タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第44回】
キャリアオーナーシップ診断からはじめよう!
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
田中 研之輔さん
令和という新時代。かつてないほどに変化が求められる時代に、私たちはどこに向かって、いかに歩んでいけばいいのでしょうか。これからの<私>のキャリア形成と、人事という仕事で関わる<同僚たち>へのキャリア開発支援。このゼミでは、プロティアン・キャリア論をベースに、人生100年時代の「生き方と働き方」をインタラクティブなダイアローグを通じて、戦略的にデザインしていきます。
タナケン教授があなたの悩みに答えます!
「目の前の業務が忙しすぎて、これから先のことを考える余裕もありません」
「長年働いていますが、いまだに自分の強みがよくわかりません」
「このまま会社に求められていることを、ただこなしていくだけです」
「働くことがつまらない。嫌で仕方ありません」
「これからのキャリアがまったく見えません」
「どうすれば、前向きにこれからのキャリアを考えることができるのでしょうか?」
「もう仕事を辞めたい」
そんな声を耳にするたびに、胸が痛くなります。どうして働くことがネガティブな経験として認識されるようになったのでしょうか。
キャリアに悩むこと自体は決して悪いことではありません。長年、働く中で誰もがキャリアに悩むのではないでしょうか。しかし、何らかのきっかけをつかんで一歩を踏み出さない限り、状況は変わりません。状況を打開したいのであれば、キャリアの捉え方を変え、最初の一歩を踏み出すことが重要です。
「キャリアについて考えてみてと言われても、何をしたらいいのかわかりません」
今回のプロティアンゼミでは、この問いについて向き合っていきます。まず、私が伝えたいのは、「キャリアに悩む悪循環から、誰でも抜けだすことができる」という点です。
ただし、キャリアの悪循環から抜け出すためには、「キャリアを悩む状態から、キャリアを考える状態へと練習を重ね、キャリアを自ら形成するための行動を習慣化していく」ことが欠かせません。
「自らのキャリアについてこれまで考える機会がなかった」
「考える機会はあったものの、キャリアを考えることが苦手だ」
「キャリアについて考えても、何から始めたらよいかわからない」
「こうなりたいというぼんやりとしたイメージはあるものの、何をしていいのかわからない」
以上のような人に向けて、おすすめの考え方があります。それは、キャリアオーナーシップ(Career Ownership)です。
キャリアオーナーシップとは、「一人ひとりがやりがいを感じながら、自ら主体的にキャリア形成していく働き方や生き方」を意味します。自律的なキャリア形成に関する学術的知見であるプロティアン・キャリアとキャリアオーナーシップは、同義語と理解して、問題ありません。
人生の目標や価値観、スキルや能力、興味や好みなどを踏まえ、自分自身でキャリアの方向性を決定し、キャリアを形成していくことです。より端的にまとめるなら、キャリアオーナーシップは、組織にキャリアを預けるのではなくて、キャリアのオーナーとして日々を過ごしていく行動指針です。
キャリアオーナーシップを実現し、維持するには二つの側面からのキャリアオーナーシップが鍵になります。一つは、個人から捉えるキャリアオーナーシップです。もう一つは、組織から捉えるキャリアオーナーシップです。特に、組織から捉えるキャリアオーナーシップについては、第30回のプロティアンゼミでも解説しました。
個人から捉えるキャリアオーナーシップは、私たち一人ひとりが今日からできる持続的な行動がベースになります。また、組織から捉えるキャリアオーナーシップは、社員の一人ひとりのキャリアに寄り添う人事施策や研修、制度などが関連しています。
キャリアオーナーシップとは、社員が自分のキャリアのことだけを考えることではありません。社員一人ひとりの可能性を最大化させるために、組織が社内施策や制度、時には評価制度の改定に至るまで、中長期的に取り組んでいくこともキャリアオーナーシップには欠かせないのです。
キャリアオーナーシップ診断をやってみよう
キャリアの状態も、健康状態と同じように自分で把握するようにしましょう。キャリアオーナーシップに関する簡易診断表を作成したのでチェックしてみてください(複数選択可)。
No | チェック項目 | チェック欄 |
---|---|---|
1 | 仕事にやりがいを感じている | |
2 | ビジネスに関連する情報を積極的に収集している | |
3 | 職場における自分の役割がよくわかっている | |
4 | 上司や顧客から,どのくらいのレベルの仕事を求められているのかを理解している | |
5 | 業務遂行上の変化に対して迅速に対応している | |
6 | ビジネスパフォーマンスを高めるためのスキルを改善・開発している | |
7 | これからのビジネスキャリアを充実したものにしたい | |
8 | 組織の成長と個人の成長の両方を常に意識している | |
9 | 同僚や家族との関係性をより良いものにすることを心がけている | |
10 | 困難なことでも前向きに取り組むことができる | |
11 | 常に問題意識を持ち、問題解決に向けて行動している | |
12 | 自分に任せられたことは、自分の力でやり遂げようと努力している | |
13 | 人生設計や生き方に関する情報を積極的に収集している | |
14 | 自ら進んで、どんな人生を送っていくのかをデザインしている | |
15 | これからの人生を通じて、さらに自分自身を伸ばし高めていきたい |
15の設問項目のうち、いくつあてはまりましたか?
キャリアオーナーシップ3類型 | チェック数 | キャリアオーナーシップ行動状態 |
---|---|---|
キャリアオーナーシップ | 12点以上 | 組織を活かし、自ら主体的にキャリアを形成している |
セミキャリアオーナーシップ | 4–11点 | 業務を遂行しているが、組織に依存してキャリアを形成している |
ノンキャリアオーナーシップ | 3点以下 | 組織内に停滞し、自ら思うようにキャリア形成できていない |
3点以下であれば、「ノンキャリアオーナーシップ状態」であると言えます。組織内で仕事はしているものの、停滞状態にあり、自ら思うようにキャリア形成ができていない状況にあります。
4点〜11点は、「セミキャリアオーナーシップ状態」です。日々の業務は遂行していますが、主体的にキャリアを形成しているというよりも、組織の中にキャリアを預けて依存している傾向にあります。
12点以上であれば、「キャリアオーナーシップ状態」です。組織を活かし、自ら主体的にキャリアを形成できています。この状態をできるだけ長く持続できるように取り組んでいきましょう。
このようにキャリア状態を把握することで、日々取り組むべき課題がみえてきます。こちらの診断を2ヵ月に1度のペースで、定期的に行ってください。
それでは、キャリアオーナーシップについてより理解を深めていきましょう。
キャリアのオーナーになる
特別な能力・資格、上長の承認、予算の確保などは必要なく、あなた自身の心がけや行動で今日から必ずできることがあります。それはあなた自身のキャリアのオーナーになることです。では、「キャリアのオーナーになる」とは、どういうことなのでしょうか。
キャリアを考えるときに重要なポイントは、「難しく専門的に捉えすぎないこと」です。あなたなりに納得でき、行動に結びつけることができればいいのです。
例えば、不動産や車などがイメージしやすいでしょう。不動産や車を購入すれば、あなたはオーナーになります。不動産や車をできるだけいい状態を保つため、定期的にメンテナンスをするでしょう。
あなたのキャリアもまったく同じです。まず、あなたが自分自身のキャリアを大切にし、必要であれば、メンテナンスしていくのです。
「そうか、キャリアのオーナーとは、自らのキャリアの所有者となり、より良い状態をデザインしていくことなのか」と、なんとなく理解できたのではないでしょうか。
キャリアを考えるという行為は、過去や現在の状態を把握することだけではなく、未来の行動をデザインしていくことでもあるのです。ここで大切なポイントがあります。
キャリアとはあくまでも自分軸を起点に考える、ということです。
「受注できると思った案件がとれなかった」
「会社で思うような仕事をすることができない」
「上司が自分のことをしっかりと評価していない」
組織で働いていれば、毎日のように、あなたの心をざわつかせる出来事があります。そんな時、焦る必要はありません。
どんな状況におかれても、「自ら目の前の最善を尽くす」というのがキャリアを考える大前提です。会社で思うような結果が出ていなくても、「これからの人生を自ら台無しにしよう」とする人は一人もいません。より良い人生を謳歌するために、キャリアを考えるのです。
さあ、今日からキャリアオーナーシップ人生を過ごしていきましょう!
- 田中 研之輔
法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/明光キャリアアカデミー学長
たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学。社外取締役・社外顧問を31社歴任。個人投資家。著書27冊。『辞める研修辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』、『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』、『プロティアン教育』『新しいキャリアの見つけ方』、最新刊『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』など。日経ビジネス、日経STYLEほかメディア多数連載。プログラム開発・新規事業開発を得意とする。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。