第89回 株式会社ラッシュジャパン
会社の決定による一方的な異動は行わない
従業員の「オーナーシップ」が生む、ラッシュジャパンの価値とは
株式会社ラッシュジャパン 人事部 部長 安田雅彦さん
「自分らしく働く」ことのすばらしさを伝えたい
スタッフ一人ひとりのオーナーシップが高まったことで、会社に良い影響はありましたか。
直近のサーベイでは、ショップ部門のエンゲージメント(肯定回答)が約80%ありました。これほどリテールでエンゲージメントの高い事例は、少ないのではないでしょうか。エンゲージメントが高かった理由の一つに、ワークライフバランスがあると思います。ラッシュはショップで働いている社員でも、有休消化率が約80%です。もしかすると、店長がいちばん休んでいるかもしれない(笑)。スタッフが主体的に行動してくれれば、店長が休みをとっても問題はありません。
もちろん、店舗の売り上げは見ていますが、12連休を取っても、みんながハッピーに働いていてしっかり売り上げを上げていれば、問題ありません。実際、そういった方針でも、ビジネスとして収益は上がってきています。
現場の力を信じていなければ、そこまでの権限委譲はできないように思うのですが、なぜ可能なのでしょうか。
ラッシュには、失敗を恐れずにチャレンジする、というカルチャーがあります。創立者のマークは、ラッシュを創業する前に「コスメティクス・トゥ・ゴー」という会社を立ち上げましたが、うまくいかずに倒産させてしまいました。しかし、その失敗があったからこそ、いまがある。失敗を恐れるあまり何もしない、というのは評価されませんし、「失敗で学び、チャレンジで成長する」という考えを持っているのです。
人事としては、どのようなチャレンジを行われていますか。
実はラッシュジャパンでは、昨年から採用選考の考え方を変えました。大切なのは、「厳しく見極めること」ではなく、「その人と私たちが合っているかどうか」です。希望する人にはとにかくショップやキッチンを見てもらい、インタラクティブに仕事を知る機会を設けています。工場を見学したり、お店でロールプレイングしたりしてもらうのです。私たちはこれを「リクルーティングパーティー」と呼んでしますが、少しでもよくラッシュのことを知って、それでも働きたいと思ってくれる方と、ぜひ一緒に働きたいと思います。
また、この夏から契約社員制度を全廃し、正社員になってもらうことを決定しました。もともと正社員中心のオペレーションでしたが、3割ほどは契約社員の人たち。「がんばっていたら、いつか契約期間の無い正社員になれるよ」と雇用の不安をちらつかせながらエンゲージメントを引き出すのはフェアではないし、ラッシュらしくない。そこで契約社員を廃止しよう、ということになったのです。
同一労働同一賃金の問題もあり、多くの企業が取り組もうとしていることですが、雇用調整を考え、踏み切れないところも多いですよね。
正社員かどうかに関係なく、がんばっているのに評価されなくて、思うようにパフォーマンスを上げられていない人がいるのであれば、社員と会社のお互いにとって不幸だと思います。ほかの会社のほうがその人に合っているかもしれないのに、その機会さえ失っているかもしれない。そのため私たちは、ストレートに正直に話し合い、より良いあり方を模索することをあきらめません。
私たちがやっている方法は、決して簡単なことではありません。ただ利益を追求するわけではありませんし、チェーンストアオペレーションの鉄則であるような「最小の指示で最大の変化」を狙っているのでもない。「ブランドは人がつくる」という考えの下に、一人ひとりとしっかりコミュニケーションをとり、フィードバックしていかなくてはならないのです。難しくても挑戦しようとする根底には、確固たる倫理観があります。だからこそ、このやり方で絶対に成功しなければなりません。多少のリスクを受け入れてでも愚直にやりつづけ、「成功できる」と示すことで、自分らしく働くことの素晴らしさ、尊さを世の中へ伝えていきたいですね。