女性活躍推進の鍵は「例外を作らない覚悟」と「男性の意識変革」
大和証券の20年にわたる本気の組織改革
株式会社大和証券グループ本社 人事部 ダイバーシティ&インクルージョン推進室長 兼 人材開発課 担当部長
平野 友視さん

国内外に多くの拠点を持ち、日本の証券業界をけん引する、株式会社大和証券グループ本社。2004年頃の同社では、結婚や育児などを理由に離職する女性社員が多いことが課題になっていました。女性が働き続けることが困難であるという実態に対する危機感から、社長が主導する形で女性活躍推進をスタート。「19時前退社の励行」や「女性4人を同時に役員へ登用」「育休中の昇格制度」などの取り組みにより、女性取締役は約半数に。さらに、2004年度には2.3%だった女性管理職比率を2025年度には24.9%に改善することに成功しました。大和証券はいかにして女性活躍を推進したのか。大和証券株式会社 兼 株式会社大和証券グループ本社 人事部 ダイバーシティ&インクルージョン推進室長 兼 人材開発課 担当部長の平野さんにうかがいました。

- 平野 友視さん
- 株式会社大和証券グループ本社 人事部 ダイバーシティ&インクルージョン推進室長 兼 人材開発課 担当部長
三井住友銀行、アクセンチュア株式会社を経て、2022年に大和証券株式会社入社。現在は、株式会社大和証券グループ本社 人事部 ダイバーシティ&インクルージョン推進室長 兼 人材開発課 担当部長を務める。
はじまりは「19時前退社」。歴代社長が女性活躍推進をけん引
大和証券が女性活躍推進に取り組むことになったきっかけを教えてください。
女性活躍推進に力を入れ始めたのは、20年以上前のことです。当時の日本では「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が浸透しておらず、金融業界では残業を前提とした働き方が常態化していました。そんな中、優秀な女性社員が結婚や育児などを機に次々と退職していく事態に、当時の社長が強い危機感を抱きました。「優秀な人材の流出は、組織にとって致命的な損失。女性が能力を存分に発揮し、長期的に活躍できる職場環境を整備しなければならない」という考えのもと、2005年に社長主導で「女性活躍推進チーム」が発足しました。
「女性活躍推進」の取り組みとして、最初はどのようなことから始めましたか。
女性が活躍できる職場をつくるためには「残業前提の労働時間の長さではなく、パフォーマンスを評価すべき」という考えのもと、2007年に「19時前退社の励行」を始めました。ただ、当初は社内から大きな反発があったといいます。「19時前に帰るなど無理だ」「そんなことをしたら大和証券は崩壊する」と、マネージャー層を中心に猛反対の声が上がりました。
しかし、トップの方針は揺るぎませんでした。19時前退社の励行ができていない部室店長に対して、社長が自ら電話をかけて「どうすれば効率良く働くことができ、19時退社を実現できるか」を一緒に考えました。また、経営陣の思いを社内報で繰り返し発信し、19時になると支店長が電気を落として帰宅を促しました。さらに、人事部門は19時以降残業している組織がないかをチェックし、社長へ報告する体制を敷きました。経営のトップが「例外を作らない」「絶対に方針を曲げない」という姿勢を貫いたことで、徐々に現場の意識は変わっていきました。
その後も、歴代の社長が20年以上、「女性活躍推進」を人事戦略に位置づけてバトンを継承してきました。歴代4人の社長が一貫して「女性活躍推進は、大和証券の成長に不可欠である」というメッセージを社内外に発信し続けたことで、女性活躍に関する取り組みは強力に推進されてきました。
現在は、どのような体制で女性活躍を推進しているのでしょうか。
人事部内のダイバーシティ&インクルージョン推進室が旗振り役となり、年に2回「ダイバーシティ&インクルージョン推進委員会」を開催しています。委員会には、委員長を務める社長の荻野明彦をはじめとする経営陣5〜6名と、現場の社員7〜8名が参加。テーマに応じて経営陣と従業員が直接ディスカッションをする場を設けています。
例えば「男性育休」がテーマの場合、育休を取得した男性社員だけでなく、一緒に働くメンバーにも参加してもらい、「男性社員が育休を取得することをどう受け止めているか」「どのような課題が生じているか」を把握することで、現場の課題を浮き彫りにしています。
委員会の様子は全社員が視聴できるようにオンラインでリアルタイム配信しています。経営陣が現場の声に耳を傾け、その場で「このように制度を変えよう」と意思決定する様子を画面越しに見ることができるのです。配信を視聴した社員からは、「経営陣が現場の声に真剣に向き合ってくれていることに感激した」という声が多数寄せられています。また、委員会実施後の参加者アンケートや、全社員に対する定期的なD&Iに関するアンケートなどを通して、幅広いアプローチで現場のニーズを把握しています。
「働く環境の整備」と「キャリア形成の支援」の二軸で施策を推進
女性活躍推進に関する具体的な施策についてお聞かせいただけますか。
女性活躍推進に関する取り組みは、大きく「働く環境の整備」と「キャリア形成の支援」の二つに分けられます。
「働く環境の整備」のために2007年、配偶者の転勤先の近くにある支店で勤務できる「勤務地変更制度」や、「第3子以降出生祝い金200万円」を整備しました。2011年には育休中でも昇格できる制度を導入。その後も、保育園の施設に関する情報や空き情報を確認し入園をサポートする「保活サポートデスク」「保育施設費用補助制度」、会社が提携するベビーシッターサービスを特別料金で利用できる制度など、ライフイベントと仕事の両立を支援するためにさまざまな制度を展開しています。
| 育児休職 | 子が3歳に達する前日まで取得可能 |
|---|---|
| 短時間勤務制度 | 男女ともに子どもが小学校卒業まで勤務時間を短縮できる制度(10分単位での利用可能) 育児の他、介護やがん治療等でも利用可 |
| 所定時間外労働の免除・制限 | 子どもが小学校3年生修了までの期間、所定時間外労働の免除が可能。小学校卒業までの期間、所定時間外労働の制限が可能 |
| 看護休暇 | 小学校3年生までの子1人につき年5日(0-1歳は年10日)、子2人以上の場合は年15日まで取得可能(時間単位での取得可能) |
| 保育施設費用補助 | 子どもが小学校3年生までの期間、保育施設または学童保育にかかる費用を補助 |
| ベビーシッター制度 | 子どもが小学校3年生修了までの期間、会社が契約するベビーシッターサービスを特別料金で利用可能。2016年以降で約10,000回の利用実績。 |
| 保活サポートデスク | 社員に代わって保育園の施設情報や空き状況等を確認し、保育園入園をサポートするサービスを無料で利用できる。利用件数累計200件超。 |
| 勤務地変更制度 | 結婚・配偶者の転勤・介護等の理由により転居が必要な場合に、転居先で就労場所を提供。2007年度から累計500名超が利用。 |
| 配偶者転勤同行休職制度 | 配偶者の海外転勤等の場合に、最長5年間の休職が可能。累計100名超が利用。 |
| 第3子以降出生祝い金200万円 | 第3子以降の出生に際し、200万円のお祝い金を支給。 |
| ライフサポート有給休暇 | 傷病、介護準備、不妊治療、子どもの看護のために休暇が必要な場合に取得可能(最大50日)。 |
| プロフェッショナルリターンプラン (営業員再雇用制度) |
結婚・出産・介護等の理由で退職した社員を、退職時と同じ処遇で再雇用する制度。 累計80名超が利用。 |
| 休暇制度の充実 | 結婚準備休暇やキッズセレモニー休暇(子どもの入学式などのための休暇)、ファミリー・デイ休暇(家族の親睦を深めるための休暇)、親の長寿祝い休暇(自身および配偶者の親の長寿祝いにあわせて取得できる休暇)、ボランティア休暇を定め、有給休暇取得を促進。 |
| テレワーク制度 | 営業部門を含む全部門に導入しており、社員一人ひとりの自律性、組織の生産性を高める働き方を促進。 |
| フレックスタイム制度 | 柔軟で生産性の高い働き方の実現に向けて全役職員を対象に「フレックスタイム制度」を導入しています。 各部署の業務特性に応じて「フレックスタイム(コアタイムあり)」「スーパーフレックス(コアタイムなし)」を選択し、組織の生産性を高める働き方を促進。 |
| Daiwa ELLE Plan+ | さまざまなライフステージで活躍する女性の健康課題について、更年期への対策支援、エル休暇(月経・更年期の体調不良、不妊治療の際に取得)、管理職向けのeラーニング研修等リテラシーの向上、特定不妊治療の費用補助、仕事と不妊治療の両立のための在宅勤務制度等を整備し、包括的にサポート さらに2024年度にはフェムテックを活用したプログラムの導入や定期検診検査項目の見直し、医務室の婦人科診療拡充等を新たに加えています。 |
大和証券グループ本社 HPより引用
また、2024年に女性特有の心と体の変化をサポートするプログラムとして「Daiwa ELLE Plan+」を導入しました。月経や更年期の体調不良時に取得できる「エル休暇」や、不妊治療に関するサポートなどを用意しています。2025年には育休からの円滑な職場復帰を後押しする「COMPASS」をスタート。育休中の面談やパパ・ママ同士の情報交換の場を設けることで、復職にあたって抱える不安を軽減し、職場復帰をサポートしています。
貴社が導入する制度の中でも、「育休中に昇格できる」制度は特徴的ですね。
育休前の実績や貢献度に基づき、育休中の社員も昇格の対象としています。2013年から2026年までの間に250名以上が育休中に昇格しました。日本では、育休取得を機にキャリアの停滞を余儀なくされ、悔しい思いをしている女性が少なくありません。この制度には「ライフイベントによってキャリアを諦める必要はない」という、会社から女性社員へ向けた力強いエールが込められています。
「キャリア形成の支援」について、女性社員を対象にどのような施策を展開しているのかを教えてください。
女性のロールモデルとして、2009年に女性4名を同時に役員へ登用しました。その後も業務職(一般職)から総合職への転換をかなえる「職制転向制度」や、女性向けの選抜型キャリア支援研修「Daiwa Woman's Forum」といった施策を導入しています。
職制転向制度は、2009年に対象となる社員を拡充させる制度変更を行った際に、人事部門が社員とその上司に職制転向へのチャレンジを呼び掛けました。その結果、ロールモデルが増えたことによる相乗効果から制度の利用者が年々増加。現在ではグループ全体で約1,200人が総合職に転向しました。
Daiwa Woman's Forumは、30歳前後の「課長代理職層」、40歳前後の「課長職層」、50歳前後の「部室店長職層」の三つの層を対象としたプログラムです。女性社員が自らのキャリアと真摯(しんし)に向き合い、主体的に未来を描けるようにサポートしています。
課長代理職層の研修では、「第一線でキャリアを築いてきた先輩」「仕事と家庭をバランス良く両立している先輩」「今は育児が最優先だが、子育てが落ち着いたら再び仕事のアクセルを踏む予定の先輩」など、多様なライフステージやキャリアを歩むロールモデルとの座談会を開いています。女性社員は男性に比べて身近なロールモデルが少ないため、管理職として活躍する姿をイメージしにくい傾向にあります。座談会を通して「自分らしいキャリアを歩めばいい」という前向きな意識を持ってもらうことが狙いです。
課長職層にはチームビルディングのスキルやリーダーシップの向上を促し、部室店長職層には役員登用を見据えて必要なスキルやマインドを醸成するという、段階的なカリキュラムを提供しています。

管理職の評価基準に「D&Iの取り組み」に関する項目を反映
女性活躍推進を現場に浸透させるため、ダイバーシティ&インクルージョン推進室はどのような取り組みを行っているのでしょうか。
管理職層に向けて、女性活躍推進に対する意識の変革を促しています。現場を率いる管理職が取り組みの意義に納得できていなければ、現場の行動を変えることはできないからです。
例えば、社員の体調に応じた業務配分や復職した社員の育成方法などについて記載している「仕事と育児の両立ガイドライン」を策定し、管理職研修で周知しています。また、管理職の評価基準に「ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組み」に関する項目を設けています。管理職は、「外面性に加え、内面的な多様性を尊重し、部下の個性や能力を最大限に発揮できるよう促している」「部下の意見や考えに公平に耳を傾け、心理的安全性が保たれた組織運営を行っていること」といった点について、上司だけでなく部下からも評価を受けます。
さらに、部室店長が集う会議や管理職向けの研修にダイバーシティ&インクルージョン推進室のメンバーが参加し、「女性活躍がどのように会社の成長につながるのか」を直接伝えるようにしています。
現場の社員にはどのように働きかけているのでしょうか。
社長が繰り返し女性活躍推進に関するメッセージを発信しているほか、社内報や社内放送を通して、グループ全体のダイバーシティ&インクルージョンに関する制度や取り組み、多様なキャリアを歩む女性のロールモデルを積極的に紹介しています。また、仕事と育児の両立支援制度などの利用状況を部署全員が確認できる「制度利用カレンダー」を導入しました。状況を可視化することで、社員一人ひとりが計画的に制度を活用できるような仕組みを整えています。
男性の育児に対する意識変革が、女性活躍につながる
男性社員の育児参画の促進にも力を入れていらっしゃいます。
女性が活躍できる職場をつくるためには、男性の育児に対する意識を変革する必要があります。男女ともに育児に対して「当事者意識」を持つことで初めて、本当の意味での男女平等を実現できるからです。
2014年に「育児サポート休暇」という男性育休制度を導入しましたが、1〜2日のみの取得にとどまる「名ばかり育休」になっていました。また、「育児サポート休暇」というネーミングによっても、「男性は育児をサポートする役割」という誤ったメッセージが伝わってしまいました。
そこで2022年、「最低2週間以上の男性育休取得」を義務化するとともに、最大4週間給与保障する制度を導入しました。「育児は女性の役割」という固定観念を払拭し、「子育ては夫婦が力を合わせて取り組むもの」という意識を社内に根付かせることが目的です。
2週間以上の男性育休取得を義務化してから、どのような変化がありましたか。
義務化した初年度は、2週間で復職する男性社員が大半を占めていましたが、現在は男性育休の平均取得期間は1ヵ月程度です。「男性育休を2週間取得する」と報告する社員に対して、「もっと長く取得していいんだよ」と周囲の社員が背中を押す光景が当たり前になりつつあります。男性育休がカルチャーとして深く根付いてきていることを実感しています。
また、子どもの出生前から男性の育児に対する意識を醸成するため、「妊婦エスコート休暇」という制度があります。妊婦健診の付き添いや両親学級への参加、出産に向けた入院準備時に取得できる休暇です。さまざまな制度を通して、子どもが生まれる前から子育て中まで、男性の育児参画を支援しています。
女性活躍推進で重要なのは「例外をつくらない」こと
約20年間にわたる女性活躍推進の取り組みによって、どのような成果がありましたか。
まず女性取締役の比率が大幅に増加しました。女性活躍推進に取り組み始めた2004年度時点では0%でしたが、2025年度には50%に達しました。また、女性の管理職比率も2004年度では2.3%でしたが、2025年度には24.9%に向上しました。社内のアンケートからは、女性管理職の増加と、組織の活性化やイノベーションの創出が相関していることが明らかになっています。
女性活躍推進に関して現在課題に感じていることがあれば教えてください。
約20年間にわたって女性活躍を推進してきましたが、かつての「男社会」における古い価値観や慣習が一部に残っているのも事実です。また、2020年代中に「女性管理職比率30%以上」を目標に掲げている一方で、管理職を志望する女性が少ないことも大きな課題です。
これまではトップダウンで女性活躍を推進してきましたが、今後は「経営層や人事部門主導」からの脱却を図らなければなりません。社員が「人事に言われたから取り組む」という受動的な姿勢では、さらなる女性活躍の実現は困難です。社員が自らのキャリアや所属する組織の課題を分析し「女性活躍に向けて自分たちは何をすべきか」を自発的に考えて実行する。今後は、現場の当事者意識を醸成するための取り組みをさらに強化していきます。
最後に、女性活躍推進に奮闘している全国の人事パーソンに向けてメッセージをお願いいたします。
女性活躍推進において重要なことを二つお伝えします。
一つ目は、経営トップが力強いメッセージを発信し続けることです。大和証券が約20年にわたり女性活躍を推進することができた背景には、歴代の社長による強いコミットメントがあります。現社長の荻野は「ワーク・ライフ・バランス推進室」の初代室長を経験し、社長に就任した現在も「ダイバーシティ&インクルージョン推進委員会」で議論するテーマを自ら提案するほど、女性活躍推進に対して並々ならぬ熱量を持っています。
二つ目は、女性社員だけでなく男性社員の意識変革にも取り組むことです。社員全員が当事者意識を持つことが男女平等を実現する鍵だと考えています。また、人事施策を浸透させるためには「例外を作らない」という確固たる姿勢も必要です。一人でも例外を認めてしまえば、施策は形骸化してしまいます。
女性が活躍できる職場は、「全ての社員にとって働きやすい職場」へとつながるはずです。人事部門の皆さまには「軸をぶらさない」という確固たる意志と覚悟を持って、誰もが自分らしく働ける組織作りを推進してほしいと考えています。

(取材日:2026年6月9日)
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