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職場のモヤモヤ解決図鑑【第90回】
退職金制度の見直し
導入・運用のポイントを解説[前編を読む]

職場のモヤモヤ解決図鑑

自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!

漫画:職場のモヤモヤ解決図鑑【第90回】
吉田りな(よしだ りな)
吉田 りな(よしだ りな)
食品系の会社に勤める人事2年目の24才。主に経理・労務を担当。最近は担当を越えて人事の色々な仕事に興味が出てきた。仲間思いでたまに熱血!
石井 直樹(いしい なおき)
石井 直樹(いしい なおき)
人事労務や総務、経理の大ベテラン42歳。部長であり、吉田さんたちのよき理解者。

従業員の満足度を高めるため、新しい退職金制度を提案した吉田さん。定年まで勤め上げ、老後資金の足しにできることだけが退職金制度のメリットではありません。退職金制度は、時代とともに変化しています。現代の働く人々のニーズにあった、退職金制度の見直しのポイントをみていきましょう。

退職金制度のトレンド

近年の退職金制度のトレンドに、退職年金制度の見直しが挙げられます。退職年金制度には、受給額が決まっている「確定給付企業年金(DB)」、受給額が運用結果によって変動する「確定拠出年金(企業型)(DC)」のほか、中小企業退職金共済(中退共)、企業独自の年金制度など、さまざまな制度があります。企業が運用責任を持つ確定給付企業年金(DB)から、従業員が運用を行う企業型確定拠出年金(企業型DC)に移行するのが近年の流れです。

DBの給付水準の見直しや廃止が進んでいる

確定給付企業年金(DB)は、従業員にとって将来の受取額が明確というメリットがあります。企業にとっても税制優遇措置を受けられるメリットがありますが、金利低下や景気の低迷などによる経済環境の変化の影響を受けるため、積み立て金が不足すれば企業の資金負担が発生するリスクもあります。こうした年金資産のリスクを見直すため、給付水準の見直しや廃止が進んでいます。

企業型DCの普及:企業型DCの導入企業が増加している

企業の財務負担を軽減するために導入が進んでいるのが、企業型DCです。DCは、2022年3月末時点では42,669社が導入しています。厚生労働省による就労条件総合調査によれば、企業年金制度のある企業のうち、確定拠出年金を活用する割合は、2018年調査時点で5割に迫っており、企業任せから個人による年金原資の運用への移行が主流になりつつあります。

企業型DCのメリット・注意点

企業型DCは、企業が掛け金を積み立て、運用を従業員が行う退職年金制度です。規約に定めた場合は、従業員も掛け金の一部を拠出できます。企業型DCの特徴は、ポータビリティがある点です。転職で別の企業型DCに移行したり、逆に確定給付企業年金(DB)に移したりすることもできます。転職や退職によって掛け金が無駄になる心配がないため、従業員は安心して積み立てられます。

注意点としては、将来受け取れる金額が変動する点が挙げられます。加入者である従業員が運用に責任を負うことにより元本割れのリスクがあるため、企業には従業員への投資教育の実施が義務付けられています。企業DCで選択した資産配分や商品はいつでも変更が可能なので、ライフステージに合わせた定期的な運用の見直しを伝えるのもいいでしょう。

また、企業型DCは原則60歳まで引き出し不可です。一度申し込みをしたら年齢に達するまで引き出すことはできません。少額でも長期間、分散投資により、年金資産を積み立てられる制度といえます。

企業型DCのメリット・デメリットまとめ
従業員にとって 企業にとって
メリット
  • 残高を確認できる
  • 勤続3年以上であれば減額されない
  • 自身の資産のみ管理・運用できる
  • 退職給付会計の対象外となるため、退職給付債務が生じない
  • 他社の企業型DCから資産の受け入れが可能=人材確保につながる
  • 将来の掛金負担が安定的になる
デメリット
  • 資産運用を自ら行う必要がある
  • 価格変動が生じる
  • 原則として60歳以降しか受け取れない(中途退職時の受け取り不可)
  • 投資教育を継続的に実施する義務が生じる
  • 勤続3年以上の退職者(自己都合・懲戒解雇含む)の減額が不可

中小企業退職金共済制度(中退共)の加入促進

退職金制度の導入率が低い中小企業に対しては、政府が退職金制度の普及を図るため、中小企業退職金共済制度(中退共)の加入促進を行っています。中退共は国が作った退職金制度であり、国からの掛け金の補助が受けられます。資本金や従業員数といった条件を満たしている中小企業であれば加入が可能です。厚生労働省では10月を中退共の加入促進月間としています。

退職金制度の導入・変更・運用におけるポイント

退職金制度を導入したり、変更したりする際のポイントについて見てみましょう。

目的の明確化

退職金制度を導入・変更する目的を明確にします。「誰」のために「何」を目的とした退職金なのかを明確にすることがポイントです。「定年まで安心して働いてもらいたい」「社員の多様なキャリアを尊重したい」など、目的を踏まえて、自社の理想とする退職金制度を考える必要があります。制度によるメリット・デメリットを整理し、自社にとって当てはまるもの、そうでないものを選別するとよいでしょう。

制度設計のポイント

自社の状況に合わせて制度設計を行います。大きなポイントは、自社の従業員の年齢層と企業の財務状況です。退職金制度は長く運用するので、制度設計では持続可能性を重視する必要があります。企業の財務内容や将来のキャッシュ・フローの予想を勘案した中長期的なシミュレーションを参考に、退職金制度を設計します。

運用体制の構築

担当部署の設置、専門知識を持つ人材の育成を行います。就業規則や賃金規定の見直しも必要なため、運用を開始するまでのタスクを整理しておきます。加入者の情報や掛け金の登録をどのように取りまとめるかも確認します。

従業員への情報提供

従業員に退職金制度の内容を共有します。社内ポータルで共有したり、説明会を設けたり、従業員にわかりやすく伝えられる場を設けます。企業型DCのように、従業員が運用に責任を持つ制度では、従業員向けの投資教育が重要です。動画で情報を提供する、老後のシミュレーションを共有するなど、情報発信で従業員のリテラシ―向上をサポートします。

お役立ち書式文例
退職金制度の規定例です。就業規則とは独立して設ける形式となります。

退職金制度の規定

これからの退職金制度

雇用の流動化が進む現代では、在籍年数に合わせた退職金制度はなじまない組織もあります。これからの退職金制度を考える際は、従業員のニーズや、企業の持続的成長がポイントです。

たとえば、退職金制度をライフプランに応じた給付設計やポイント制退職金にしたり、個人型確定拠出年金(iDeCo)などと併用したりすることは、従業員の多様なニーズに応えることにつながります。成長中の組織では、企業への貢献が退職金計算に反映されるポイント制退職金は、従業員のモチベーション向上に寄与するでしょう。

これまでの退職金制度で問題のなかった企業でも、今後、数年〜十数年単位で退職を迎える従業員が増える場合、企業の財務状況に変化が出る可能性があります。組織の状況に応じた柔軟な運用とコスト削減を考慮することが、企業の持続的成長を支えます。

大きく変わる産業構造や、人材市場に合わせ、退職金制度を見直すことが企業ブランドの強化にもつながります。

【まとめ】

  • 財政状況を勘案し確定給付企業年金から企業型DCを導入・変更する企業が増加している
  • 企業型DCは、従業員の転職や退職によってこれまでの掛け金を持ち越せる
  • 従業員の貢献度に応じて退職金を計算するなど、勤続年数だけではない退職金制度を考えることが重要

提案が承認されたことだし、この先は運用の具体化に向けて取り組まないとね

就業規則を変更したり、従業員に説明したり、いろいろありますね。がんばります!

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

職場のモヤモヤ解決図鑑【第89回】 退職金制度って結局どんな制度? 種類や運用の課題を解説
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この記事ジャンル 退職金

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【用語解説 人事辞典】
退職金
諭旨解雇
ESOP
役員退職慰労金
退職金前払い制度
確定拠出年金