職場のモヤモヤ解決図鑑
【第2回】 1on1で、ついつい上司ばかりが話してしまった
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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志田 徹(しだ とおる)
都内メーカー勤務の35才。営業主任で夏樹の上司。頼りないが根は真面目。口癖は「う~ん…(無言)」
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児玉 夏樹(こだま なつき)
社会人3年目の25才。志田の部下。ネットとサブカルが好き。仕事はビジネスライクにこなす。
志田さんは1on1を終えて満足そうですが、児玉さんの不満顔に気づいているのでしょうか。アイスブレイクで仕事の話題を振るなど志田さんも頑張っていましたが、まだ改善点があるようです。1on1を振り返ってみると、志田さんが一方的に話しただけで終わっています。どうやら、ここに反省点がありそうです。
部下が自ら振り返り、自ら前に進む力を育てる
上司と部下がお互いに1対1の時間の重要性を理解し、距離感を縮めることができたら、あらためて1on1の意義について考えてみましょう。1on1の目的は、業務やキャリアに関する悩み解決、モチベーションの向上など、企業によってさまざま。しかし、どんな目的があっても、1on1で上司が心がけることは同じです。
それは「1on1では部下が自ら行動を振り返り、次の行動を決める」ということです。志田さんのように、私たちは人に相談されると、ついつい「自分の経験を話そう」「自分の意見を言おう」と考えてしまいます。しかし、人は他人から言われるよりも自分で気づいた方が、身につくことが多いものです。
「それなら上司と1on1をしなくても、部下が自分で振り返ればいいじゃないか」という意見もあるかもしれません。しかし、一人で考えられることには限界があります。そんなとき、聞いてくれる人がいるだけで安心ですし、その人がいいあいづちを打ってくれれば、ヒントや解決策に気づきやすくなります。
ではここで、上手に部下の考えを引き出す会話例を見ていきましょう。
上司:担当しているプロジェクトの状況はどうかな?
部下:はい。実は……あんまりうまくいっていないんです。
上司:具体的にどんな問題があるの?
部下:うーん、いろいろと原因はあると思うんですけど、私もいろいろと忙しくて分析できていないというか……。
上司:…………。
部下:あっ、特に大きいのはデータの集計が遅れていることだと思います。データ待ちで止まっている仕事が多くて……。担当している○○さんの仕事が遅いんですよ。
上司:データの集計が滞っているんだね。
部下:はい。締切は伝えているんですけど、ちゃんと認識できていないのかな。
上司:締切を把握していない可能性がある、と。
部下:はい……あ、そうか。私からしっかりと伝えていなかったかもしれません。いま思うと、その後のリマインドもできていなかったですね。
上司:じゃあ、これからはどうしようか。
部下:まずは○○さんに直接話してみます。データの期日だけじゃなくて、他のメンバーがデータを待っていることも。あと、この機会にあらためて、プロジェクトの全体像を確認しあいたいと思います。
上司:プロジェクトのリーダーとしてがんばってね!
部下:はい、ありがとうございます! ところで、実はほかにも聞いてほしいことがありまして……。(以下続く)
この部下は、自分で行動を振り返り、次に進むことができたようです。上司は何を意識したのでしょうか。
沈黙して待つ
まずは、「沈黙して待つ」こと。沈黙が続いている時間は、部下が考えている時間です。「振り返る」力を育てるのに、最も重要な時間といっても過言ではありません。気まずさを感じて、あなたが答えを教えてしまうのはNGです。沈黙にはあえて沈黙で返します。いずれ、「沈黙すら許される」という雰囲気をつくることもできるでしょう。そうなれば、あなたと部下の間には高度な信頼関係ができてきたといえます。
中立的な表現で返す
次に、「中立的な表現で返す」こと。ときに人は感情的な表現をします。部下の「データ集計担当者の仕事が遅い」と少し怒りがこもった言葉に、上司は「データの集計が滞っている」とあえて事実だけを返しました。冷静に頭の中を整理するよう促すには、上司が感情を排した表現に「言い換える」ことが必要です。
行動で終わる
1on1を通じて部下が前に進むためには、「行動で終わる」ことが重要。「これからどうしようか」と問いかけ、部下が行動を具体的に話すことで、「前に進む」ことができるのです。
部下があまり積極的でない……そんなときは
せっかく上司が技術を身につけても、部下に積極性がなければただ時間が過ぎ行くだけ……。そんなときは、まず上司の側からお互いにやることをはっきりさせましょう。
上司:この時間は、あなたがいろいろなことを振り返ることで、次につなげていく時間にしたい。私は、できるだけアドバイスしないようにします。自分で考え抜いてみてください。考え抜いたら最後に、「次にどんな行動をするか」だけ、はっきりと決めましょう。
- 沈黙=部下が考えている時間 気まずさに負けず、沈黙で待とう!
- 中立的な返答が部下の思考整理を促すコツ
- 部下が前に進めるよう、次にする行動を決めよう
部下の考えを引き出すのにも、こんな方法論があるのか。でも、うまくできるかな。
何か不安があるんですか?
つい一つのことに集中してしまうんだ。
…………。
……そうか!全部やろうとするから大変なんだ。まずは沈黙から意識するぞ!
次の行動が決まりましたね!(立場が逆転しているような……)
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参考書籍
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プロカウンセラーが教えるはじめての傾聴術
著者:古宮 昇
出版社:PHP研究所
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フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術
著者:中原淳
出版社:PHP研究所
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ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
著者:本間浩輔
出版社:ダイヤモンド社
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もう、その話し方では通じません。
著者:藤原和博
出版社: KADOKAWA
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