厳選採用から慎重採用へ? 「博士」の採用に二の足を踏む企業
勤務経験のないことを懸念 決断が難しい特化型人材の採用
中途採用に重要な要素の一つにタイミングがある。優秀な人材がいたとしても、社内に空きがないと採用できない。逆に採用したくなった時には良い人材の応募がないということはよくある。もう一つは決断力だ。平均的にレベルの高い人材を採用するか、多少バランスは悪くても突出したものを持つ人材に決めるか、この判断は難しい。近年、企業が無難な路線を選択することが多いのは、「博士号」を持つ特化型の人材を紹介した時である。
ポストドクターの転職を支援
「特に専門分野にこだわっているわけではありません。ただ、大学院時代からずっと同じ分野の研究しかしてこなかったので、何が得意なのかと問われるとどうしても研究テーマやその周辺の話をすることになります。そうすると、そこにこだわっていると思われてしまうようで……」
その日、転職相談に来ていたTさんは、大学院で博士号を取得後、いくつかの大学で有期の研究スタッフなどを務めてきたポストドクター(以下、ポスドク)の経験者だった。理系なので、その専門分野の知識を欲しがる企業もありそうな気がするが、基礎研究でのフィールドの実績がほとんどということもあって、実際に転職活動をしてみると、なかなかフィットする仕事がないのだという。
「給与は学部卒と同じでもまったく問題ありません。今のポスドクの仕事も決して高くはないですし」
人柄も希望も謙虚なTさんだが、転職活動で苦戦する理由は専門分野以外にもありそうだった。Tさんは現在30歳。企業に紹介した時に、「30歳まで一般企業での勤務経験がない」ということだけで、書類選考すらも通過しないケースがよくある。大学でずっと研究を続けてきた人材は、「専門にこだわりすぎて使いにくいのではないか」という企業の先入観はかなり強いようだ。
Tさん自身もそのあたりの事情はよくわかっているという。
「同じポスドクから一般企業に入社した知り合いも、就職するまでにかなり時間がかかったと話していました。今の研究室との契約があと半年残っていますが、その間に何とか可能性が見えればと思っています」
長期戦を覚悟してくれたTさんだったが、1ヵ月ほど経ったところで、とあるベンチャー企業の面接を受けることになった。Tさんの研究分野と近からずとも遠からず、といった環境関連の新技術を売り出そうとしている企業である。ベンチャー企業なので、創業者である社長とTさんの気が合えば一気に採用もあるのではないか――そう考えた私は、期待して面接の結果を待った。
面接後のTさんの感触も悪くなかった。
「非常に将来性のある技術を持っている企業だと思いました。これから勉強しなければならないことも多いと思いますが、まったく畑違いではないので、何とか追いつきたいと思います」
ところが、面接から一週間経ち、二週間経っても結果のフィードバックがない。企業側の人事担当者に確認しても、「Tさんの印象は良かったですよ。社長との面接も盛り上がっていたようです。ただ、社長が非常に忙しいもので、まだ全ての候補者の面接を終えていないんです」と言うばかりで進展がない。
私はTさんに事情を説明して待ってもらうしかなかった。