に、インターンシップをしっかりと推進していくという本アワードの意義について揃ってご賛同していただき、後援いただくことになりました。
目指す企業や業界の理解が、インターンシップ参加の主要な目的に
インターンシップに参加する学生の目的から、どんなことが考察されますか。
2017年2月、学生に「インターンシップに参加する目的」についてアンケートを行いました。その結果を分析した結果、以下の四つの因子が見えてきました。
- 目指す企業や業界の理解
- 自分の能力や適性の理解
- 社会の成り立ちの理解
- 就職活動に役立てる
■図表2 学生がインターンシップに参加する目的
これをさらに大きく捉えると、二つの軸が見えてきます。一つは、「特定の業界・企業についてより深く理解したい」という軸。初めから行きたい業界・企業を決めている学生もいます。もう一つは「自分探しをするため」という軸。世の中にどんな仕事があるのか理解しておかないと、自身の能力と企業との適性を判断できないので、とにかくさまざまな職業を経験して、視野を広げたいという学生です。近年増えているのは前者で、「当該業界や企業を良く知るため」という数字が高くなってきています。
ただし、早めに業界・企業を絞り込んでしまうのが良いかというと、それも疑問です。それでは、人気のある業界・企業に集中してしまうからです。もっとプログラムの内容や、大企業だけでなく中小・中堅企業にも目を向けることで、より多くの企業のインターンシップに参加してほしいと思います。
学生は実際の仕事に関わるインターンシッププログラムを望んでいる
どのようなインターンシップが有益だとお考えですか。
インターンシップは三省が公表している「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」において、「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義されています。2017年6月に「インターンシップの推進などに関する調査研究協力者会議」で、就業体験は「仕事の実際を知ることや職業観の育成などのため、企業における業務の従事、課題の解決などを体験すること」としています。そのため単なる座学ではなく、実際に社員と一緒に仕事をすることが、良いプログラムとされるようになってきました。
弊社が2017年9月・10月に行った、学生のインターンシップに関する調査結果もご紹介しましょう。「最も興味を持つインターンシップの内容」という質問に対しては、「実際の現場での仕事体験」(37.7%)がトップで、「実際の仕事のシミュレーション体験」(18.2%)がそれに続きます。いずれも、「実際の仕事」に関わる内容です。一方、「最も印象に残った企業で実際に参加したプログラム内容」となると、「グループワーク」(56.6%)や、「人事・社員の講義・レクチャー」(37.2%)など、比較的短期間で終わるプログラムを挙げる回答が多く見られました。現状では、学生が興味を持つ内容と実際に参加した内容には乖離があると言わざるを得ません。グループワークをやるにしても、仕事上の課題の解決や業界の理解につながるものであれば、学生も納得するはずです。出来るだけ実業務に即したプログラム構成を検討することで、より良いインターンシップが作れると思います。
■図表3 最も興味を持つ内容と実際に参加した内容
また、職場体験を行う際に現場の社員から協力を得ることや、職場の内情をどこまで開示するかの判断も難しい事は承知しています。リスクを取ることは難しい、と判断する企業もあるはずです。もちろんこのアワードが、全ての課題を解決出来るわけでないことは理解していますが、できるだけ企業がインターンシップを実施検討する際に、本アワードで選出された企業の取り組み事例を詳細に公表されることで、実施の一助となってくれれば、と願っています。
アワードは、誰がどのような評価軸で選考を進めていくのですか。
アワードでは、最優秀賞(1社)・優秀賞(4社程度)・特別賞(2社程度)を表彰します。評価は、インターンシップに参加した学生や学生部会、有識者部会が行います。学生部会は、自ら立候補して集まってきた学生で構成された組織です。インターンシップを数多く経験していて、幅広い視点を持っている学生が集まってくれました。メンバーは、年次も専攻も大学もできるだけ違うようにしています。有識者部会は大学教授や経済団体・官公庁の方々で組織されています。インターンシップを学術的・実務的な見地から評価いただきます。
評価軸・指標は学生の職業的自立・キャリア形成につながるかという観点で、以下のように五つあります。
- 効果性
- 独自性
- 指導性(適正なフィードバックがあったか)
- 社員の協力体制
- 情報の開示性(事前告知の内容と実際のプログラム内容に開きがないか)
これらの評価軸は、1回目ということもあり、インターンシップアワードとしての完成形・最終形だと考えていません。初回の結果を踏まえて、ブラッシュアップしていきたいと考えています。
学生の望む形に合致したインターンシップの実現を目指す
受賞することで、企業にはどのような活用方法が考えられますか。
2018年5月14日に日経ホールで開催されるカンファレンス内で表彰式を実施します。表彰結果は、プレスリリースや各種メディアへの露出が予定されています。結果的に幅広い企業認知や、企業ブランディングにつながるはずです。また、WEB上にはアワードの特設サイトを作り、そこでも、選考結果やカンファレンスの模様を紹介していきます。掲載時期には、次年度のインターンシップ募集もスタートするタイミングなので、学生のエントリーを促す良い広報となるでしょう。採用活動を進めていく上では、アワードの受賞企業であるロゴも使用できます。
応募からの流れを教えてください。
既に企業からの応募はスタートしています。受付締め切りは、2018年の1月末です。時間はまだありますが、なるべく早く認知していただき、応募の準備に取り掛かってもらえると嬉しいです。応募後は随時、インターンシップに参加した学生に対するアンケート調査にご協力いただくことになっています。
学生アンケートは2月中に実施し、3月から4月にかけて学生部会・有識者部会で選考を行い、5月にカンファレンスで表彰式を行う、という流れです。
実行委員会としてインターンシップアワードに何を期待されますか。
繰り返しになってしまいますが、このアワード通して学生に有益なインターンシップの形を模索していければ、と考えています。その結果をみて、各企業が実施するプログラムを見直し、より良い内容に改善されれば、広報活動開始から3ヵ月という短期間でも、より精度の高いマッチングが可能になると信じています。また、新たに実施を検討される企業にとっても、プログラム構築の負担軽減につながることを願っています。
もう少し先の目標としては、学生が大学1年次から卒業前までの在学中に自らの専攻や将来のキャリアに関連した就業体験を、より積極的に行う環境を構築できれば、と思っています。そういったインターンシップの創造に、本アワードが貢献できれば幸いです。
学生が望むものをカタチにしていくことこそ、インターンシップのあるべき姿に最も近づいていくことではないかと考えています。それを実現する架け橋になりたいですね。