目指すのは三つの“C”――Change、Challenge、Create
人財を通じて改革を推進する「レナウン元気塾」の挑戦
川口 輝裕さん(管理本部 人事部 人材開発課 課長)
篠崎 巳奈さん(管理本部 人事部 人材開発課)
ポジティブアクション推進の陰に、強力なサポーター!?
御社は昨年、ポジティブアクション(女性労働者の能力発揮を促進するための積極的な取り組み)の活動を評価されて、東京労働局長優良賞を受賞されました。これは「yeyeプロジェクト」の成果ですね。
篠崎:はい。当社の場合、店頭スタッフを含めると全従業員の7割が女性です。にもかかわらず女性管理職が少なかったり、レディスブランドを扱いながら、その企画担当は男性だけだったり。女性が声を上げにくい、言っても意見が通りにくい、そんな土壌が少なからずあったのです。そこで人材開発の観点から「もっと女性の声を聞くべき」との経営判断もあり、元気塾の一環として、職場環境についてのさまざまな問題を女性の視点から提起する「yeyeプロジェクト」(以下、yeye)を立ち上げました。公募で人選されたメンバーが、忌憚のないディスカッションを通じて改善策を探り、会社側に提言していきます。
提言が採用され、職場環境の改善に活かされた具体例はありますか。
篠崎:出産・育児・介護と仕事の両立をサポートするための「ほほえみガイドライン」をまとめました。結婚してもバリバリ働き続ける女性は以前に比べると増えましたが、出産・育児となると当社もまだまだ厳しいのが実情。両立の壁を乗り越えられずに、キャリアを諦めてしまう人もいます。
もちろん最近、産休や育休など制度はかなり整ってきました。でも実際は、制度があっても使われていないのではないか。使おうと思っても、使い方がわかりにくいのではないか。yeyeのディスカッションでそういう声が上がってきたのです。それならガイドラインを作ろうと。出産前から出産、育児、職場復帰という流れに沿って、利用できる支援制度の概要や必要な手続きのしかた、職場や私生活で気をつけるべきポイントなどをできるだけわかりやすい形にまとめたのが「ほほえみガイドライン」です。これを読むことで先が見えてきて、少しは不安も和らぐと思います。当の女性も、その時にならないと考えないのが普通ですから、前もって準備するなんて、とてもとても。でも「それではだめです」と言われました、蓮舫さんに……。
あの蓮舫大臣、ですか?
篠崎:当社のアドバイザリーボードメンバーとしてご協力いただいていたんです。09年の民主党政権交代直後にyeyeのディスカッションにもお迎えしました。ちょうどあの事業仕分けが始まった頃です。当社近くのビルが仕分け会場だったので、そこから来てくださいました。「出産するなら5年前から計画しなければ」「引越しより幼稚園を決めるのが先」などの意見をいただいて…。でもその時、蓮舫さんが「会社のガイドラインとしてまとめては」と助言してくださったからこそ、yeyeメンバーの思いがこうして形になったのです。
川口:私は最近、こうした施策は決して女性のためだけの取り組みではないんだなと、認識を新たにしているところなんです。女性に限らず、社内の誰かが働きにくさを抱えていたとしたら、そこを変えるには個人を特別扱いするのではなくて、職場全体の働き方や意識から変えていかなければならない。制度やルールも必要ですが、それ以上に必要なのは制度の主旨を理解し、お互いを認め合い支えあおうとする“風土”。そういう風土を育てることが、何より働きやすい職場づくりにつながるんだと思いますね。
会社は自分を“探す”場所ではなく“創る”場所
ところで先ほど「3年3割」の話題が出ましたが、お二人は企業人の先輩として、昨今のそういう風潮をどのように御覧になっていますか。
篠崎:私は人事部に来て、初めてその実態を知りました。すごくもったいないと思うのと、他社でも同じことが起きていないか、業界全体としてそうなっているのではないかと、とても気になります。
川口:私自身は、「自分のしたいことは何か」ということは深く考えずに就職した世代ですから、逆に会社ではわりと自由に、やりたいことをやらせてもらってきた気がします。チャンスは誰にでも来る。むしろ来たチャンスを、チャンスと思えるかが大事ですね。
チャンスを待てない若者も多いようです。やりたいことができると思って入社したのに、なかなかやらせてもらえないと。
川口:なかなかといっても1、2年の話ですからね。新人や若手にはよく言うんです。現時点の目標を持つのはいいことだけど、それだけに固執してはいけないと。与えられた環境や仕事をまずは受け入れて、興味を感じたら、そこをどんどん深掘りしてほしい。知恵を絞って与えられた業務をやり遂げれば必ず得るものがあるはずですし、キャリアというのは結局、その積み重ねだと思うんです。いまの若い人は学生の頃からキャリア教育を受けて、自分探しに熱心でしょう。大切なことですが、会社に入ってまで自分探しをするのはやめたほうがいい。会社は自分を“探す”場所ではなく、“創る”場所なんですから。むしろ自分を創るために会社を、組織を、そしてわれわれをもっと利用してほしいと思いますね。
篠崎:迷いがちな新入社員に対する支援として、元気塾では「メンター制度」も実施しています。メンターとなって1年間新人をサポートするのは配属部署の先輩か、同じ業務に携わっている先輩。仕事のスキルや職場の人間関係、社会人としての基礎ルールを教えるとともに、新人のよき理解者としてフォローするのが役割です。
マンツーマンで気にかけてくれる先輩がいるのは、新人にとって心強いですね。
川口:社会人になるまでは、限られた狭い人間関係のなかだけで生活してきた人がほとんどでしょう。いきなり独りで動いて、社内外のあらゆる関係者とうまくコミュニケーションをとれといっても、それはちょっと難しいですからね。篠崎さん、このメンター制度は新人を育てるだけではなく、メンター自身の成長にも効果があったんでしょう?
篠崎:そうなんです。教える側も、教えながら自然と学んでいるんです。メンターになると、メンター研修を受ける必要があります。この研修での学びや実際にメンター役として1年間新人をフォローした経験が、本人にいろいろな気づきをもたらしてくれるんですね。たとえば研修でコーチングの技術を習うと、面白いことに、たいていのメンター達がこう言うんです。「人の話を真剣に“聴く”ってこういうことだったのか」と。そして「自分はいままで人の話を全然聴いていなかったし、自分もこういう風に話を聴いてもらったり、気にかけられたりしたことはなかった」と。私自身はライセンスブランドの交渉で、自分の言いたい事や考えをはっきり伝えることが当たり前でしたので言いたいことを言うほうですが(笑)、でも元気塾の研修や面談で社員と接していると、もっと自信を持って意見を言っていいのに言えない人や、言おうとしない人が少なくない。やはりその人の言葉に、きちんと耳を傾けようとする職場環境を創っていかなければいけないなと痛感しますね。