「人的資本経営に関する実態調査」を実施
人的資本経営取組の現状と質向上のカギ
約9割の企業が人事データを保有も、分析・活用できているのはわずか4割! PDCAサイクルの「目標設定」と「効果検証」に課題、データ活用の「質」への転換が鍵に
MS&ADインターリスク総研株式会社(社長:宮岡 拓洋)は、全国の従業員規模100名以上の企業の人事担当者・意思決定者1,241人を対象に「人的資本経営に関する実態調査」を実施しました。
本調査は、岩本 隆 氏(慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 講師/山形大学 客員教授)の監修のもと、ISO 30201(人的資本マネジメントシステム)の考え方に基づき、企業の人的資本経営および人事データの利活用の現状を明らかにしたものです。
調査の結果、人的資本経営のPDCAサイクルが十分に機能していない企業も多く、人事データを分析や経営判断への活用まで進めている企業が約4割にとどまるなど、データ活用の“量から質”への転換が今後の課題であることが明らかになりました。
【TOPICS】
- 人的資本経営におけるPDCAサイクルのうち、『目標の設定(定量化)』と『施策の効果検証』に課題
施策の効果を客観的に評価し、次の改善につなげるためのフィードバックループが十分に機能していない企業が多いことが明確に。 - 約9割の企業が人事データを保有も、分析・活用できているのは4割止まり
データの蓄積は進む一方で、分析や意思決定への活用には至っていない企業が多数。 データ量は確保されつつも、分析可能な形に整備できていない実態が浮き彫りに。 - データ活用が進む企業ほど、人的資本経営の効果を実感
データを分析・活用している領域が多い企業ほど、「人的資本経営の効果を実感している」との回答が増加。ISO 30201を参考に設定した人的資本経営にとって重要な12領域中の7領域以上でデータを活用している企業では、過半数(55.5%)が効果を実感しており、データ活用の進展が人的資本経営の成果向上につながる傾向が見られた。
1. 人的資本経営におけるPDCAサイクルのうち、『目標の設定(定量化)』と『施策の効果検証』に課題
企業のPDCAサイクルの推進状況を聞いたところ、DとAに該当する『人事施策の推進』『効果検証に基づく見直し』は着実に取組みが進んでいました。一方で、P『目標の設定(定量化)』は取組みが遅れており、その影響もあってかC『施策の効果検証』のフェーズにおいても課題が見られました。 つまり、施策の効果を客観的に評価し、次の改善につなげるためのフィードバックループが十分に機能していないケースが少なくないといえます。
2. 約9割が人事データを保有、一方で分析・活用まで進めている企業は4割止まり
「自社では人的資本に関するデータをどの程度保有しているか」を聞いたところ、「すべての領域で保有している」「一部の領域で保有している」を合わせた企業は87.9%に上りました。 一方で、「保有しているデータを分析などに活用している」と回答した企業は40.3%にとどまり、データを“使える”段階に至っていない企業が過半を占める結果となり、データ量は確保されつつも、分析可能な形に整備できていない実態が明らかになりました。
3. データ活用が進む企業ほど、人的資本経営の効果を実感
データの保有・分析状況と人的資本経営による効果実感の関係を確認したところ、データを分析・活用している領域が多い企業ほど、効果を実感している割合が高いことが分かりました。
ISO 30201を参考に設定した人的資本経営にとって重要な12領域において、データ活用が全くできていない(0領域)の企業では「効果を感じていない」割合が60.0%と半数を超えました。一方、7~12領域で活用している企業ではその割合が26.1%にまで低下し、「効果を強く実感している」企業は55.5%と過半を占めました。データ活用の広がりが、人的資本経営の成果を高める要因であることが明らかになりました。
■監修者プロフィール
岩本 隆 氏
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師
山形大学 客員教授
東京大学工学部卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院応用理工学研究科Ph.D.。モトローラ、ルーセント・テクノロジー、ノキア、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2025年3月まで慶應義塾大学特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学産学連携教授。2023年4月より現職。
■監修者コメント(抜粋)
今回、1,200社を超えるさまざまな規模の企業の人的資本経営の仕組みについて調査が実施され、現状の日本企業の課題が明らかになった。具体的には、人的資本経営のPDCAサイクルを回すにあたり、「定量的な目標設定」と「要因分析を含めた効果検証」の不足が課題となっている日本企業が多い。内閣府令による人的資本開示では、人的資本の「インプット→アクティビティ→アウトプット→アウトカム」において「指標」と「目標」を設定し、進捗状況を報告することが求められているが、本調査結果から、アウトプットやアウトカムの目標設定が不足していることや、アクティビティとアウトプット、アウトカムとの関係性が、論理的、定量的に示せていないことがうかがえる。
一方、人的資本経営の課題が明確になったことで、今後、日本企業が強化すべきポイントも明確になった。内閣府令の今後の改正により、経営戦略と連動した人材戦略の開示も必須化されるようになる。戦略には、客観性、論理性、定量性が求められるため、人材戦略を策定するにあたっては、勘と経験による定性的な判断ではなく、データを活用した定量的な判断が必要となるため、人的資本データ活用の強化が急務となる。
※参考情報:ISO 30201(人的資本マネジメントシステム)とは ISO 30201は、国際標準化機構(ISO)が策定を進めている人的資本マネジメントシステム (Human Resource Management Systems)に関する新たな国際規格で、2025年9月末時点でDIS(Draft International Standard)の開発ステージにある。
企業が人的資本に関する方針や目標を定め、PDCAサイクル(Plan・Do・Check・Act)に基づいて 継続的に改善する仕組みを求めるもので、人材戦略を経営戦略と連動させるためのフレームワークを示す。 ISO 30414(人的資本のレポートおよび開示に関する規格)と並び、人的資本経営の「実践と評価」を支える国際的な基準として注目されている。
調査概要
調査名: 人的資本経営に関する実態調査
調査対象: 従業員100名以上の企業に勤務する人事担当者・意思決定者(課長職以上)
回答者数: 1,241人
調査期間: 2025年8月22日~8月24日
調査方法: インターネット調査
監修: 岩本 隆 氏(慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 講師/山形大学 客員教授)
実施主体: MS&ADインターリスク総研株式会社
◆本調査の詳細は、こちらをご覧ください。
(MS&ADインターリスク総研株式会社 /2025年10月28日発表・同社プレスリリースより転載)
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