転職意思のない人材をその気にさせるのは、至難の業
人材紹介とヘッドハンティングの違い
コンサルタントの思惑通りにはいかない? 人材の「転職したい」という気持ちが重要
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大きなお世話だったのかもしれない
「以上が、弊社の商品の概要です。わかりにくい部分などありましたでしょうか」
商品説明トークを一通り聞いて、私はSさんの営業担当としての基礎がしっかりしていることを確認した。もう3年近く今の仕事をしているという。成績も悪くないようだ。優秀な若手人材であることに間違いない。

「よく理解できました。どうするかは少し考えさせてください。それと、せっかく人材紹介会社にお越しいただいたのだし、Sさんご自身のキャリアアップについてもお話ししていきませんか? Sさんのような営業経験者を欲しがっている優良企業はわりとあるんですよ」
Sさんにとって、私は見込み客である。心の中では「逆営業か」と思われたとしても、ここで私の話を聞かずに帰ることはできないはずだ。
「今すぐでなくても構いません。将来キャリアアップしたいと思った時に、思い出してください」
私は人材紹介のシステムを説明し、WEB画面を使った登録の仕方、さらには目ぼしい紹介先企業数社の求人票も手渡した。Sさんは「なるほど」と言いながら聞いている。現役バリバリということもあって、Sさんが早い時期に転職しそうかどうかは、その表情からは読み取れなかった。
その後も、私とSさんは時折メールを交換していた。しかし、私はもともと資産運用に手を出す気がなく、Sさんにも転職の意思がないのだから話は具体的には進まなかった。
そんなある日のこと。久しぶりにSさんからの電話を受けた。出てみるとSさんがものすごい声で叫んでいる。
「もしもし、Sです! 今ニューヨークの市場で○○がすごい勢いで値上がりしています!」
すぐに買えば利ざやが取れるという。「また上がった!早くしないと…」
声の勢いで「買います」と言わせたいのだろうが、そういうわけにもいかない。私はSさんの気分を害さないように、やんわりと断った。
部外者にはどんなにハードで辛そうな仕事に見えても、それに熱意を持って取り組んでいる人はたくさんいる。おそらくSさんも今の仕事にやりがいを感じているのだろう。将来はわからないが、今のSさんにキャリアアップを勧めるのは「大きなお世話」だったのかもしれない、と電話を切ってから私は思った。
そして、ヘッドハンティングのように転職意思のない人材に転職を決意させるには、そのための専門的なスキルと経験が必要だということを実感した。人材紹介はやはり基本に忠実に、あくまでも転職希望者の意思や希望を尊重していかなくてはならないのだ。
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