ジョブ型雇用
ジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用とは、企業が用意した職務内容(=ジョブ)に対し、必要とする能力や経験がある人を雇用する制度のこと。採用してから職務を割り当てるのではなく、職務ありきで人を採用します。欧米ではスタンダードな制度ですが、日本では一部の企業が導入するにとどまっていました。しかし昨今では、政府・経団連による提言やテレワークの普及により、ジョブ型雇用を導入する企業が増えつつあります。
1.ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用とは、日本経済団体連合会(経団連)によると以下の通りです。
つまりジョブ型雇用は、社内外を問わず、職務内容に適した人材を採用する制度といえます。ジョブ型雇用は、「ジョブ・ディスクリプション」という職務記述書を用意したうえで、人を採用することが多いのが特徴です。記述書には、組織内で「誰が何をするか」を明確にするため、以下の6項目を中心に記載します。
【ジョブ・ディスクリプションの記載事項】記載事項 | 詳細 |
---|---|
1、職種・職務名・役職 | 募集ポジションの種類・名称、肩書きを記載。 肩書きまで記載すると、入社後のイメージが しやすくなります。 |
2、職務内容・業務範囲 | 具体的な業務内容について、重要度の高い職務から記載。 業務範囲も記載することで、仕事の分量に関する 目途をたてられます。 |
3、期待する目標・ミッション | 募集ポジションにどのような成果を求めているかを記載。 「年間売上〇〇円」や「予算内でプロジェクトを完了する」 などの具体的な内容を明示します。 |
4、必要なスキル・経験・資格 | 保持が必須なスキルや、身につけていると歓迎される資格などを記載。 ただし、スキルと経験を限定しすぎると応募者が 少なくなる可能性もあるため、 できる範囲で幅をもたせます。 |
5、雇用形態・勤務地・勤務時間 | 正社員や契約社員、転勤やテレワークの有無、 勤務すべき時間を記載。 転勤がある場合は、その場所の詳細を記載します。 |
6、報酬・待遇 | 給与や福利厚生といった、実際に従業員が受けられる待遇を記載。 想定年収、経験による待遇アップ、特筆すべき 福利厚生などを明記します。 |
2.ジョブ型雇用の実態
ジョブ型雇用の必要性と企業実態
株式会社パーソル総合研究所の調査(※2021年8月度時点)によると、ジョブ型雇用を導入済みまたは導入検討中(導入予定も含む)の企業は57.6%におよびます。一方、今後も導入しないと考えている企業は28.5%でした。
また同調査では、ジョブ型雇用に前向きな企業はグローバル志向で、デジタル化・IT化を重視する傾向があることがわかっています。一方、ジョブ型雇用を検討しない企業には、海外支社やグループ企業を持たず、シニア従業員・開発系職種が多くて、デジタル化・IT化を重視していないという特徴が見られます。
ジョブ型雇用のメリット・デメリット
全国の企業人事を対象にした調査「人事白書2022」によれば、ジョブ型雇用を導入するメリットについて、「従業員一人ひとりの役割が明確になる」「社外から専門性の高い人材を獲得できる」「従業員の主体的なキャリア形成を促すことができる」と考えている企業が多数を占めています。
デメリットについては、「ジョブローテーション(転勤・異動)の打診が難しくなる」「スキルで人材を探す必要があるため、採用の難易度が上がる」「組織への帰属感や、他の人との協力関係が育みにくくなる」と考える企業が多くなっています。
企業事例:KDDI版ジョブ型人事制度
KDDI 株式会社は2020年8月、「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入しました。メンバーシップ型の長所を残しつつ、ジョブ型雇用の特徴を取り入れた制度で、以下の特徴があります。
- 個々の専門能力だけでなく、組織貢献につながる人間力も重視
- MBO制度で「過去」を評価し、同時に「未来に期待できる能力」も評価
- 年功ではなく成果や専門性の発揮度で評価し、等級グレードの中で給与を決定
企業事例:富士通のジョブ型人事制度
富士通は2020年4月、国内グループの幹部社員約15,000人を対象にジョブ型人事制度を導入しました。2022年4月には、この制度の対象を一般社員45,000人に拡大しています。他にも1on1ミーティングや社内公募制度を導入しており、従業員の成長を一貫して支援する体制を整えています。
【富士通のジョブ型人事制度の特徴】- 一人ひとりの職務の明確化と、職責の高さに応じた報酬により、従業員の主体的な挑戦と成長を後押しする
- 従業員一人ひとりの職務内容について、期待する貢献や責任範囲を記載した「Job Description(職務記述書)」を作成
- 職責の高さを示す仕組み「FUJITSU Level」
- 社会や顧客へのインパクト、行動、成長を評価する制度「Connect」
3.ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い
一般的に、ジョブ型雇用は「仕事に対して人を割り当てる」手法であり、メンバーシップ型雇用は「人に対して仕事を割り当てる」手法だとされています。ジョブ型雇用では、あらかじめ用意した職務内容にもとづき、適切な人を雇用します。一方で従来の雇用スタイルといえるメンバーシップ型は、人を採用してから然るべきポジションに配属します。
【ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い】ジョブ型雇用 | メンバーシップ型雇用 | |
---|---|---|
考え方 | 仕事に人をつける | 人に仕事をつける |
仕事の範囲 | ジョブ・ディスクリプションに 記載された内容のみ |
状況に応じて変化する |
会社との関係性 | 対等 | 上下関係 |
転勤・異動 | 基本的になし (※ジョブ・ディスクリプションに 記載された範囲内) |
あり |
報酬 | 能力による | 勤続年数、年齢、役職による |
採用計画 |
|
|
教育 | 主体的な学びが基本 | 企業のサポートが基本 |
人材の流動性 | 高い | 低い |
メリット |
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|
デメリット |
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ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用の歴史的な関わり
対照的なものとして語られることが多い「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」ですが、歴史をひもとくと、双方は密接に関わっています。
戦後の日本における雇用の枠組みは、ジョブ型でした。1947年の職業安定法では、スキルや賃金をベースとし、求職者と企業のマッチングを想定。しかしジョブ型雇用では、能力に合う仕事がないと就職・転職がうまくいかず、突然解雇される可能性もありました。こうした求職者の不安を軽減すべく、雇用保険や失業保険が整備されました。
その後、時代は高度経済成長期に突入。労働力を確保すれば事業が成長する時代となったことから、企業は人材の囲い込みを重視しました。長く勤務するほどメリットが大きい年功序列型賃金制度や、生活の安定を約束する終身雇用制度に重きを置いたことで、メンバーシップ型雇用が確立しました。
4.ジョブ型雇用と成果主義の違い
ジョブ型雇用と成果主義は共に成果を評価しますが、両者の本質は異なります。ジョブ型雇用は、特定の職務を遂行できる人材を採用・配置する手法です。一方、成果主義は、仕事の成果や成績に応じて、給与や待遇、役職などを決める人事制度のことです。
日本では、ジョブ型雇用よりも先に、成果主義が広がりを見せました。1970年から1980年代において、企業では20代の社員の割合が多く、人件費を抑えるために年功序列制を掲げました。しかし、1990年代以降のバブル経済崩壊によって経済が低迷し、成果を上げることが重視され、成果主義に注目が集まります。
一方ジョブ型雇用制度は、2010年代後半から広がりを見せます。それまでジョブ型を採択する企業のほとんどは外資系企業でした。しかし、急速な社会情勢の変化によって働き方が多様化し、対応できない企業からは若年層が流出しました。DX推進のためにデジタル人材を獲得するニーズが高まったことなども影響し、ジョブ型雇用への注目度が高まっていったのです。
5.ジョブ型雇用が注目される背景
政府・経団連による導入の提言
ジョブ型雇用に政策の観点から注目が集まったきっかけは、2013年の産業競争力会議(雇用・人材分科会)における「『柔軟で多様な働き方ができる社会』の構築」という提言です。2013年と2014年の規制改革会議の答申では、ジョブ型正社員の雇用ルールの整備についても言及されています。
また、経団連が2020年に発表した春闘のための指針(経営労働政策特別委員会報告)においても、ジョブ型雇用の比率を高めていくことが示されました。ここでいう経団連のジョブ型雇用は、欧米型のように職務が不要になったら解雇になるものではありません。能力に応じて社員を異動する、専門業務型・プロフェッショナル型に近いものです。
コロナ禍によるテレワーク普及の影響
新型コロナウイルスの流行によって、多くの企業でテレワークが導入され、制度や労働環境の整備が行われました。旧来のメンバーシップ型雇用は、オフィスでの勤務をベースとし、上司が部下の仕事を近くでチェックして評価していました。しかし、テレワークが導入されると、同じ空間で仕事ができないため、業務の進捗を細かく確認しづらくなるといという問題が発生しました。
一方ジョブ型雇用は、誰が何をするかが明確であり、業務の結果を評価するため、別の空間で仕事をしていても、評価に関する問題は発生しません。こうしたテレワークとジョブ型の相性のよさが、ジョブ型雇用促進につながっています。
6. ジョブ型雇用導入にあたっての注意点
職種を限定し、一部導入する
いきなり全ての従業員を対象とした制度改革を行うことには危険を伴います。スモールスタートを意識して、ジョブ型雇用に適していそうな職務・仕事から試してみるとよいでしょう。経団連の調査では、ジョブ型を適用している職務・仕事のトップは「システム・デジタル・IT」でした。
成果とプロセス、両方を評価する
経団連は、ジョブ型雇用において人事評価で重視する項目を調査しています。これによると、ジョブ型雇用でよくいわれる「目標の達成度」や「業務の成果」にとどまらず、「行動の質」や「勤務態度や協調性などの仕事ぶり」といったプロセスも重視しています。業界や職種によって評価項目を変えることも重要です。
チーム内でパーパス・ビジョンを共有
ジョブ型雇用により、各自が自律して職務を遂行しても、組織全体の職務を完結させることは難しいでしょう。組織全体として職務を完結させるには、個々の職務を連携・協働する姿勢が欠かせません。
組織開発を円滑にすすめるには、チーム内におけるパーパス(=企業の存在意義)やビジョン(=企業のあるべき姿)の共有が役立ちます。パーパス・ビジョンの共有によって、職務ごとのミッションが明確になるだけでなく、ミッションを協働化するための術を各自が意識するようになるため、組織の一体化やエンゲージメントの向上につながります。
個別の研修・教育制度の用意
ジョブ型雇用では、各自に与えられた役割・ミッションが異なるため、個別に育成する必要があります。全員共通の研修・教育制度では、教える内容に無駄が生じる可能性があり、場合によっては従業員のモチベーションが低下してしまうでしょう。
経団連の調査によると、ジョブ型雇用社員の育成について、「企業主導」は20.5%にとどまっています。一方「社員主体」と考える企業は、37.0%におよびます。個別の研修・教育制度を設ける場合、各自の役割や能力に合わせた内容にするのはもちろんのこと、社員が主体的に学べる仕組みを用意する必要があります。
ジョブ型についてのトピックスをコンパクトにまとめた一冊です。今話題のジョブ型人事について日本の雇用形態の主軸である「メンバーシップ型」と比較しながら解説。さらに企業の導入事例や、『人事白書』の関連データも掲載しました。
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