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人事の解説と実例Q&A 掲載日:2022/12/05

従業員が退職するときの手続きと注意点

従業員が退職する際は、健康保険・厚生年金保険や雇用保険を中心としたさまざまな手続きが発生します。これらの手続きにはそれぞれ期限が決まっており、手続きが遅れると退職した従業員とトラブルになるケースが多いため注意が必要です。

転職、定年退職など、従業員が退職する理由によって手続きの内容が異なることもあり、企業の人事労務担当者は正確かつ迅速に手続きを行わなければなりません。従業員が退職する際に必要となる手続きと、その注意点を解説します。

1. 社会保険・労働保険・退職金に関する手続き

従業員が退職する際、企業にはさまざまな手続きが発生します。最初に、社会保険・労働保険・退職金に関する手続きについて解説します。

※この記事では、健康保険・健康保険組合や厚生年金保険などの被用者保険や被用者年金の制度を「社会保険」、労災保険や雇用保険を「労働保険」と表記しています。

社会保険の資格喪失の手続き

【必要な手続き】

従業員が退職した際は、社会保険の脱退手続きをする必要があります。手続きは年金事務所に「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を提出することによって行い、その提出期限は退職した日から5日以内です。

健康保険が全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合は、年金事務所で、1枚の用紙により健康保険と厚生年金保険の資格喪失の手続きを同時に行うことができます。健康保険組合に加入している企業は、加入する健康保険組合と年金事務所の両方で手続きをしなければなりません。

このとき、従業員本人と扶養家族の健康保険証を回収して添付することが必要です。健康保険証を添付できない場合は、「健康保険被保険者証回収不能届」を一緒に提出しなければなりません。「高齢受給者証」「健康保険特定疾病療養受給者証」「健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証」「遠隔地被保険者証」が発行されている場合は、これらも回収して返却する必要があります。

【留意するポイント】

70歳以上の従業員は厚生年金保険の被保険者とはなりませんが、70歳以降も老齢厚生年金を受給しながら働く場合、収入に応じて年金額が全額または一部支給停止される仕組みになっています。そのため、従業員が退職するときに年金事務所に提出する「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」は、「厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」を兼ねる様式になっています。70歳以上の従業員が退職する場合も届出が必要です。

健康保険には、退職日までに2ヵ月以上継続した被保険者期間がある場合、2年間を限度に退職後も引続き健康保険に加入して保険給付が受けられる健康保険任意継続制度があります。任意継続被保険者になることを希望する従業員に対しては、「保険料が折半とならない」「資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に手続きをする」など、手続きの方法や在職時の健康保険との違いを説明する必要があります。

届出書類:「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」
提出期限:退職した日から5日以内
提出場所:企業の所在地を管轄する年金事務所または事務センター
提出方法:窓口、郵送、電子申請

労働保険の退職時の手続き

【必要な手続き】

雇用保険の資格喪失の手続きは、企業の所在地を管轄するハローワークで、退職した日の翌々日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」を提出することで行います。

労働保険には労災保険(労働者災害補償保険)もあります。しかし、労災保険は、原則として企業に勤務していれば、アルバイトやパートも含めたすべての従業員に自動的に適用され、健康保険・厚生年金保険、雇用保険のように労働者が個々に資格を取得する仕組みとなっていません。したがって、労災保険に従業員が退職したときの手続きはありません。

【留意するポイント】

「雇用保険被保険者離職証明書」の作成と届出は、59歳未満の従業員の場合、希望者のみとなります。そのため、当該従業員が退職する際、次の就職先が決まっていれば作成しないケースが多いです。ただし、退職する従業員が59歳以上の場合は、必ず作成して提出しなければなりません。

「雇用保険被保険者離職証明書」は3枚複写の書式となっており、証明書の記載内容や離職理由についての確認として、退職する従業員に自署または記名押印をしてもらう欄があります。退職してから署名や押印をしてもらうことは難しいので、早めの準備が必要です。従業員の自署または記名押印がもらえなかった場合は、事業主が理由を記入して記名押印するという対応が可能です。

届出書類:「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」
提出期限:退職した日の翌々から10日以内
提出場所:企業の所在地を管轄するハローワーク
提出方法:窓口、郵送、電子申請

退職金に関する手続き

【必要な手続き】

退職金を支給する場合には、「退職所得の受給に関する申告書」を従業員本人に渡して、必要事項を記入してもらう必要があります。「退職所得の受給に関する申告書」は、退職金が支払われるまでに回収できれば問題ありません。従業員が突然退職するようなケースは別ですが、早めにもらっておくとよいでしょう。

この申告書は、税務署に提出する必要はありません。ただし、企業で保管しておき、税務署から提出を求められた場合は、すみやかに提出できるようにしておく必要があります。

【留意するポイント】

「退職所得の受給に関する申告書」は、退職金を支給するまでにもらっておく必要があります。この申告書の有無によって、退職所得の源泉徴収の方法が異なることに気をつけなければなりません。

  1. 「退職所得の受給に関する申告書」を受領している場合
    退職金を支払う際に、退職所得控除額を適用した退職所得の金額で計算した所得税(復興特別所得税を含む)を源泉徴収するため、従業員は原則として確定申告をしなくてすみます。
  2. 「退職所得の受給に関する申告書」を受領しない場合
    退職所得控除額の計算をせずに退職金の支払い金額の20.42パーセントの所得税額(復興特別所得税を含む)を源泉徴収します。従業員が所得税の還付を受けるためには、翌年に自分で確定申告をして清算する必要があります。
届出書類:「退職所得の受給に関する申告書」
提出期限:退職金を支払うまでに
提出場所:会社保管

2. 従業員が定年退職するときの注意点

従業員が定年退職する場合は、退職金の支払いを含めて特殊なケースが発生することがあります。それぞれの注意点について解説します。

従業員が定年退職するときの雇用保険の手続き

定年退職を60歳以上としている企業は多いでしょう。労働保険の退職時の手続きで説明したように、59歳以上の従業員が退職する場合には、必ず「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を作成し、ハローワークで手続きをしなければなりません。また、高年齢者雇用安定法では、以下の三つの措置を取ることを企業に義務づけています。

●高年齢者雇用安定法による、企業の三つの措置義務
  1. 定年を65歳まで引き上げる
  2. 継続雇用制度を導入し、65歳まで雇用を確保する
  3. 定年を廃止する

また、高年齢者雇用安定法への対応で、多くの企業が継続雇用制度を導入しています。従業員が60歳で定年を迎えた後も同じ企業で働く場合、60歳以降は給与が下がるケースが多いでしょう。企業の人事労務担当者は、継続雇用で給与が下がった従業員のために、高年齢雇用継続給付の手続きを代行するケースがよくあります。

高年齢雇用継続給付は、雇用保険の基本手当を受給せずに、定年退職後も引き続き企業に勤務している方を対象とする給付金です。「60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者であること」「被保険者であった期間が5年以上あること」などの条件を満たせば、60歳時点の賃金と比較して、60歳以後の賃金が60歳時点の75%未満に下がった場合に、受給することができます。高年齢雇用継続給付の申請をする際には、以下のような書類を企業で作成することが必要となるため、準備が必要です。

●高年齢者雇用安定法による、企業の三つの措置義務
  • 「雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書」
  • 「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書」
  • 賃金台帳、労働者名簿、出勤簿又はタイムカードなど((1)(2)に記載した賃金の額や賃金の支払い状況を確認できる書類)
  • 被保険者の運転免許証など年齢が確認できる公的な身分証明書の写しなど

2回目の手続き以降は、「高年齢雇用継続給付支給申請書」が受給資格確認や前回の支給申請手続き後にハローワークから交付されます。

従業員が定年退職後継続して勤務する場合の社会保険の手続き

従業員が定年退職後も継続して勤務する場合は、その従業員の「被保険者資格喪失届」と「被保険者資格取得届」を同時に年金事務所へ提出することで、再雇用された月から再雇用後の給与に応じた標準報酬月額に変更することができます。

定年間際の従業員の給与は比較的高いと考えられますが、定年再雇用後に給与が下がった場合、定年まで適用されていた高い標準報酬月額によって計算した健康保険や厚生年金保険の保険料が給与から控除されることになります。

通常、固定的な賃金の変更があった場合は、随時改定により標準報酬月額が変更されることになりますが、随時改定により社会保険の保険料が変更されるのは、固定的な賃金の変動があった月から4ヵ月目です。「月額変更届」を提出して随時改定により社会保険料が実際に変更されるまでに4ヵ月ものタイムラグが生じることになるため、再雇用によって給与が下がった従業員にとっては大きな不利益となります。このような不利益が生じないようにするために、継続して1日も空くことなく同じ会社に再雇用された場合は、即時再雇用後の給与に応じた社会保険料に変更するための手続きを行う必要があります。

再雇用された月から標準報酬月額を変更する手続きをする際は、「被保険者資格喪失届」と「被保険者資格取得届」のほかに、以下の確認書類が必要です。

  • 退職したことがわかる書類(就業規則や退職辞令の写しなど)
  • 継続して再雇用されたと客観的に判断できる書類(雇用契約書、労働条件通知書、事業主の証明など)

3. 従業員が勤務できずに退職に至った場合の手続き

病気で休職したまま退職した場合や、連日の欠勤で連絡が取れなくなってしまった場合は、引き継ぎを行うこともできず、業務に支障が生じる可能性もあります。何らかの事情で従業員が出勤することなく退職に至った場合は、どのように退職の手続きを行えばよいのでしょうか。

病気で休職したまま退職した場合

病気やケガなど業務以外の傷病によって休職したまま従業員が退職する場合、就業規則の休職の規定によって退職の理由が異なります。

就業規則で休職期間満了により自動的に退職となるように規定を設けている場合は「自然退職」となり、会社都合の退職とはなりません。「雇用保険被保険者離職証明書」の離職理由の欄は「その他」にチェックし、休職期間満了による退職となった旨の具体的な事情を記載して、就業規則の休職規定の写しや従業員に交付した休職期間満了の通知を添付します。

一方、休職期間満了により解雇する規定を設けている場合は、「会社都合の退職」となり、併せて労働基準法20条に定められた30日前までの予告(解雇予告)や平均賃金の30日分以上となる解雇予告手当の支払いのいずれかの手続きが必要です。

近年、メンタルの不調などで、治療に期間を要するケースが多くなっています。休職している従業員が復職を希望する場合は、事前によく話し合って、納得が得られる対応をとることが重要です。休職中の収入を保障する制度、復職時に会社が実施する配慮の内容や手続きの方法などを十分に説明し、きちんと従業員に理解してもらわなければなりません。

退職後も傷病手当金を受給できるケースもあるので、傷病手当金の制度とその手続きの方法の説明も大切です。休職中の従業員が復職を希望しているのにもかかわらず退職させる場合は、特にトラブルとなるケースが多いため、慎重に取り扱う必要があります。

従業員と連絡が取れない場合

従業員の無断欠勤が続いた場合に退職となるのか企業が解雇するのかも、就業規則の規定によって対応が異なります。解雇をする際に従業員の行方がわからず、解雇予告の通知ができない場合は、簡易裁判所で公示の手続きが必要になることもあります。また、2週間以上の無断欠勤が続けば、労働基準監督署で解雇予告除外認定の手続きをするかどうかも検討する必要があるでしょう。

「親族に連絡を取る」「訪問する」など、企業としてできるだけのことをしておかないと、解雇をめぐって裁判などになったときに会社が不利になる可能性もあります。また、無断欠勤が続く場合は、懲戒解雇の事由に該当することもあるため、後日争いになった場合に備えて、出勤・引継ぎの命令、安否の確認、出勤の督促などを、すべて記録に残しておく必要があります。

一般的には欠勤中の従業員に給与が発生することはありませんが、従業員が在籍する期間は社会保険料が毎月発生するため、その支払いが必要となります。この場合、従業員の負担する社会保険料を企業が立て替えて支払うため、長い間放置すると多額となり、回収できなくなってしまうケースが珍しくありません。従業員と連絡が取れない場合は、早めの連絡・対応が肝心です。

就業規則の規定をよく確認し、そのような事態に備えて、就業規則を事前に整備して置くことも人事労務担当者の業務として重要です。解雇、懲戒解雇は労働契約法による民事の判断が必要であり、専門家に相談することも検討します。 
     

従業員が退職する際の手続きは迅速に

従業員が退職するときの手続きは期日が定められたものが多く、退職した従業員も雇用保険の基本手当受給の手続きや健康保険から国民健康保険への切り替えなどの手続きを必要とするため、トラブルに発展するケースが多く見られます。

従業員が退職する際の手続きは、迅速かつ正確に行う必要があります。特に従業員が定年退職するケースでは、継続雇用により勤務を継続するのか、他社へ勤務するのかなど、本人の意向を聞いて、早めに準備することが大切です。退職時のトラブルを避けるためにも、就業規則の規定をよく確認し、整備しておくことも、人事労務担当者の大切な業務といえるでしょう。

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